乙女ゲームのヒロインに転生してはいけない女がヒロインになってしまった場合
この度、変な病気にかかってから乙女ゲームのヒロインに転生しちゃったけど、申し訳ないがキラキライケメンはお呼びじゃないんだわ。
私の趣味は煙草が似合う退廃的な雰囲気の無精ひげが似合う男性か、私をさん付けして呼んできながらため口で甘えてくるけどいざという時に頼りになる系の平凡顔の年下なんだよね。
キラキラしているイケメンとか、妬まれることが決まってる男を好きになるほど私は心が広くない。妬まれることの決まった人生なんぞ御免である。
それと私は男女どっちでも行けるんだよねこれが。両刀使いなんだよねこれが。
頑張ってる女の子は可愛くてついかまってしまうんだよねこれが。
調子に乗ってる女の子とかわい子ぶってる女の子はちょっと守備範囲の外。
なので自分からそんな調子に乗ったりかわい子ぶったりするわけがないという。自分が好きになれそうにない女子になれるわけがないという。
乙女ゲームの背景となったのはどこにでもありそうな魔法学園である。
貴族子女が集まって魔法の力を暴走しないように学ぶという。
領民の生活のために魔法の力を習得することを頑張るという王道展開である。
ヒロインは貧乏男爵領地の娘で、爽やかなイケメンたちにぶりっ子しながらアタックするという。
無垢な乙女を演じるなんて私にできるわけがない。私は無垢なんぞ生まれてから3秒くらい経ったころに捨てたんだよねこれが。
2000年代のネットは荒れてたからね。荒れてたというか、英語を幼いころから学ばされたおかげで英語で検索して色んな画像を英語で探してみたりしていたんだよね。そのころに何があったかって、あれだよ。イラク戦争から続くテロリズムにつながるあの、斬首動画とかそんな感じの。
それだけじゃない。アメリカ人はやばいんだよね色々。それはもういろいろ。色んな画像がありましたよ。今アメリカでアップロードしたらすぐにでもFBIがおうち訪問してくれる。
なぜ見ちゃったんだ私。変にグロ耐性も付いた。ホラー映画鑑賞が趣味になってしまった。
学校では隅っこに座って陰鬱な雰囲気を醸し出していたさ。陰キャとか超えて、触らぬ神に祟りなしとまで呼ばれていたさ。
刺青を入れて、ピアスをして、ギターを学んでロック演奏を楽しんでいたさ。
ビジュアル系は好きだった。それはどうでもいいか。
そんな私、純真無垢な乙女とか何の冗談ですかと。
勉強しながら同年代の頑張ってる女の子を口説くかと。
年下の、さん付けして呼んできながらため口で甘えてくるけどいざという時に頼りになる系の平凡顔の男性とか。そんな、どこにいるのかもわからない男の子なんて探して見つけられるわけがない。そもそも貴族の顔というか、この世界の連中は美男美女がデフォルトで、貴族はもうそれはモブでもあれでいいのかという。
深くかかわったら私の心に潜む闇を解き放ち、いやなことになりそうだからやめておくでござる。
なぜか原作では基本属性が光で治癒魔法が得意なはずのヒロインである私の属性は闇で、睡眠誘導などの精神操作が得意となってるし。いやマジでやめて。私は別に黒幕になりたいんじゃない。悪役令嬢?彼女は氷魔法が得意な冷たい雰囲気の美女でござる。転生したわけではなさそうだ。
原作でも別に悪いことはしていない。ただ立ちはだかって、彼女の婚約者である王子を攻略したらフェイドアウトして、領地に戻ってから修道院に入って一生を暮らしたなんてことになっていたけど。
普通に王子と幸せになればいいんじゃないかなと。
授業は順調に進んだ。気分は某世界的に有名な魔法学校を舞台にした小説で四つの寮の中で一つに入った気分。私の性格からして多分鷲寮だと思う。消去法だけど。
野心なんてない、知らない人となれ合うのは御免、猪突猛進とかいたずらとか面倒くさそう。
別にこの学園は寮を四つに分けてはいないけど。
授業は恙なく進んだ。私は闇魔法が得意なことから国の暗部から接触があったけどそれだけ。
「入ってみないか。きっとぴったりな仕事があるぞ。」なんて無精ひげの退廃的な雰囲気のする煙草が似合いそうな見た目30代ほどの男性に言われたら入りたい気持ちが少しはわかなくもない。
それで聞いてみた。
「今付き合ってる人いますか。それか生徒と一晩過ごすことに罪悪感は感じませんか?」
「ああ?なんだ?まさか俺に惚れたのか?」
私はにやりと笑った。その日のうちに処女じゃなくなった。これでシナリオはもう終わりである。
性欲は有り余っていたので丁度よかった。暗部に入ることが決まってしまった。
誰だこんな私を乙女ゲームのヒロインに転生させた奴は。人選の間違いにもほどがある。
私に話をふった人は侯爵家の三男らしい。別に結婚を迫るつもりはない。私は良識のある現代人だったのである。一回やったくらいで結婚して責任取らないと自殺するぞごらぁ、とか、良識のある中世の貴族みたいなことはしない。
闇魔法を極めることは私にとって一つの目標になっていた。だから鷲寮がいいと。変身術はないのか。私は鳥にもなって空を飛びたいのでござる。
箒は別にいい。変身術にあこがれているのは私だけじゃないはずである。
死んだら絶対あの世界へ行ってやる。1学年にネズミを捕まえて校長に突き出せばなんかいい感じにまとまるだろう。
そんな、ゴブリンを現実のどの人種のメタファーとして描いているか聞いてはいけないあの作品のことは別にいいとして。
学校生活は勉学と退廃的なおじさんとのセックスで充実していた。退廃的なおじさんとセックスをしたい時は暗部の仕事の勉強を週に一回やってるんだけど、その日に勉強を教えてくれるのがその侯爵家三男の暗部のおじさんなので。
煙草がこの世界にあったら絶対似合うと思う。私も吸って退廃的になるぜよ。だがなかったので仕方ない。マリファナっぽいのはあったけどさすがにそれには手を出したくないのでござる。ヒッピーじゃないので。私の精神は退廃的なものを好むようにできているのである。ヒッピーは結局はキラキラなのだ。マリファナを吸ったら瞳孔が開いてキラキラとなるのである。
効果音がする。キラキラって。
趣味?また陰鬱な雰囲気を極めている私がなれ合わないといけない趣味生活なんてするわけがない。
ロックだぜ!ヒャッハー!とか。やってみたい気はなくはないけど。
じゃあエレキギターをよこせ。ソウルが叫んでいる。声の力でぶっ飛ばしてやるぜ。
だがソウルは話さない。静かである。キラキラした貴族どもは私の退廃的な生活なんぞ想像もつかないはずである。
ある日、私はそこそこ闇魔法を極めたので、暗部の仕事に駆り出されるようになった。学生の身分ながら仕事なんて、つかえるお金が増えたらどうしようかともうやってもないのに迷う。
隣国のスパイを歩きながら探すのである。別にスパイだからと背中に俺がスパイですぜ旦那、なんて書いているわけでもないんだからさ。
目印となるものもないのにどうやって探そうというのか。
まあ、闇魔法で探すんだけどね。
闇魔法には特定の対象に向けてしか発動しないような系の条件付けのものが結構あるのだ。
別にこっちが知っているわけでもないのに、スパイは全部眠って、と念じたら私の魔法の範囲内にいる人は全部眠りにつく。
これで二人も見つけて大手柄である。
おじさんにご褒美セックスを頼んで楽しんでから寮に帰った。腰が痛いぜ。
おじさん十代の少女相手に容赦しないんだから。
闇魔法にも回復魔法はある。回復ではなく、再生だけど。極めたら欠損しても肌が盛り上がって筋肉とか血管とか再生されるのである。
対価として同程度の肉が必要だが。魔力ももちろん使うが。
だけど、この時の私は知らんかったのだ。
自分が年齢に似合わない退廃的な生活で淫靡な香りを漂わせ始めたことを。
当然周りはみんな小娘なんですから、そんな見た目だけよくてもね。娼婦のような淫蕩なエロさなんて持ってないんだわこれが。
ゴスロリとロックなメークをしていた前世でも結構エロいと周りから言われていた。そりゃね。退廃的な生活をしていたからね。
なぜ私がさん付けして呼んできながらため口で甘えてくるけどいざという時に頼りになる系の平凡顔の年下が好きなのかというと、たいていはこんな感じの子は絶倫なので。いや全員が全員そうということはないかもしれんが。いやマジで知らんって。責任取れないって。
彼氏だったかセフレだったかは自分でも定かではないんだけど、やりまくったらエロくなるよそりゃ。
まあ、それで婚約者をないがしろにしがちな攻略対象の連中の目にも留まったわけである。
「お前、面白い女だな。」とか炎魔法が得意な俺様王子に呼ばれてもこっちは面白くないんだよねこれが。
「そうですか。」私はそれだけ言って去ったけど、次の日から壁ドンやらあごくいやらされまくるようになって、嫌がらせの嵐ががが…。
来ることはなかった。
私はなぜか女子にもモテていたので。逆に攻略対象の連中が嫌われるようになったのである。それはなぜか。
原作でピンクブロンドだった髪の毛は光属性ではなく闇属性になったため深海のような、青みかかった黒に変わってて。伸びると管理するの面倒だからショートカットにしていて、辺境出身なのでもう山を駆け回ったわけですよ。
運動は得意である。すると筋肉もついて体格も大きくなる。別に男を超えたりはしないが、それでも同じ女子からしたらね。私は両刀使いなのでね。頑張ってる女の子は放っておけない。健気で優しい子はかまってかまってかまいまくった。
勉強を教えたり、魔法の授業で怪我とかしたら、大丈夫かいとイケメンスマイルを浮かべたわけである。
この年の女の子はね、エゴの塊なプライドだけ高いイケメンより、自分に優しくしてくれる格好いいお姉さまにあこがれるもんなんですよ。
年取ると変わるが。まあ、あれだ。思春期ってやつだ。
私も随分と可愛がってやったのである。陰鬱な雰囲気はどこ行った。だが私の性欲の前には無意味である。食わないけど。そりゃ貴族なんだから、食ったら大問題になるのである。脱がして吸い付くなんてできないのである。前世ではよくやったけどできない。たまにあの味と匂いが恋しくなる。生々しい話はこれくらいにしよう。
だが性欲はあるんだから仕方がない。さわやかにはいかないが陰のあるスマイルで乙女たちを撃沈させるのである。
まあ、と言っても。あれだ。
未来の王妃様はご立腹、というか、危機感感じているのかな。突っかかってくるというか、子猫がじゃれるような感じしかしないけど。放課後に呼び出された。空き教室で二人きりである。
「なぜ彼らの接近を許しているんですか。」なんて、私に言われてもね。
「じゃあ突き飛ばせばいいの?」
相手は自分より高位の貴族ではあるけど、魔法学校内では別に気にしなくてもいい。魔法の力が強い世界では身分は二の次なのである。
「そういうことを言っているのではありません。相手に婚約者がいるのをわかっているのでしょう、こちらでいさめるにも限界がありますから…。あなたの方でそうしてくれることを期待しているのです。」
なんか理不尽。
なんでこの年の子供たちってこうもややこしく物事を捉えがちなのか、面倒くさくてたまらない。
「あのさ。」
私は彼女の顎をくいっと持ち上げる。
「じゃあ君も抵抗してみてよ。」
私は噛みつかれてもかまわないと、このプラチナ色の美しい公爵令嬢の、高嶺の花に触れてみたくなって。
ちゅっと口づけした。
「っんん??!!」
どこまでいけるか気になったので舌で唇を舐めたら開けてくれて、彼女の口の中に舌を入れて中を味わう。甘い。比ゆ的な意味じゃなくて、クッキーでも食べたのかなと。味が残ってるし。チョコレートの味である。ファーストキスだけにかい。
いや、私のファーストキスは暗部のおじさんにとっくの昔に奪われたが。
息ができないみたいなので離す。
「ほら、できなかったんでしょうが。」
顔が真っ赤だ。可愛い。
いや、これどうしよう。ついやっちゃったけど。悪役令嬢を物理的に屈服させるヒロインってどうなの。
私ですが。
「こ、こんな…。こんなことをして…。」
わなわなと震えている。
「た、ただで済ませられると…。」
そういおうとした公爵令嬢の腰が抜けてしまうところで支える。
「ごめん、やりすぎた。」
目と目が合う。うるんだ瞳がたまらないが。
持ち帰ったらダメかな。味見したいんだけどダメかな。
「う、うるさいです。こんな…。」
私はたまらずまた口づけをした。
「鼻で息をして。」
彼女は私の胸を弱弱しい力で叩いていたけど、徐々にそれもなくなって、私の首に両腕を回してきた。
これも青春ってやつである。
まあ、それで、退学になった。
教師が見ていたようで。
不純同性交遊は退学なんだって。
なんじゃそりゃ。
乙女ゲームだから不純異性交遊はよくて不純同性交遊はだめと。
ふざけるな…。と思ったんだけど。
「ああ…。はい。今年から教師になった。ライラ・フィッツジェラルドだ。」フィッツジェラルドは私の夫となったフィッツジェラルド侯爵の苗字である。
暗部って、この国での発言権は何気に強いみたいで、私がそんな理不尽を経験したという話を聞いて激怒した退廃おじさんが私を学校に戻してくれたのである。教師として。
いや確かに理不尽だとは思ったけれども。
別に学校に執着していたわけでもないんだからさ。
学校なんて魔法を学べる手段しかなかったのである。
闇魔法を極めすぎた?
今この国で私より闇魔法を極めた人はいない?
なんじゃそりゃ。
だから私は鷲寮に入るべきなんですよ。いやそれはもういい。
国からもスパイやら不穏分子やら、ことが起きる前に捕まることができて大満足とのこと。
王様から勲章ももらったよ。
めっちゃキラキラしている。制服の内側に着けることにした。暗部の制服です。
暗部なのに制服きたらバレバレじゃないかって話だけど。
まあ、暗部と言っても正式な部隊なわけだし。
別に隠しているのは暗部が暗部である事実だけで、軍の一部であるのは同じだからね。
今の私は階級として准将といったところ。いやいや。たかが10代の小娘が昇進しすぎ。
貴族爵位までもらってるし。伯爵である。私自身が、伯爵である。
まあ、この原作となる乙女ゲームでも国を巻き込む巨大な陰謀があるわけなんだけど。それを一網打尽にしちゃったんだから、それの対価として、隣国とも通じていた貴族も粛正されて、それで空いた伯爵領の一つをもらってそのまま伯爵になるって話も、納得できなくもないんだけれども。
だって原作知識持ってたら誰だって陰謀とか防ぎたくなるじゃん。絶対にネズミは一年生の時に捕まえるに決まってるじゃん。
そうしないほうがおかしいって。
そんなことを訴えても誰も聞いちゃくれない。
そういやあの公爵令嬢は、私が無理やり迫ったということで退学にはならなかった。
そりゃ庇うよ。頑張ってる女の子は庇うもんなんですよ。犠牲になってもそれは犠牲ではない。本望ってやつである。
成し遂げたってやつである。
彼女はなぜかそれから王子様との婚約が破談になったみたいで。
いや、なぜかではない。
彼女から婚約の解消を申し込んで、王子もそれに賛成して円満に関係が終わったんだとさ。
乙女ゲームどこ行った。
そもそも彼女はあまり俺様系の王子様なんてあまり好みじゃなかったという話か。
教師になって戻ってきた私は彼女に呼び出された。ちなみに不純同性交遊による退学云々の校則は私の夫が校長を脅して廃止できた。おじさん強いからね。陰渡りとかできちゃう凄腕の魔法使いなんだからね。暗部を統括しているからね。侯爵家の三男だけど、私と陰謀を防いだおかげで侯爵の爵位をもらってるからね。
おじさんとのセックスは相変わらず気持ちいいからね。
それで放課後にまた空き教室に呼ばれたけど、今度は無問題である。
「あの…。」またうるんだ瞳でこっちを見ている公爵令嬢アデリーナ。
もう何を迷うことがある。私は教室全体に暗幕の魔法をかけ、外から見れないようにして、彼女を押し倒した。
浮気になるんじゃないかって?
いやまあ。
そうかもしれない。
乙女ゲームのヒロインに転生してはいけない奴が転生してしまったけど、毎日こうやって充実しているのである。
おしまい