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スーサイドと死神クローバー

作者: 澪華 零

 いじめられ、生きづらくなって、自分を愛せない君へ

 もう大丈夫。私が幸せにしてあげるから


***


 ガンっと手が誰かに捕まれた。身体が地面に後何メートルかで叩きつけられると思ったのに、今まで落下していた速さがグッと減速する。夏の生ぬるい風が私の体をまとわりつくように抜ける。顔を掴んだ人物に上げると

そこには、茶色と黒色の間ぐらいな髪の毛に翡翠色の綺麗な緑目。そして黒い花の髪飾りにつけた女の子がいた。


「はぁ…はぁ…やっと追い付いた…」

「……どうして…」

「はいっ!ちょっと、みんな手伝って!引っ張るよ」


 私の言葉を遮り、その女の子は誰かに指示した。するとお兄さんとさっきの女の子と同じ年齢ぐらいの女の子が私の手をぐんっと引っ張りあげ、校舎の廊下に引きずり込まれた。


「まったく……本当に陽菜は見つけるのが上手ね」

「疲れたでしょう?休みなよ?」

「えへへ~!あ、叶ちゃん、晴くんありがと!」


 叶と呼ばれた黒い服を着ていて背中には小さな悪魔の翼を持つ女の子と、晴と呼ばれた白と金の装飾を施した明るい白色の服を着ていて背中には大きな天使の翼を持つお兄さん。そしてさっき掴んだ相手、暗い灰色の長めの紐なしのパーカーに黒と白の長めの全身が隠れるようなロープを着ているその少女は陽菜と言われていた


「あの…」

「ごめんね!色々ごちゃごちゃしてて!もう少し待ってて?」

「……」


 何が何だか分からない私に陽菜は叶と晴さんに何かいい、二人はその場をあとにした。二人に大きく手を降って笑顔の陽菜。私の回りにはいつしか沢山の人だかりができていて、スマホを向ける者や私の姿を見てくすくす嗤う……嗤う…あの人たちもいた。

 私は思わずびくっと怯えてしまう。それを見かねた周りも一気に察したのか口々に言い始めた。そのなかには先生もいた。


「ま~たあいつ未遂したの?早く死んでくれない?」

「毎回毎回さぁ~迷惑なんだよ」

「また?いい加減にしてくださる?」


 聞かないように意識を別に持っていこうしても強制的に入ってくる罵詈雑言。何故か今日は泣きそうになってしまった。いつもは泣かないのに。一人の生徒が私の髪を掴み面白がるように覗き込もうとしたその瞬間。


「~~!!??」


 ザッと何が肉が切れた音の後周りの人だかりの顔に血が降りかかる。後ろを向いていた私は前を向いた。そこに立っていたのは、さっきまで手を降っていた陽菜だった。彼女が手にもつ大きな鎌には血が垂れている。周りの人だかりは悲鳴をあげ何メートルも離れた。それを静かに睨みつけた彼女は低く地を這うような声でこう言った。


「……無慈悲。哀れ。滑稽」


 一瞬の怯みはあったもののそれしか言わなかった彼女に次々とヤジを投げつける。私は座り込んでその様子をただ見るしかなかった。それ以上に夢だと思った……助けられた事に。

 

「な、何がだよ…!お前がだろ!」

「そうよ!!というか殺人よ殺人!?」

「警察、だ、誰か警察…!!」


 慌ててパニック状態になる先生と生徒達。ぐちゃぐちゃと声が混じり頭が痛くなってくる。心を見透かしたみたく気付いた陽菜は、それを鎮めるかのように大きい鎌を上に振り上げ、彼女の前で悶え倒れている生徒の心臓目掛けて振り下ろした。血が窓やらドアにべっとりとつき、あたりは鉄の匂いで満たさせる。廊下にはヒビが入り大鎌が陽菜が手を離しても自立するぐらいに突き刺さっていた。


「き、君は…!!な、何するん」

「あ〜あ無様だなぁ!!!!」


 突然の大声に私と陽菜の以外の全員がビクつく。その様子を見た陽菜は廊下の地面から鎌を抜き、コツコツと靴を鳴らし、静かに人だかりに歩み始めた。私の元に向かう人は、陽菜が選んだのだろう。優しい子と思われる人以外次々に抹殺されていく。それも手を使わずに。…まるでさっき心臓に突き立てた位置から、所謂結界が張ってあるかのようだ。


「1人の女の子に寄ってたかって…それも生徒も守るべき教師もですか……流石は自殺隠蔽する成績優秀有名校!屑の格が違いますねぇ〜」


 彼女の背を見ているため表情は読み取れないが、何やら楽しんでいる感じがする。そして陽菜はこの学校が隠蔽した自殺やいじめの事件。正確に被害にあった生徒や先生の名前を挙げていく。今の校長が全て関わっている事も何もかも全て。


「ひぃぃ〜ゆ、許してくれ…!!この通りだ…!」

「土下座なんて甘いですよ〜校長〜今までどれだけの生徒や先生が犠牲なったと思います??」

「あ…あれは!そもそもいじめられるあいつらが悪いんだ!!私の校風に反し」


 土下座状態なのにさらにガンッと頭が強く廊下に叩きつけられる。陽菜はグリグリと校長の頭を靴で押して何やら言った。校長は今までにないぐらい蒼白していて、ついに倒れてしまった。大きなため息をついた陽菜は、その後ろにいる人達にこう言った。


「さぁ、どうしましょう?今すぐ自殺しますか??こんな胸糞悪い学校は稀なんです〜それなら貴方達が見下している、もう取り壊されたけど、低レベルの学校の方がよっぽど良いです!!……あの後、すぐに改善されたし、私が監視しなくても大丈夫になりましたから」


 後ろの方に振り向いた陽菜は、私に慈しんだ笑みを浮かべ優しい目を向ける。そうだ…私は2年前、今のこの時期に高校が見下していた低レベルの学校が取り壊され移ってきた転入したのだ。陽菜が関係していたのは前の先輩方だったらしく分からなかった……そんな事があったんだ…。そして陽菜は再び前を向いた。


「選ばないのなら……みーんなまとめて私に殺されちゃいましょうか♪」


 ばんっと勢い良く飛び出した陽菜は大勢の生徒や先生たちに目掛けて大鎌を振り下ろそうとしている。思わず目をつぶり目を背けた。しかし、いつまでたっても音が聞こえない。ゆっくりと目を開けると、そこには


「……やりすぎだ。この阿保」

「邪魔すんな!!!良いだろうが!!」

「良くねぇよ……ったく…」


 目の瞳孔が開き殺意が溢れてでいる陽菜に対し、涼しい顔をして陽菜に手をかざした男の人がいた。動きを止めているみたいだ。…さっきの晴とはまた違う感じ。洋服は似ているけど金とオフホワイトな色なロープ。背中に背負っている鎌も白っぽい。首元には枯れた青色の勿忘草のペンダントをしている。陽菜とは正反対だ。


「……落ち着け。またお前息苦しく…はぁ…言わんこっちゃない」

「うるさい!!!……っ」


 倒れかかった陽菜はそのまま眠っていた。男の人は彼女を抱き上げて私に来るように言った。辺りは困惑していて静寂が流れる。そのまま立ち去る私に背を向けた男の人は一言、そういうことだと冷たく言い、私たちはその場をあとにした。


◆◆◆

「起きたか?……起きて早々武器振るなよ陽菜」

「るっせぇなぁ……」


 舌打ちしながら大鎌を死角から振り下ろす。事ある毎に毎回仕事をこいつ…私と対の存在な律に止められるので、殺意全開で「こいつ死なないし、いっそ斬り殺そうか」なんて考えは呆気なく読まれてまんまと止められてしまった。次は確実にこいつを斬る。


「あの……」

「あっ…ご、ごめんね!?つい…」

「なんだよついって…」

「黙れ、この仕事横取り野郎が」


 思わずいつもの癖で出る殺意に圧倒されたのか彼女は怯えた顔で話しかけた。倒れる前の前の雰囲気に戻して…も、戻して話した。ここは空き教室らしくクーラーも効いてる。あいつはああいうことは気を使うから憎めないけどムカつくので毒吐いた。暫しの静寂の後、私は彼女にどうして見つけて助けたのかの経緯を説明した。そして私と律は対の存在である事も。説明している間彼女は光のない目で私たちを見つめていたものの、相槌をしていた。


「……私の仕事は依頼者の命を狩る代わりに願いを叶える事。まぁ色々制約はあるけど過去に戻るものありなんだ!こいつは現在と未来」

「そうなんですね…」


 彼女の願いを私はもうすでに把握済み。手を掴んだ瞬間、視えたから。どうにも救われない無慈悲な願いを。


「…願いはなぁに?言ってごらん?」

「……はい」


 出来るだけ優しく笑顔で問いかける。怯えていては本来の願いと違くなる。……その人の願いを叶えてしまえば二度ともう一度願いを私は叶えられない「規則」になっているから。

 彼女は何か迷っていて数分程目を泳がしていた。その目は罪悪感とでも何処か燃え盛る復讐の目。そして何かを決めたのか、少し息を吸って今まで言えなかった気持ちを吐き出す声ではっきりとした声で言った。


「_______私はいじめっ子を殺す。そしたら陽菜、私を殺して」

「……承諾した。…では契約だ」


 私がそう言うと大鎌からシロツメクサの蔦が数本彼女の前に伸び右の手首に巻き付く。強めに締めた後手首にはシロツメクサの痕がついていた。その最中、びっくりした様子で私を見つめていたが、吹っ切れたらしい。何処か安堵しているその表情に私も微笑を浮かべる。

 

「どこに行くにしても何をするにしても君次第だ。過去にいる奴らを殺そうが犯罪にはならない。あぁ、もし警察来ても無視で良い。私達の規定で決まってるからな」

「…分かりました」


 心を決めた彼女に私は再度二言は通用しないと確認する。律には彼女を守れと命じようとしたが、今回は私が行くことにした。代わりにここを護れと。対な存在以上先輩後輩関係ないからこういうことも出来るのだ。

 過去に戻るには本当に久しぶりだから、体力がかなり消耗しながらもなんとか過去に戻る扉を完成させた。西洋風な翡翠色の扉に周りには黒い華が存在を示すようにふわふわと漂っている。

 彼女の行く先は律が聞いてくれた。なんでも大切な人がいない、彼女が中3の時の年のみ。たった一つだけの時期を決めるのは契約者のなかではかなり珍しい。流石の律も驚いていた。何口か会話をした後、律は私に目配せし合図を送った。私は大きく深呼吸をし気持ちを改め、彼女の方へ向かい合うように向いた。


「……君は自分の殺したい奴を殺せ。……君の怖がらせ者は私が殺す」

「で、でも…っ」

「慈悲をかけるのは君以外にいると思うか?……不思議にも、君は無意識に慈悲をかけたい人達がいない時間帯を選んでいる。大丈夫だ、私はそんな奴に臆する者ではない。…これ以上に酷い奴らは見てきてきたからもう慣れっこだ」


 私は安心させるように心からの笑みを浮かべると、彼女は肩の力がストンと抜けそのまま体も一緒に倒れかける。それを律が支え、近くの椅子にすわらせた。暫くして彼女は覚悟を決めたのか立ち上がりぐっと拳を握り、私の目を真っ直ぐ見た。


「……お願いします」

「…あぁ。思う存分楽しもうじゃないか」

「はい」


 彼女は後ろを向いて律に丁寧にお辞儀をしお礼を言う。律は初めは吃驚していたものの、ふっと笑い彼女の頭を優しく撫でた。その状況に私も彼もほっこりする。

その気持ちのまま扉の向こうにいこうとしたその時だった。

 バタバタと大勢の足音が廊下に響き渡る。その足音は次第に近くなり、私達がいる教室の前に来た。一足先に来たがたいの良い男性教師は彼女と私の目が合うと体をなめるように一瞬見て、ニヤリとした。彼女の身に何が起きたのかすぐにわかった。


 恐怖で震えてい私は彼女を背中に隠しながらそいつを睨み付けようとするが律に止められる。他の先生が来た時そいつは先生の顔になって、そいつは大声で叫んだ


「おい!!何してるんだ!!彼女を返しなさ」

「彼女の処女を無理やり奪ったらしいな……お前。それも学校内の大勢の前で」


 律の鋭い目付きと内容に辺りが騒然となる。何も反論する人はいない。辺りにいる男性教師達は皆、そいつと同じ顔をしていた。


「なっ……変な言い掛かりは止しなさい!!」

「その目を見りゃわかる。バレないと思ったのか…?」


 律は大きくため息をつくと、背中から大きな白い鎌を引き出し、教室内に入ってきた教師達の足元に当たらないギリギリを狙い刃を床に突き立てた。すると突き立てた所から白い鎌はみるみると黒く染まっていく。背中しか見えないが彼の殺気と重圧で、その場の空気を満たしていく。……どうやら彼を本気で怒らしたようだ。


「後は任せろ。……俺に逆らう奴は殺しても構わんよな?」

「あぁ構わん。好きにしろ」

「了解」


 律と言葉を交わした後、幾分か落ち着いた彼女の頭を優しく撫でる。彼女の目はまだ恐怖が抜けきれて無いがほっとしたようだ。それに安心した私は、彼女の手を引いて扉の向こう側へと進んでいった。



 彼女の幸せと復讐の歯車がごとりと動き出した。


***

「さてと……まずは小手調べだな。武器はもう持ってるだろう?」

「は…はい…」


 翡翠色の扉を抜けた先には私の中学校の校舎の中。3年がいる空き教室のところにいた。変わらない生徒に変わらない日常…何年も苦しまられてきた場所だ。 

 私の手に握りしめられていたのは、鞘に収まっている銀や黒色をした長刀が握りしめられていた。

 陽菜が言うには、左手に持つ鞘に収まっている長刀は相手へのリーチと思いっきり刀を振り下ろして巻き起こした風で斬ったりする長距離戦の武器。相手を確実に仕留める至近距離線の武器にも使えるだとか。


「そいつらは自由に使っていいし私のことは心配するなよ?」

「分かりました」


 ふんわりと陽菜は微笑む。その笑みは慈悲に溢れた優しくて一度も見た事がない笑顔だった。優しい笑顔を見た瞬間、私は今までの楽しかった記憶を無意識に思い出していた。

 

 今はもういないけれどぬくもりも心の暖かさも教えてくれたあの子は居たんだ。いじめられていたけれど私に出会って笑顔になったって最期のお別れの場所であの子の親が教えてくれた。私もあの子もここに行くのが楽しみになったんだ。憎しみに溢れていたけれど、人の命は尊いと分かった筈だ。


『ここは確かに、大切なあの子が愛した「居」場所だったんだよ…っ』


 夏休みに入る前の初夏の涼しい風が教室に抜けふわりと緑のカーテンがたなびく。この頃の私はどこか可笑くなっていた…そう思わせるぐらいあまりにもここは優しい空間だった。今更になって罪悪感が心の中をひしひしと満たしていく。これから行うことが人に対してどれだけの事かを。ぐるぐると感情がせめぎ合う姿を。彼女の表情を見るのが今はただ怖かった。

 頭を抱えているわたしに陽菜は何も言わず優しく私の頭を撫でてくれた。苦しさを紐解くように、陽菜は私の過去を話してもいいか?と優しく言う。こくんと私は頷き、陽菜はぽつりぽつりと話し始めた。


「私、当時幼かった弟を生き別れさせたんだ。弱虫だけど、君と同じように人を傷付ける事を誰よりも嫌って拒む子。…どんなにいじめられようが差別されようが復讐を拒む子だった。でもその幸せは『あいつ』が全部狂わせたんだ。死ぬ覚悟で弟を私が唯一信頼できる者に託して。『あいつ』は自分の生の為に私を……な」


 寂しい笑顔であろう口調で語る陽菜。時折見せる『あいつ』呼ばわりした陽菜の口調は心底恨んでいるようだった。『あいつ』と言っている陽菜の目が殺意に満ち溢れていた。


「私も未だに死んでいない『あいつ』を殺したいんだ…だから復讐は案外悪い事じゃない。それが生きる活力になる。生死の危機にある状況こそいい子にならなくていいんだ。むしろ悪い子になれ。どす黒ければ黒いほど精神的にきついが、そういう状況にさせた環境と人間が悪いんだよ。……だから」


 そういうと陽菜は怯えて顔をうつむいたままの私の手を両手でぎゅっと強く握った。諭すように言葉一つ一つに重みを持たせて。


「人間は病んで当たり前だ。死にたいのも生きたいのも人間の防衛本能なんだよ。本来他人は嗤う権利もないんだ。死ぬことを嗤うならそいつが死ねばいい。いじめられる苦痛が分からなければそいつがいじめられればいいだけなんだよ…!絶望へ完膚なきまでに叩き落として、一生消えない罪を抱えて生きればいいんだ!!!」


 叫ぶように言葉を吐き出した陽菜は痛いほど私の手握って、何かにすがるように歯を食い縛っていた。なにかを思い出しているのとは違う感じだった。

 陽菜は乱れた息を整えると少し息を吸って、さっき見せた笑顔で私を見て、こう言った。


「……君はちゃんと生殺与奪に慈悲を持つ意味が分かってる。…それだけで君はもう十分だ」


 陽菜の言葉を聞いたその瞬間、私の奥底のどろどろの感情が少しずつ溶け始めていった。心が頭がその感情になる事を拒否してぐちゃぐちゃになる。しかしそれとは反対に、その言葉の余韻が消えないように何回も反芻する。私はまた、泣いていた。

 いつのまにか昼休みは終わり、チャイムがなり生徒が笑いながら楽しそうに私たちの教室の前の廊下を何人も、何人も行き交う。その姿を見て、あぁ…私もずっとああやってしたかった、と見てしまう。楽しくニコニコでいたい……私の願いはそれだけだった。


 陽菜は私が生徒達から見えないように目の前に立って隠してくれている。その優しさにまた涙腺が脆くなる。

一通り人が行き交い、また私たちの空き教室に静寂が戻ってくる。風は止み、向こうの教室の騒がしさだけがフロアを包み込む。いつのまにか私の涙は止まっていた。


「今、どこにいる?」

「……ここのフロアの一番奥」

「了解」


 さてと、と私の方に向いた陽菜はいじめっ子の居場所を聞き出す。端的に伝えた私は頬に残る涙の後をぐいっと長袖のブラウスで拭く。差し出された陽菜の手を握ってゆっくりと目の前に立ち上がった。陽菜の目はまっすぐ、嘘偽り無い目で見つめ、私を空き教室から廊下へつれていった。信頼しても良いと不思議と心から私は思った。


「用意はいいな?」

「………はい」


 これから行う事にたいしての罪悪感を全て払いのけて、大きく深呼吸をし陽菜の問いに答える。陽菜はそれを見て私の頭をくしゃりと撫でて、私に両耳を強く塞いどけと言った。それに従うと、陽菜はつかつかと足を進めると、突然彼女は手に持っている大きな黒い鎌を何度も何度も廊下の地面に振り下ろした。その音にびっくりしたのか廊下から沢山の生徒達が教室から出ていた。


 「____逃げるものはさっさと逃げろ。私の気が変わる前にな」



 私と彼女の最初で最後の復讐演目が始まった。



***


 「〜〜〜!!!」

 

 学校内の廊下に断切魔が響き渡る。恐怖に怯える女子に刀を一振り振る。左足が鮮血を撒き散らしながら中に舞い、近くに転がる心臓の上に落ち、グチャリと音を立てる。

 当たりは血飛沫で真っ赤に染まり、廊下や教室には、身体や臓器やら血管やらが転がり、血の匂いが辺りを覆う。どれも人として原型を留めていない。顔をそむけるはずなのに、そむけなければいけないのに…私はあいつらの絶望顔が、恐怖で歪む表情が、今までの欲求を全てドロドロと満たしていくのを感じた。


「どうして…ねぇ…なんで…?」


 これまた震えた声で後ろから声が聞こえた。その声の主は、私が歯向かうことも恐れていたいじめっ子の茉雪だった。ガタガタと体は震えていて今にも泣き出しそうだ。……彼女が表しているこの感情は本心なのか分からない。全部、彼女は演技をしていたから。


「こ…これ…全部あんたが…」

「えぇ。そうね」


 私の制服も顔も返り血でべったりと染まっていた。右手に持つ長刀も左手の鞘も血がポタポタと落ちて止まる事は無い。その血で染まった刃を、彼女の喉仏にそのまま行けば突き刺さるように、私はスッと向けた。


「なんで…!?お願い誰か!!助けてよぉ!!」

「誰も助けは来ない。……命乞いしても無駄」

「なっ!?ね、ねぇ…嘘でしょ…?貴女が…あの貴女が…!そんなことする訳…ないわよね…?」


 彼女の本当に信じていたかのようなその声は、演技だとは思えなかった。思うどころか楽しそうに笑う彼女を、人を悲しませているということに脳が拒絶している。それでも憎い。憎いのだ。彼女が。



 

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