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第28話 クリスマス 4(1)

 ケーキタイムが終わると、約束通り妹は一旦部屋に戻って、涼夏が大きくため息をついてがっくりと項垂れた。

「みんなすまない。猪谷涼夏、一生の不覚だ」

「あんな可愛い子が、まさか彼氏に振られるなんて、予想できないのは仕方ないよ」

 奈都がそう言って涼夏の肩を叩いた。どうも少しピントがズレているような気がするが、奈都なりに励ましているのだろう。

「私も別に嫌じゃないよ? 可愛いし。ミニ涼夏」

 絢音がうっとりと目を細めて妹を擁護したので、私もとりあえず頷いておいた。別に私も、嫌いでも苦手でもない。ただ、どう接したらいいのかわからないだけだ。

 涼夏は静かに首を横に振ってから、無念そうに息を吐いた。

「みんなが嫌じゃないのはわかってる。ありがとう。ただ、私は自分の考えたプラン通りに進んでないのが、すごく嫌だ」

「涼夏、その辺はもっと大雑把かと思った」

 奈都が意外そうに首を傾げた。確かにいつもの涼夏なら、色々計画して、その通りにならなくても、むしろそれを楽しむくらいのゆとりがある。クリスマスは特別なのかと思って聞くと、涼夏はやはり首を横に振った。

「別に、みんなが他のことがしたいとか、そういうのならいいよ。あと、天気とか電車の事故とかなら仕方ない。でも、なんで家族に壊されなきゃならんのだと、そう思うわけ。しかも、わざわざ事前に予定を確認した上で計画したのに」

「その憤りはわかる。私も昔、弟の理不尽な駄々のせいで、楽しみにしてたお出かけがなくなった時、殺意が芽生えた」

 絢音がそう言って、柔らかく微笑んだ。表情と台詞が合っていない。涼夏も絢音も殺伐としているが、兄弟姉妹のほんわかしたエピソードはないのだろうか。

「奈都は、お兄ちゃんとはどうだったの?」

 話を振ると、高校からの友達二人が奈都を見てまばたきをした。

「ナッちゃん、お兄ちゃんがいるんだ」

「うん。言ったことなかったっけ? 今年から大学生で、家を出てったよ」

「へー。じゃあ、ナッちゃんの男嫌いは、絢音と同じ感じの理由?」

 涼夏が好奇心を剥き出しにして奈都の顔を覗き込んだ。別に絢音は男が嫌いというわけではないが、上にも下にも男兄弟がいて、色々と夢を打ち砕かれ続けた結果、男性に対して一切ときめかなくなったらしい。

 奈都は恐らく違うだろう。奈都の兄とは面識があるが、ごく普通の真面目な若者という感じだった。もっとも、外から見た印象と、家族から見た印象が全然違うというのはよくあることだ。涼夏の妹がまさにそうだろう。

 奈都は少し考えるようにうーんと声を出して、2、3回首をひねってから口を開いた。

「私は別に男子が嫌いってことはないよ。恋愛対象にはならないけど」

「千紗都が好きだから?」

「まあ、そう。私はチサを愛してる」

 奈都が胸に手を当てて、芝居がかった調子でそう言った。じっと見つめると、「その目やめて」とお決まりの台詞を言って、私の視線を遮るように手をかざした。いつもただ見ているだけなのだが、自分で恥ずかしいことを言っている自覚があるのだろう。まだ救いがある。

「ナッちゃんは、昔から女の子が好きなの?」

 涼夏がさらっと核心に触れた。思わず息を呑んだが、奈都はもう開き直ったのか、特に驚いた様子もなく答えた。

「わかんない。チサを見た時に抱いた感情を、私はそれまでに感じたことがない」

「それはつまり、初恋ってやつだね」

 絢音が組んだ手に顎を乗せて、熱っぽい瞳で笑った。奈都は小さく頷いた。

「たぶん。中学の時は、女の子を好きになるのはおかしいとか、色々思い悩んでたけど、高校に入って二人がチサとイチャイチャしてるのを見て、私は解き放たれた。感謝しかない」

「解き放たれちゃったかー」

 そう呟きながら見つめると、奈都は私の視線から逃げるように体を反らせた。

「っていうか、私は何を語らされてるの?」

「知らん。でも、面白かった。千紗都に恋して思い悩む思春期のナッちゃん、可愛いな」

「二人もチサのこと大好きでしょ?」

 奈都が念のためというように聞いた。二人は当然と言わんばかりに頷いた。

「千紗都のぬいぐるみを作って、毎晩一緒に寝たいくらい好き」

「手の平サイズの千紗都を、籠に入れて飼いたいくらい好き」

「二人とも、ちょっと歪んでるよ」

 奈都が呆れたように言って、三人で楽しそうに笑った。なんだかよくわからないが、とりあえず私のことがとても好きらしいので、どうかこのままみんな仲良く、ずっと私を好きでいて欲しいものだ。


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