番外編 ボードゲーム 3
4つ目のゲームは『パッチワーク』というゲームだった。9×9マスの個人ボードに、様々な形をしたタイルを敷き詰めて行くゲームで、見るからに面白そうだし、テーマも可愛らしい。
グルッとテーブルいっぱいにタイルを並べ、一番小さいタイルの次の場所にポーンを置く。そのポーンから3つ先のタイルまで取ることができて、取るとポーンがその場所に移動する。
タイルには、取るのに必要なボタン数と、砂時計のマーク、そしてボタンのイラストが描かれている。砂時計の数だけ共通の時間ボードを進めて行き、途中でボタンのマークを過ぎると、自分のボードに置いたタイルのボタンの数だけボタンがもらえる。そのボタンを使って、また新しいタイルを買うというわけだ。
「これ、見るからに可愛いし、かなり面白いって評判なんだよ」
「うん。面白そう。さっき私が負けたから、私から?」
「負け越してる方が、先手と後手の好きな方を選べるようにしよう」
特に異存はなかったので選択権を譲ると、涼夏は先行を選んで、いきなり最初の5ボタンすべて使ってタイルを取った。砂時計も5だったので、時間ボードを5つ進めて、最初の決済を終える。2ボタン返ってきたので、少し先を見ると、2ボタンで買えるタイルが並んでいた。ただし、結構大きいので埋めるのには便利そうだが、ボタンのイラストはついていない。
「やっぱりボタンの絵があるタイルを取った方がいいのかなぁ」
そう呟いたものの、3つ先まででボタンの絵がついているタイルは1枚しかなく、しかも7ボタン必要だった。もしパスをすると、涼夏を追い越すまでコマが進んで、動かした分のタイルが手に入る。いきなり11ボタンになったが、まだボードには何も置いていなくて、焦りが生じた。
「なんか、壊滅的に終わりそう」
「でも、千紗都が買えないってことは、私も買えないんだよ。たぶんこれ、こういうゲームなんだよ」
涼夏が安いタイルを買った後、先程買えなかった7ボタン必要なタイルは、結局私が購入した。
少しずつボードがタイルで埋まって行き、時間ボードの上をコマが進んでいく。だんだんこのゲームを理解し始めた。先程涼夏が運要素の話をしていたが、このゲームにも運要素が一切ない。相手のボードと持っているボタン数、そして自分がどこまで取ると次に相手が何を取れるか。そういうことをものすごく考えながらやるゲームだ。
「これ、ヤバイね。テーマ可愛いのに、すごい頭使う」
「難しい。私がこれを取ると、次に涼夏にこれを取られる」
「ううん。千紗都がそれを取っても、まだ時間ボードで私を追い越さないから、千紗都が連続でできるよ」
「ああ、そうか」
1回目の途中にして、早くも2回目をやりたいが、涼夏はきっと1回しかやらないだろう。ようやくやり方がわかってきたところだが、時間ボードのコマは残酷に進んでいく。
半分を過ぎてなお、まだ先に7×7マス埋めたらもらえるボーナスは、二人とも取れていない。というか、私のボードはすき間が多くて、取れそうにない。ただ、涼夏は綺麗に埋めているが、まだボードが半分も埋まっていない。最後まで埋まらなかったマスは、1マスにつき2点減点になる。
最終的には私も涼夏も、決済で15ボタンもらえるボードになり、手元に涼夏が19ボタン、私が28ボタン残して終わった。ただ、埋められなかったマスが涼夏が5マス、私が6マスで、それぞれ10ボタンと12ボタンを引いた上、涼夏は7点のボーナスを持っていて16点。
「同点?」
私も16点だと宣言すると、涼夏がルールブックを手ににっこりと笑った。
「同点の場合は、先にゴールした方の勝ちだって」
「いや、聞いてないし、それ」
「まさか同点で終わるとは思わなかったから、言ってなかったかも」
「これはもう1回、もしくは引き分けでしょ」
「いや、私の勝ちだから」
涼夏がルールブックをパタパタさせながら笑った。納得がいかずに悔しがっていると、「そういう千紗都も可愛いな」と笑いながら、涼夏がゲームを片付けた。これは再戦したいので、むしろ私が購入を検討しよう。
2勝2敗で迎えた5ゲーム目は、『バトルライン』というカードゲームだった。ようやくゲームに運要素が加わるが、かなり戦略性のある名ゲームだという。
「まあ、そうは言っても、私もやるのは初めてだけどね」
涼夏がカードを切りながら微笑む。1から10までの6色計60枚のカードを使い、二人の間に1列に並べた9つのポーンの前に、互いに最大3枚までカードを交互に置いていく。手札は正式ルールでは7枚だが、6枚の方が楽しいらしい。
並べたカードにはポーカーのように役があり、強い役を揃えた方にポーンが移動する。両方が3枚置く前でも、相手がもうそれ以上強い役を作れないと確定した段階でポーンが移動し、それ以上そこにはカードが置けなくなるというのが、このゲームの肝だ。
ジャンケンをして私が勝ったが、涼夏が後手の方が有利なゲームだと教えてくれたので、素直に後手を選んだ。
最初に涼夏が緑の5を置いたので、持っていた緑の6をポーンを挟んだ反対側に置いた。確かに、常に相手より大きな数字を出していけば、どの役が出来たとしてもこっちが有利だ。
涼夏が4を置いたところに5を、7を置いたところに8を置いた。しかも8は手の中にもう2枚あり、相手の置いた7と同じ色の8も持っているから、相手はストレートフラッシュを作ることができない。つまり、この2枚の8を置いたらこのポーンは私が確定させられるが、それはさっさとやった方がいいのか、それとも残しておいた方がいいのか。
私が置いた8を見つめながら考えていると、涼夏がにんまりとした笑みを浮かべて、私の顔を覗き込んだ。
「随分その8を見つめているけど、何かあった?」
「ううん、別に」
「手札に8がもう2枚あるとか?」
「だったらいいね」
ポーカーフェイスでそう言ったが、この8は早めに確定させた方がいいだろう。恐らくこれは、だんだん置き場所が苦しくなるゲームだ。相手が3枚置く前に確定させることで、相手が置ける場所を一つ減らすのがとても大事になる。
8を確定させた2つ隣、涼夏が赤の10を置いた場所に2を置いたが、偶然同じ色の3と4が来て、涼夏の10に勝てる可能性が高くなった。
さらにその間のポーンも、私が6のスリーカードでポーンを奪い、結局すべてのポーンを取り合うことなく、連続する3つのポーンを獲得したら勝ちというルールで私が勝利した。
「さすがにこれは引きが良かった」
私が慰めるようにそう言うと、涼夏がテーブルに突っ伏したまま悲しそうに言った。
「これが運要素か……。私は運が悪い」
「いや、『ブロックス』も『コリドール』も私が勝ったから」
冷静にそう告げると、涼夏が唇を尖らせてそっぽを向いた。
「千紗都、嫌い」
「まあ、このゲームは後手有利だし。もう1回やる?」
さすがに不完全燃焼だろうと思って聞いてみたが、涼夏は首を横に振ってカードを片付けた。「頑固だねぇ」と苦笑すると、涼夏は改めて「今日はたくさんゲームがしたい」と言った。
確かに、どのゲームも面白いし、とても新鮮だ。もちろん、カラオケやショッピング同様、涼夏と一緒だから楽しめているのはあるが、ゲーム自体にそのポテンシャルがなければ、涼夏とでも楽しくはない。
次はどんなゲームだろうか。今日はしっかり楽しませてもらって、そして最後にアイスを奢ってもらおう。