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番外編 インバウンド(7)

※(6)からそのまま繋がっています。

「さあ、動物を狩りに行こう!」

 食事を終えると、涼夏が元気に拳を振り上げた。係の人がいたら飛んで来そうな台詞だ。紅葉狩りと同じで、本当に狩るわけではない。

 まずはフードコートの向かいにいる、エゾヒグマである。エゾヒグマは北海道に棲息するクマで、北海道でクマが出たと言ったら、基本的にはこのエゾヒグマを指す。たぶん。名前から勝手にそう判断した。

「でかいな。勝てる見込みがない」

 黒い巨体で悠然と佇んでいるクマを見ながら、涼夏が降参だと腕を組んだ。クマ舎には他にマレーグマも飼育されているが、エゾヒグマを見た後だと、4人がかりなら勝てそうな気がした。実際には無理だろうけど。

「マレーグマはマレーシアに棲息している」

 急に奈都が得意げにそう言ったが、それは名前から想像できる。いや、今のはマレーシアのカニである設定から来た発言と捉えるべきだろう。

「カニは食べられる」

「クマはカニは食べない。知らないけど」

 私も知らないが、何となく食べない気はする。そのまま食べると口の中が痛そうだ。

 ホッキョクグマを横目に見て歩き、大人気のコアラ舎をスルーしてタヌキの里にやって来る。何度か見ているはずだが、まったく記憶にない程度には、私はタヌキに興味がない。1頭しかいないかと思ったら、思ったより多頭飼いでテンションが上がった。

「私の想像したタヌキよりは、キツネの顔をしてる」

「どっちもイヌだからな。タヌキもキツネもイヌだ」

 涼夏が写真を撮りながらそう言った。何の説明も見ずに言っているが、声の力強さからすると知っているのだろう。絢音はあまり動物に興味がないので、涼夏の方が詳しそうだ。

 ちなみに、日本でタヌキと言えばホンドダヌキを指すようなので、私のタヌキのイメージは随分他の何かに引っ張られている。

「タヌキって、もっと丸っこいイメージだった」

「イラストだとパンダみがあるな」

「パンダはネコ? イヌ? パンダ?」

「パンダはネコでもイヌでもパンダでもなく、クマだ」

 涼夏がやはり知っているようにそう断言した。奈都が「パンダじゃない……」と呟いて、絢音がくすくすと笑った。

 それから大体同じ区域にいるニホンリス、ホンドザル、ニホンカモシカ、ツシマヤマネコを見学して、ふれあい広場でヤギとたわむれた。もちろん絢音は近付かないので、撮影係だ。

「ヤギはヤギだね。アカカンガルーとかインドサイとかホンドタヌキとか、そういう固有の名前が書かれてない」

 絢音がスマホで公式サイトの動物一覧を見ながら言った。他にもコアラやライオン、カバなどもシンプルに種族名が書かれているそうだ。

 気になったので私も調べてみると、確かにインドサイはサイ科で種がインドサイだが、ヤギは種がヤギだった。ライオンも同じだ。アカカンガルーはカンガルー科で種がアカカンガルー。つまり、サイトには種が掲載されていると考えられる。

「ヤギはヤギなんだなぁ」

 涼夏がヤギをもふもふしながら言った。普段はあまりそういうそぶりを見せないが、結構動物好きだし、知識も豊富だ。

「ヒトは種がヒトだって。奈都を檻に入れて、『ヒト』って書いて展示したい」

「チサと一緒に入って、『ヒトのつがい』って書いてもらおう」

 奈都がヤギとツーショット写真を撮りながら、私の言葉をさらっといなした。メス同士でもつがいと呼べるのかはわからないが、動物界にも多様性の波が来ている可能性はある。

「昔はヒツジもいたみたい。っていうか、結構頻繁に入れ替わってる」

 ふれあいにはまったく興味がなさそうに、絢音がスマホと睨めっこしながら言った。もう少しヤギに興味を持って欲しいが、得手不得手はあるので無理強いはよくない。

「入れ替わるっていうのは、つまりお亡くなりになってるってことだな」

 涼夏が手を合わせると、絢音が楽しそうに言った。

「ホンドギツネは逃げたって」

「まるで動物だな」

「インバウンドに嬉しいホンドシリーズだったのにね」

 二人がケラケラと笑った。奈都が何か言いたそうに私を見たので、そっと目を逸らせた。いつもの演目なので温かく見守って欲しい。


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