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番外編 インバウンド(3)

 それから各自、もう少しだけ海外のサイトを調べて迎えた土曜日、いつも通り最初に最寄り駅で奈都と合流した。

「ハロー、プリティーガール!」

 元気にそう言いながら手を振られ、恥ずかしかったので横を通り過ぎて階段を降りた。奈都が慌てて隣に並ぶ。

「無視しないで」

「テンションが高いのはいいことだと思う」

「私は今、初来日で興奮してる外国人旅行客だから。ワギュウ、ワギュウがタベタイデス!」

「どこの国の人?」

「どこでもいいけど。マレーシアとか? ワタシのクニにはチカテツないからタノシミデス!」

「マレーシアって、地下鉄ないの?」

「知らない」

 風船のような軽さだ。地下鉄に乗りながら調べてみると、MRTの一部が地下を走っているらしい。地下鉄と呼んでも良さそうだ。

 MRTというものを詳しく知らないが、台湾にもそう呼ばれている乗り物があるのは聞いたことがある。日本にはないのだろうか。

 せっかくなのでMRTについて調べていると、奈都に袖をつままれた。

「相手して」

「アナタは、ナツデス」

「ワタシはカニデスカ?」

「ハイ。アナタは、カニの一種デス」

 どうでもいい話をしながら、涼夏と絢音と合流する。今日は600円の一日乗車券を使い倒すので、絢音にも定期券の範囲外である恵坂まで出てきてもらった。

「日本に着いた! 綺麗! ゴミ箱がないのにゴミが落ちてない!」

 今日は懐かしのケルト人の涼夏が、明るい顔で声を弾ませた。とても月並みな感想だが、逆に海外をまったく知らないので、比較のしようがない。方言と同じだ。何が標準で何が独自のものなのかわからない。外の世界では机はつらないらしい。

「トイレにシャワー機能が付いてた。噂には聞いてたけど、日本の圧倒的な文明力を感じたね」

 こちらはハワイアンなワンピース姿の絢音が、そう言ってうっとりと目を細めた。少し寒い季節なので、上に1枚羽織っている。

「私、あれがないと生きていけない」

「ナッちゃんは格好は普通だな」

「ワタシはマレーシアのカニデス」

「それが名前なのか種族なのかで、今日の扱いが変わる」

 奈都と涼夏が楽しく喋っている。格好と言うと、私は少し前に500円で買った丈の長い古着のカーディガンを着てきた。ちょっと変わったものをと思ったが、変わっているだけで異国感があるかと言われるとそうでもないかも知れない。

 地下鉄で場所を移動して、とりあえず最初の目的地である、古い神社を参拝する。予め海外の紹介サイトを翻訳機能で調べたところ、ここには三帝のレガリアの一つがあるらしい。その響きに絢音は大笑いし、奈都はカッコイイと目を輝かせていた。

 厳かな緑の参道を抜け、2つ目の鳥居をくぐり、本宮前までやってくる。参拝の仕方も海外のサイトを検索して調べた。「How to visit a shrine」によると、賽銭箱にお金を入れ、お辞儀を2回して、手を2回叩き、数秒祈って、もう一度お辞儀をするそうだ。

「とりあえず、帰宅部のますますの発展を願おう」

「今回の日本旅行が上手くいきますように」

「世界平和かな。三帝のレガリアにはそれだけの力がある」

「チサがもっと私に優しくしてくれますように」

 それぞれ思い思いに願い事を言ってから、本宮を後にする。涼夏がおみくじなるものに興味があるらしく、1つ購入した。調べたところによると、excellent luck、general luck、middle luck、small luck、bad luckがあり、将来の運勢がわかるそうだ。

 涼夏が引いたのは「吉」だった。恐らくmiddle luckだろう。わざわざスマホをかざして英語に翻訳した結果、「読めない」と悲しそうに呟いた。

「私が和訳してあげるね」

 絢音が優しい眼差しでそう言って、涼夏のおみくじを覗き込む。

「願望は早く叶うって。学業は広く学べって」

「読めるんだ! すごい!」

「まあね。音っていう字の入った名前の友達を大事にするといいって」

「するする!」

 ひどい茶番だ。奈都が「日本語を和訳してる」と苦笑した。涼夏と絢音の定番の演目なので、楽しんでもらえたらと思う。


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