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第68話 紅葉(1)

この話に登場する「戸和波香」は、絢音のバンド「Prime Yellows」のメンバーの一人です。

キタコミ『最終話2』の公開後、波香を主人公にした小説をKindle1冊分連載します。

波香とさぎりのイラストも、すでにイラストレーターのtojo様に発注し、納品済みです。

ですので、比較的重要なネームドキャラという認識でお読みいただけると嬉しいです。

 山の方から始まった紅葉は、いつの間にか街まで降りてきて、市内の木々もすっかり秋色に染まっている。

 絢音との帰宅部活動は、いかにお金をかけないかという点にも重きを置いているので、今日は定期券で行ける範囲内で紅葉スポットを探そうと話していた。

 もっとも、私たち二人の定期券が共通で効く駅は上ノ水と古沼の二駅しかないので、古沼から絢音の定期券の範囲内である紅葉通線の沿線を歩くのもいい。絢音には時々うちに来てもらっているし、私が帰りの1回分、地下鉄代を払うのは何も問題ない。

「紅葉通線なんていうくらいだし、紅葉スポットがたくさんありそうだね!」

 絢音がそう声を弾ませたが、ただの冗談だ。確かに紅葉通りという紅葉が綺麗な通りがあり、線の名前がそこから来ているのは確かだが、紅葉通りは定期券の範囲にはなく、それ以外に有名な紅葉のスポットがあるわけではない。

 大通りから1本入ったところにある小さな寺院が狙い目だ。モミジが1本あれば写真映えするし、2本あればもう、100本あるに等しい。教室で地図アプリを見ながら計画を立てていたら、珍しい人から声をかけられた。

「絢音、今日ちょっといい?」

 顔を上げると、絢音のバンドメンバーの一人である戸和さんが立っていた。私たちは3組で、戸和さんは1組。違うクラスからせっかく来てくれたのに、絢音が顔も上げずに「よくないねぇ」と言ったので、私は慌てて手を振った。

「全然大丈夫。今のは絢音の冗談だから、心に傷を負う必要はない」

 私が必死だったからか、絢音がくすっと笑った。私が慌てて止めるところまで計算されていたように思えるが、もし止めなかったらどうするつもりだったのだろう。

「それで?」

 絢音が何事もなかったように顔を上げた。見上げているのに、妙に上からだ。

 それは若干語弊があるかも知れない。上からというか、絢音はいつも落ち着きと余裕がある。たまには想定外の事態に慌てている絢音も見てみたいが、なかなかそういう場面には遭遇しない。

 私が絢音の横顔を見つめていると、戸和さんがコクリと頷いた。

「少し相談したいことがあって」

「さぎりんは? 決定的な破局を迎えた?」

「迎えてないし。そのさぎりのこと」

「なるほど、恋愛相談か」

 絢音がしたり顔で頷く。我が帰宅部に恋愛トークは御法度だが、女同士ならその限りではない。私自身にそういう感覚はないが、頻繁にチューしたりギューしたりしているのは、恋愛しぐさと言えなくもない。

「今日は千紗都と紅葉スポットを探す遊びをするから、それをしながらでも良ければ」

 絢音が真顔でそう言ったので、私は冷静に退けた。

「それはまた今度でいいから。私一人でやってるから、絢音は戸和さんと話してきて」

「ううん。紅葉スポットを探す遊びのついでで大丈夫だから!」

 戸和さんが遮るように言った。悲しいことだが、絢音の中で戸和さんの相談より、私と不毛な遊びをする方が優先度が高いことを、戸和さんはよくわかっている。私としては、過去のトラウマから、嫉妬される可能性のある言動は避けて欲しいが、絢音の気持ち自体は嬉しく思う。

「じゃあ、3人で紅葉スポットを見つけよう!」

 絢音が明るく笑った。重要なのはそっちではないが、全体的に戸和さんをからかっているだけだろう。戸和さんもやれやれといった様子で微笑んでいる。

 慣れた相手にしか絢音はこういう対応をしないので、私が心配することでもないが、戸和さんにはポジティブに受け取ってもらえたらと思う。


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