第67話 奈都 4(1)
※今回、話の切れ目ではないところで切っています。
運動の後は、古沼でラーメンを食べた。フードコート以外でラーメンを食べることは滅多にないので、それ自体に特別感がある。
「消費カロリー分、摂取しちゃった感じはあるね」
店を出ると奈都が身も蓋もないことを言ったが、動いたから美味しいラーメンが食べられたと前向きに捉えるべきだろう。
この後のことは何も考えていない。もしかしたら午後も運動するかもしれないと思っていたし、何の気力も残っていないかもしれないとも話していたが、後者になった。
部屋でのんびりしようと言うと、奈都は二つ返事で頷いた。家が近いし、一度帰ってシャワーを浴びて、着替えてから来るという。シャワーならうちのを使えばいいが、汗だくの服で過ごすのが嫌なのはわかる。
先に帰って、私もシャワーを浴びて適当な服に着替えた。疲労感がすごいので、早く奈都に揉んでほしい。
部屋でふくらはぎをほぐしていたら奈都がやってきた。今日は母親は友人とお茶に行っているが、父親は自分の部屋でゴロゴロしている。ドアの外側から報告だけして私の部屋に入ると、とりあえずベッドの上に座らせて私は隣で寝転がった。
「じゃあ、マッサージをする遊びをしよう」
「それ、遊びなの? チサもしてくれるの?」
「非対称のゲームだから。今日はされる方をプレイする」
「チサがする側をプレイする日は来るのだろうか」
ぶつくさ言いながら私の腰に跨ると、肩から背中にかけて揉み始めた。痛気持ちいい。反対の役割は、その内バトンの演技の後にでもしてあげよう。
「今日は楽しかった?」
ぐったりしながら聞くと、背中で奈都の困惑した声がした。
「私の台詞でしょ。私の企画なんだし」
「奈都に遊ぼうって声をかけたのは私でしょ?」
「変な理屈。私としては想定してた楽しさはあったと思うけど。アヤもまたやっても良さそうだったし」
「そうだね。涼夏がバイトの土日にやろう。奈都は忙しいだろうから、絢音と二人の定番にしようかな。お金もかからないし」
何よりそれが大きい。ただでさえ毎日の帰宅部活動にお金を使っているので、楽しくて安上がりな遊びを考えるのは、帰宅部の命題のようなものだ。
腕を揉み終えて、腰を揉み始めた奈都が不満げに言った。
「発案者を誘ってよ」
「毎週声かけてるけど、奈都が忙しいんじゃん。三週間も前から計画するほどの遊びじゃないでしょ? 定番化しようと思ってるならなおさら」
努めて冷静に、論理的にそう言うと、奈都は反論する言葉を探しているのか口を閉ざした。手は動かしているので、不貞腐れてはいないようだ。
奈都が私から降りて、先程まで座っていたお尻に強く親指をうずめた。臀部は神経が多いのか、お肉の奥はとても痛い。
「ひぃ! 痛い痛い!」
「我慢強く生きて」
奈都が楽しそうにそう言ってから、お尻から順に太ももを揉んだ。足は念入りにやってもらいたいので、枕を抱いてしばらく耐えていると、やがて足の裏までほぐし終えた奈都が背中から抱き付いてきた。
「はい、おしまい」
「ぐぇぇ、潰れる」
「胸も揉もうか?」
奈都がそう言いながら、両手を体の前側に潜り込ませる。そのままわしわしと胸を揉むが、同時に指先で胸の付け根、鎖骨の下から腋にかけてのラインを刺激すると、お尻の時以上に痛かった。
「えーん、痛いよぉ!」
「胸が大きいから凝ってるんじゃない?」
「そんなに違わないでしょ」
背中に押し付けられる奈都のおっぱいが柔らかいが、幸か不幸か私はそれに喜びを感じない。友達の胸を揉みたがることからして、私には理解できないのだが、されて嫌ではないのでいつも好きにさせている。
その内飽きたのか、ベッドの上でお好み焼きのようにひっくり返された。上から覆い被さってきたので、私も背中を引き寄せてしばらくキスをする。胸には魅力を感じないが、キスは好きだ。
しばらくイチャイチャしてから、ここ最近の奈都学について語ることにした。私の上で胸に顔をうずめている奈都の髪に指を滑らせながら話を切り出す。
「ここのところ、帰宅部で話してた奈都に関する考察なんだけどね」
「私、何か考察されるようなことしたっけ」
顔も上げずに、奈都が不満げにこぼした。最近は絢音の提唱したアイドル考について話しているが、奈都の考察をすること自体は日常会話だ。
そう説明すると、奈都は「悪口を言われてる」と悲しそうに首を振った。もっとも、体勢が体勢なので、単に私の胸に顔を擦り付けているようにしか見えない。




