第67話 奈都 2(1)
奈都が私のことをどう思っているのか。本人に聞くと、照れたように「好きだ」とか「愛してる」とか言ってくれるが、どうも行動が伴わない。
もちろん、嘘をついているとはまったく思っておらず、単に好きの表現方法が違うのだろうと考えている。つまり、私の「好きならこうする」と、奈都の「好きならこうする」には、だいぶ違いがあるということだ。
そもそも、奈都は休みの日に一緒に遊びたがらない。正確には、向こうから誘って来ないのだが、それも受け身な性格のせいだと考えていた。
しかし、絢音の言ったアイドル説を当てはめるとしっくり来る。そもそも好きの種類自体が全然違うのではないか。仲のいい友達と、「誰々はイケメン!」とかキャーキャー言っているのと同じような対象になっていないか。
それを裏付けるように、あの朝から数日後、奈都がこんなことを言ってきた。
「チサとやりたいこと、考えてるんだけど、あんまり浮かばないんだよね」
もちろん、予定表に私の名前を書かせた日のことである。なかなか衝撃的な発言だが、当人はさほど問題のある台詞とは捉えていないようだ。気楽な調子でどうしようと相談してくる。
「別になんでもいいでしょ。相手が私だからしたいことじゃなくてもいいよ?」
もしかしたら、奈都は難しく考え過ぎているのかもしれない。前に二人で水族館に行ったが、何もあんな大層なデートを企画しろと言っているわけではない。むしろ、特別ではない日常の一幕に私がいることが大事なのだ。
次の週末は友達と何をするのか聞くと、クラスの友達とはカラオケパーティー、部活の仲間とはお手製アフタヌーンティーパーティーをするそうだ。
「チサとカラオケなぁ……。うーん」
答えた後、奈都が悩ましげに唸り声を上げた。もちろん、私はあまり音楽を聴かないし、奈都も流行りの曲に詳しいわけではない。二人で積極的にカラオケに行こうと思わないのはわかる。
しかし、後者はどうか。響きがもう楽しそうだし、とても帰宅部向きの内容だ。
「ヌン活、詳しく」
「友達の親が、アフタヌーンティーのカゴみたいなやつを買ったから、みんなでお茶しようって。でも、猪谷神みたいな子は誰もいないから、食べ物は市販品を持ち寄る感じだね」
「そういうのでいいんだよ。むしろすごく楽しそう!」
私が思わず声を弾ませると、奈都は「テンション高いチサ可愛い」と目を細めてから、苦笑いを浮かべた。
「私も誘われたら行くけど、自分では企画しないよ。チサはちょっと勘違いしてるかもだけど、そもそも私、他の友達と遊ぶ時も、別に自分からは誘ってないし、何も企画してないよ?」
「それはまあ。勘違いはしてない」
元々奈都は自分から動く子ではない。正確には、動かなくても誘われるから、自分から動く必要がない。
これは帰宅部内での絢音も同じようなものだ。時々花火がしたいとか希望を言うこともあるが、基本的には私と涼夏が誘いまくるので暇することがない。それに、奈都も絢音も、予定がなくても平気な人種である。だから自分から動かないのもあるかもしれない。私は休みの日に一人で家にいると死んでしまう。
だが、今はそういう話をしているのではない。どう伝えればいいか頭の中で整理してから、「例えば」と切り出した。
「もし奈都が好きな人と付き合ってるとして、自分から遊ぼうと思わないの?」
「好きな人って、チサ?」
「じゃあ、そのチサちゃんと付き合ってるとして、チサちゃんから誘われなかったら、奈都は自分から連絡しないの?」
本題はそこである。会いたいと思うことが何よりも大切だと、誰かの歌で聞いたことがあるが、奈都からはそういう積極性がまるで感じられない。
それが性格によるものなのか、愛情の問題なのか、それとも関係性のせいなのか、そこをはっきりさせたい。
私が答えを促すように見つめると、奈都はしばらく考えてから口を開いた。
「チサから声をかけて来ない状況が思い浮かばないけど、もしそうなったら、私から連絡すると思うよ?」
「じゃあ、今そうしないのは、付き合ってないから?」
「今はチサから連絡くれるじゃん」
「じゃあ、しばらく連絡せずに奈都を試す」
「やめて」
私の苦渋の決断は、一瞬で却下されてしまった。やれと言われても連絡せずにいられる気がしないが、奈都の方からも会いたいと思って欲しい私の気持ちはわかって欲しい。
そう訴えると、奈都は笑いながらずれたことを言った。
「今日のチサは、恋愛的にめん……こいね」
「今、面倒くさいって言いかけたよね? めんこいとか、人生で一度も使ったことがないよね?」
「珍しい感じ。チサ、恋愛にまったく興味がないじゃん」
「恋愛っていうか、友情? 私はただ遊びたいだけ」
言いながら、私もよくわからなくなってきた。絢音の言っていたアイドル説の裏付けを取ろうとしていたのだったか。
そもそも、奈都が私と一緒にやりたいことが思い付かないなどと言ったのが悪いのだ。考えた上で思い付かなかったのなら、さらに強要してもしょうがない。
「じゃあ、運動系ね。涼夏がやりたがらないようなことをしよう」
「何する?」
「ジャンルまで絞ったから、後は奈都が考えて」
ピシャリとそう言うと、奈都は仕方なさそうに頷いた。本当に、もう少し私との時間に積極的になって欲しいものだが、奈都らしいと言えばそうも思う。




