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第67話 奈都 1(2)

 お昼は最近は3人で食べることが多い。1年の頃は涼夏は他の子と過ごすことが多かったが、2年に上がってから一緒にいることが多くなった。

 それは春にあった聖域事変のせいで、放課後に二人きりでいられる時間が減ったせいもあるが、そもそも「一時的な友達より、ずっと一緒にいる人を優先する」という方針に変えたらしい。

 やはり2年に上がった時に、何人か友情が途切れたことで思うところがあったようだ。

「もちろん、中学を卒業した時もそうだし、友情なんてそんなもんだってわかってるけど、千紗都と絢音は違うじゃん?」

 涼夏がそう言っていた。これについては奈都も同じようなことを言っていて、私との時間を増やすと言っていたが、あまり変わっていない。

 今朝の愚痴をこぼすと、涼夏が「クラスが違うのは難しいな」と、同情するように言った。奈都はクラスが違うので、私たち以上にクラスメイトと仲良くする必要がある。だから他の友達と遊ぶのも仕方がない。

 ただ、それは本質的な理由ではなく、結局は単に奈都の性格とポリシーの問題であり、奈都は昔から「誰」より「何」を優先しているし、なんなら若干私と距離を置いている。それは私を恋愛的に好きで、それを隠していた頃の名残だというのが、帰宅部の結論である。

 私が愚痴をこぼして、この結論に至るまでがいつもの流れなのだが、今日は絢音がマンネリを打破するごとく異説を提唱した。

「その件について考えたことがあります」

「興味深い」

 涼夏がそう頷いて、続きを促すように手を広げた。謎の仕草だ。

 絢音もわざとらしく頷いて続けた。

「涼夏と千紗都はそうでもないけど、割と多くの男女が、イケメンとか美少女とか好きでしょ? いわゆるアイドルだね。芸能人とかYouTuberとか、なんでもいいけど」

「二次元は?」

 奈都を思い出しながら聞くと、絢音はそれも可と答えた。

「見てるだけで満足な存在。好きな同世代のアイドルがいたとしても、別に友達になりたいなんて思ってないし、それはもし同じ学校だったとしてもそうじゃないかな。わきまえてるっていうか、眺めてるのがいいみたいな。そのアイドルの物語に、自分は登場しなくていい。客席から見てる劇や芝居みたいな感じ」

「感覚もわかるし、結論もわかった」

 涼夏が微笑みを浮かべる。私も絢音の言いたいことは理解したが、一応というように絢音が結んだ。

「ナツにとって千紗都は身近なアイドルで、毎朝一緒に学校に行けるだけで完全に満足。それ以上のことはまったく求めてないんじゃないかな。あんまり二人きりで遊びたいとかも思ってなさそう」

「事務所NG」

 涼夏が少しだけ外れたことを言って笑った。

「絢音プロダクションは現在2人のアイドルを抱えています」

 絢音もくすっと笑ったが、当事者としては笑い事ではない。私は机に肘をついて頭を抱えた。

「奈都は満足でも、私は満足じゃないんだけど」

「千紗都は高嶺の花だから、ナツは千紗都にとって自分が大きな存在だとはどうしても思えないんだろうね」

「低嶺だから。正妻だって言い続けてるのに」

「亭主関白。私はチサの三歩後ろを慎ましく歩くよ」

「三歩後ろを歩いてる自分に酔ってるだけでしょ」

「それはすごく的確だ!」

 私の言葉に、絢音が驚いたように目を見開いた。「あなたのために」という大半はあなたのためではない。私が望んでいないことを私のためだと言われても意味不明だ。

「親が時々、厳しくしてるのは私のためだとか言うけど、私は甘やかされて育ちたい」

 絢音が大きなため息をついて、羨ましそうに私を見つめた。まるで私が甘やかされて育てられたかのような視線だが、そういう自覚がなくもない。

 一人目がダメだった後の一人娘とあって、随分過保護に育てられた。それで増長した部分もあったが、中2の一件でへし折られて、程よいバランスになった気がする。私はもちろん、親もあんな状況になることは望んでいなかったが、奈都のおかげでなんとか乗り越えられたので、今となってはそんなに気にしていない。

 あの頃から奈都は、特別私だけを贔屓していたわけではなかった。私には奈都しかいなかったが、奈都には私の他にもたくさん友達がいた。

 もちろん、あの頃とは関係が違うので、付き合い方も変えて欲しいのだが、そこのところはどうなのだろう。

 もう少し愚痴りたかったが、親や教育の話題で盛り上がっているので、今日のところはこのくらいにしておこう。こんなふうに、二人と一緒に今澤奈都の考察をするのも、やはりお昼の定番メニューなのである。


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