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番外編 フォトコンテスト(2)

 当日は晴れ寄りの薄曇りだった。花や人を撮るなら、日差しは少ない方がいいとされるが、過去の受賞作を見ると、快晴の写真が多い。空が大きく入る写真だと不利になりそうだ。

 一日乗車券を買い、地下鉄で集合場所に向かいながらそう言うと、今回は二つ返事で参加を表明した奈都がなるほどと頷いた。

「つまり、チサをアップで撮る」

「主役は人じゃないから。さりげなく写り込むのを楽しむ」

「私も、公園の隅で猫とたわむれてる」

「ただ蹲ってる女性がいるホラー写真みたいになりそう」

 消しゴムツールの出番だと言うと、奈都は不服そうに唇を尖らせた。

 久間で涼夏と合流して、亀歩公園線に乗り換える。絢音とはもっと先の駅で合流予定だ。乗った電車と車両をグループに流すと、涼夏がかぶっている帽子をいじりながら言った。

「秋めいてきたとは言え、まだまだ夏の気配がする」

「日中は暑くなりそうだね。写真的には晴れてくれた方が嬉しいけど」

「今日は涼夏、ちょっとスポーティーだね」

 珍しく奈都がファッションの話題を振ると、涼夏は満足そうに頷いた。

「目立たない服装を意識してみた」

「可愛いから、顔が見えると主役になっちゃうって意味だね?」

「顔が識別できるような距離で写るつもりはないな」

 10分ほど乗り、紅葉通線の乗り換え駅まで来ると、無事に絢音が乗ってきた。こちらはいつも通り、髪を縛ってズボンを穿いて、活発な格好だ。奈都は大体いつもズボンだし、今日はスカートは私だけということになる。

「じゃあ、女の子を担当する」

 そう宣言すると、涼夏が静かに首を振った。

「みんな女だな」

「奈都は違うから」

「違わないから!」

 すごい勢いで否定されて、涼夏と絢音がくすくす笑った。昔、奈都に男の子感があったのは、髪だけではなく、胸ももっと小さかった気がする。

 聞いてみたら、高校に入ってからサイズが1つ上がったそうだ。それを聞いて、絢音が力強く頷いた。

「つまり、私にもまだ希望が!」

「ないな」

 涼夏にバッサリ切られて、絢音が残念そうに肩を落とした。もちろん、いつもの冗談だ。絢音は今のバストサイズを気に入っている。

 絢音と合流した駅から天城区は比較的すぐで、数駅で電車を降りた。最初の目的地はバス停1つ分だったので、バスの時刻は調べずに歩いて向かうと、大体5分くらいで辿り着いた。

 保育園が併設された小さなお寺で、本堂以外には特に見るものがない。とはいえ、開創は500年以上前の古刹で、何とか三十三ヶ所観音の一つにもなっている。

 応募する際、写真と一緒におすすめポイントも書かなくてはならないが、本堂以外には特に見るものはなく、鐘楼も見当たらなかった。そもそも、徒歩30秒で回れる境内だ。

「とりあえず二人ずつお参りして、写真を撮ろう」

 涼夏の提案に従い、交互にお参りしながら写真を撮った。一応お堂の前に十三重塔や石仏もあって、それっぽい写真になっている。何より、さりげなく写っている自分たちが面白い。

 境内には他に、可愛らしいお地蔵様が6体並んでいたので、こちらも写真を撮った。私たちの入った写真も撮ったが、こういう小さめの被写体だと、人間のインパクトが強すぎて応募するだけ無駄だろう。思い出としてカメラロールに残そう。

「京都に六地蔵っていう地名があるけど、お地蔵様が6体並んでるのは、仏教の六道から来てるよ」

 お寺を出て、次の場所に向かいながら絢音が知識を披露した。地獄道とか餓鬼道とか、6つの世界があるらしい。

「相変わらず物知りだね」

「調べてきた。予習タイプだから」

「予習タイプは運タイプに弱い」

「確かに、事前にしっかり計画して乗り越えた隣で、運だけでクリアされると、ちょっとイラッとするね」

 ぐだぐだ喋りなら10分ほど歩き、今度は池にやってきた。この季節、まだ渡り鳥の姿はなく、花も咲いていないので侘しい感じがする。調べたところによると、春には桜が咲き、冬にはカイツブリやオカヨシガモなどが見られるらしい。

 散歩したり、池を眺めている写真を撮ってから、涼夏が小さく笑って肩をすくめた。

「実際に鳥がいたら絵になるけど、すごくただの池だな」

「開催期間が今だからしょうがない。おすすめ文には、冬は野鳥でいっぱいって書いておこう」

「見てないけどね」

 野鳥は帰宅部でも定期的に話題に出るので、また冬に来てみるのもいい。今のところは、区民ではない私たちは、ネットにある写真と想像で応募することにしよう。


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