表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
335/378

番外編 十五夜(2)

 翌日、無念にも曇っていて、朝から涼夏がしょんぼりしていた。背景に縦線が見える。

「こんなに落ち込んでる涼夏は見たことがない」

「うん。きっと人生で一番残念がってる」

 絢音と二人でどう声をかけたものかと話していたら、涼夏が顔を上げて呆れた様子で言った。

「どんなけ落ち込むことがない人生なの、それ」

「名月はなくてもチューチューしようね」

 私が慰めるようにそう言うと、絢音が可愛らしく唇を突き出した。

「私もする」

「ここでするわけじゃない」

「もうなんか、そろそろみんなの前でもしていい気がしてきた」

「して来ない。職員室案件だから」

 いつも通り一日を過ごしていると、お昼を過ぎた辺りから窓の外が明るくなってきた。元々予報でも曇のち晴れだったが、予定よりも早く晴れそうだ。

 帰りには雲一つない天気になり、涼夏も完全復活して元気にガッツポーズをした。

「勝った。チューチューの名月する」

「奇妙な動詞」

「二人がチューチューの名月してる写真、グループに流してね」

 今日は帰らなくてはならない絢音が、無念そうにそう言った。他人のキス写真をもらって何が楽しいのかさっぱりわからないが、前から収集しているので送ってあげよう。

 絢音と別れてから、涼夏に今日のプランを聞くと、涼夏が「お月見と言えば?」と逆に質問してきた。

「お団子かな?」

「月見バーガーだな」

「お団子が入ってる」

「それはちょっと美味しくなさそうだ」

 月見バーガーとは、目玉焼きの入ったハンバーガーで、ハンバーガーショップはもちろん、チェーンのカフェなどでも限定で提供されている。どこかに食べに行くのかと思ったら、涼夏は自分たちで作ると言い出した。

「夜まで時間あるし、夕ご飯がてら自作しよう」

「悪くない試みだね」

 今日は遅くなることが約束されていたので、家には夕ご飯は要らないと宣言して出てきた。私の都合だが、千円札が提供されたので、交通費や材料費に充てよう。

 恵坂をスルーして久間で乗り換え、涼夏の家の最寄り駅までやってくる。スーパーに寄ってから涼夏の家にお邪魔すると、まだ誰も帰っていなかった。大体いつも、妹、涼夏、母親の順に帰ってくるらしい。涼夏がバイトの日は涼夏が最後だ。

 涼夏の部屋に荷物を置くと、まだ時間があるからと、1時間チャレンジをすることにした。いつもは私の部屋でしているので、今日は出張版だ。スカートだけ脱いでベッドの上でごろごろする。

 抱き付いてくる涼夏を受け止めて、膝を太ももの間に割り込ませる。肌がすべすべして気持ちいい。

 しばらくキスしていたら、涼夏が鼻息を荒くしながら服の中に手を入れてきた。奈都もそうだが、この人たちはベッドの上だと豹変する。私は特に何も変わらないが、二人に言わせると私の方がおかしいらしい。

「でも、絢音も割と平常心を保っている」

 制服の上も脱ぎながらそう言うと、涼夏が「何のことだ?」と首を傾げた。

「ベッドの上でも理性的に行動してる」

「内心滾ってるに違いない」

「それを表に出すか出さないかが大事だから。ところで、妹は帰ってこないの?」

「帰ってきたら諦める」

 そう言って、涼夏が下着姿で覆いかぶさってきた。諦めるというのは、この1時間チャレンジを諦めるという意味か、それとも姉としての矜持を諦めるという意味か。さすがに前者だろう。

 幸いにも妹が帰ってくることはなく、丁度1時間イチャイチャしてから、そろそろハンバーガーを作ろうとベッドを降りた。涼夏は顔を赤くして転がっている。とりあえず写真を撮って、「事後」と添えて絢音に送った。すぐに消してくれると思うが、最悪全世界に公開されても顔は見えないから大丈夫だろう。

「千紗都に写真を撮られた。リベンジポルノに使われる」

 涼夏がくすんと鼻をすすりながら、転がっている制服を手に取った。どうかこれからも、何のリベンジも必要のない関係のままでいたい。願掛けするように、そっと涼夏のお尻を撫でた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ