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番外編 十五夜(1)

【お知らせ】

Kindle版『ほのぼの学園百合小説 キタコミ!』第7巻が完成しました!

文化祭の後から涼夏の誕生日、番外編のTRPGまでを収録。

イラストも、TRPGの話を元にしたファンタジーな表紙絵の他に3点描いていただきました。

とにかく表紙が可愛いですので、是非一度検索してみてください!

 まだまだ暑いある秋の日、涼夏がスマホを見つめながら唸っていた。心配には及ばない。こういう時、大抵くだらないことを考えている。

 いや、涼夏にとっては大事なことかも知れないので、くだらないと決め付けるのは失礼かも知れない。ごめんなさい。

 ちなみに、前にあんな顔をしていた時は、バットレスダムについて考えていた。日本に6基しかなく、行ってみたいが全部遠いと嘆いていた。ちょっとよくわからない。

「今日は何について考えてるの?」

 気楽に話しかけると、涼夏が「天気だな」と言いながら画面を見せてくれた。天気予報のサイトが表示されていて、明日は曇時々晴れらしい。そんなに悪くない。

 思ったよりシンプルな内容だったが、油断してはいけない。天気というのは、何かあるから調べるのだ。一日中家に引きこもることが約束された日なら、天気などどうでもいい。

「明日、何かあるの?」

 特に帰宅部としてイベントを企画した覚えはないので、涼夏の個人的なことか、何かの行事かも知れない。今回は後者だった。

「明日は十五夜だな」

「ああ、七夕」

「違うな。チューチューの名月。千紗都とチューしながら月を眺める予定だ」

 真顔で言われたが、ツッコミ待ちなのか、スルーでいいのかわからない。逆だった時に前者の方が被害が大きいので突っ込んでおこう。

「涼夏って、時々そういうくだらないこと言うよね」

「わたし的には、頻繁に言ってるつもりだ」

 動じるどころか、むしろそれを望んでいるように、涼夏が力強く頷いた。ならばもう何も言うまい。

 満月は年におよそ12回。つまり、月に1回あって、それぞれに名前がついている。全部は覚えていないが、9月は収穫の季節なのでハーベストムーンと呼ばれている。

 この9月の満月を中秋の名月と言うそうだが、厳密に言うと、中秋の名月は満月とは限らないらしい。別の概念ということになる。

 調べてみると、中秋の名月とは十五夜の月のことで、十五夜とは旧暦の8月15日のことである。つまり、月からしたら、人間の決めた暦など知ったことかというところだろう。

「チューしてると、相手の顔しか見れないんじゃない?」

「月は千紗都の背後に、ぼんやりと存在を感じていればいい」

「逆にしよ? 月を見ながら、隣に友達の気配を感じるくらいがいい」

「妥当な意見だ」

 やや不満げに涼夏が言った。帰宅部に染まりすぎて、何か常に変わったことを追い求めないと満足出来ない体になってしまったようだ。部長として責任を感じる。

 このところの日の入りは18時くらい。つまり、通常の帰宅部活動を終えると、丁度月が見えることになる。

 少し長めの活動を提案すると、涼夏が静かに首を振った。

「日の入りと月の出はイコールじゃない」

「そういうもの?」

 まったく意識したことがなかったが、確かに時々青空に月が見えることがある。逆に、夜になっても月が見えないことがあるのだろうか。

 月の出月の入りなるものを検索してみると、今日と明日で月の出が30分も違った。月の出が真夜中の日もある。つまり、夜に空を見上げれば、必ず月があるというものではないらしい。

「私、月について全然知らなかった」

 自らの無知を嘆くと、涼夏が「これから知っていけばいい」と、付き合い始めたばかりのカップルのようなことを言った。

「ちなみに、私も昨日知った」

「一日の差で物知り顔の涼夏可愛い」

「大事なのはいつ知ったかではなく、今知ってるかどうかだな」

 勝ち誇ったように胸を張る。得意げな涼夏可愛い。

 なんだか随分明日の月に思い入れがあるようなので、晴れてくれたらと思う。願掛けするように、そっと涼夏の胸を撫でた。


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