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番外編 TRPG エピローグ(2)

※(1)からそのまま繋がっています。

 ルベルーデ家を後にすると、冒険者ギルドに報告に行った。相変わらず同じ職員で、感情の籠らない事務的な対応をされたが、最後にスズカが、「しばらくチェスターにいるから、依頼があったら教えてね」と言うと、職員の男性は無機質に頷いた。

「わかった。今のところ2つくらいあるな。猫探しのお嬢ちゃんたちにはピッタリな安い依頼だ」

 嘲るように笑ったが、トゲはなかった。今日はのんびりしたいから、また明日来ると言うと、職員はやれやれと首を振った。

「そういうところが甘いんだ。明日にはないかもしれんのに」

 それも一理ある。逆に言えば、明日になったら新しい依頼もあるかもしれない。

 外に出ると、ナツが可笑しそうに頬を緩めた。

「キミたちに出来そうなのはないから、2つに増えたね」

「ランクアップだな」

 スズカも勝ち誇ったように笑った。ポジティブな人たちだ。

 実際、少し認められた感はある。もしかしたら、先程宿で会った3人からも私たちの話があったのかもしれない。

 話しかけられた感じからしても、あの3人は私たちの行動を把握していた。しかし、私たちはあの人たちの存在に気付いてすらいなかった。

「私たち、しょぼいなぁ」

 大きくため息をつくと、スズカが「まだ15歳だしな」と笑った。それは言える。

 お金も手に入ったので、宿に戻って勝利の美酒を味わうことにした。美酒と言ってもお酒は飲まないので、特産の果実ジュースを頼む。宿のマスターが、「酒は飲まんのか?」と呆れるように言った。

「女の子が酔っ払っちゃ危ないって家訓なんです」

 適当に答えると、「昨日殺し合いをしてきた人間の台詞じゃねーな」と笑われた。

 昨日の殺し合いと言われて、ふと思い出した。そう言えば、すっかり忘れていたが、あのマナ使いがアヤネを見て驚いた顔をしていた。

 名前を思い出せずにいると、ナツが「デラリー様だね」と即答した。盗賊スキルを磨いたおかげか、記憶力がいい。

「それそれ。聞き覚えないです?」

 マスターに聞くと、マスターは「知らねぇなぁ」と首をひねった。

「ハークゲルトの人かもしれない」

 追加で情報を与える。あの男たちが本当にハークゲルトの元兵士だとしたら、彼らが様付けで呼んだ相手はハークゲルトの偉い人だろう。

「そりゃ、ハークゲルトの王女様だろ」

 マスターではなく、別のテーブルから声がした。見るとこちらは初めて見るパーティーで、その内の一人が大きく頷いた。

「デラリー王女は、5年前の内乱で殺されたロイモン王の妹だ」

「王女も殺されたの?」

「いや、ずっと前に嫁いでるはず。お姉さんのジェレミー王女も、別の国に嫁いでたはずだ。そうやって周辺の国と上手に関係を築いてたのに、あんなことになっちまってなぁ」

 男が声に悔しさを滲ませた。もちろん内乱で国が転覆したことを言っている。ルーファスと国交があったのも今や昔の話だ。

 お礼を言ってから、マスターが持ってきたジュースで乾杯した。ついでにお肉も頼む。

「じゃあ、アヤネはその王女様に似てたってことだな」

 スズカの言葉に、アヤネが柔らかく微笑んだ。

「光栄だね。いっそデラリーですって嘘をつけば良かったかなぁ」

「ずっと前のことでしょ? 王女が若かった」

「じゃあ、デラリーの娘です」

「王様の姪が冒険者かー」

 それはまたお転婆というか、教育を誤ったと嘆くしかないだろう。幸か不幸か、アヤネはルーファスの辺境の村に産まれた、平凡な村娘だ。王女で通じそうな美人だが、それはスズカも同じである。

 お肉を食べながら王女様の話で盛り上がっていると、聞き慣れた声で話しかけられた。未だに名前を覚えられないが、スズカはしっかりと覚えていて陽気に手を振った。

「やあ、バイラス君、リツィオ君。どっちがどっちか知らないけど」

「完全に2人セットだな。昨日はお疲れ様。キミたちが無事で良かった」

「せっかく助けてもらったしね。慎重に生きるよ」

 スズカがそう言って笑ったが、昨夜の戦いもかなりギリギリだった。本来はもう少し余裕でこなせる依頼だけを受けるべきなのだろう。もっとも、受ける段階では敵の強さはわからないので仕方ない。

「そっちは? 依頼の物は無事に取り返せた?」

 私が聞くと、若者たちは当然とばかりに頷いた。

「あんなに色んな人にアシストされて、失敗しましたは恥ずかしいな」

「そう。リーダーからこれを預かった」

 そう言いながら若者の一人がテーブルに置いたのは、綺麗な宝石だった。魔宝石ではないが、売ればトリノアからもらったくらいの額にはなりそうだ。

「これは?」

 スズカが不思議そうに聞く。二人は昨日の礼だと言った。

「マナ使いを片付けてくれたのと、ドワーフたちを呼んでくれたことに対して、リーダーがお礼にって」

「あのおばさんが? でも、マナ使いの方はお互い様でしょ? 私たちも依頼を受けてたし、助かった」

「それでもまあ、感謝の気持ちだ。うちのリーダーの自己満足だから取っておいてくれ」

 そういうことならと、スズカが宝石を受け取って袋にしまった。結果的に今回の冒険で得た宝石類はなかなかの金額になったが、それに見合うだけの危険を冒したのも確かだ。

「次に同じようなことがあったら、もっとちゃんと連携したいね。おたくのエルフさん、ちょっとぶっきら棒だったよ?」

 私がそう言うと、若者たちは「次があれば」と苦笑いを浮かべた。首を傾げると、もう一人が口を開いた。

「次の依頼でこの町を出る。シャイードの方に行くことになりそうだ」

「そっか。それは残念だね」

「そういうことだから、今夜は一緒に飲もう」

「それはないかな」

 軽くあしらうと、男たちは残念そうに項垂れた。やはりナンパだ。

「次に会う時も味方だといいね」

 今回の件で、初めてチームというものを意識した。これまでは4人で遺跡に潜るだけだったが、今回は私たちも含めて4つのパーティーが一堂に会して戦った。

 向こうがどうかはわからないし、それが冒険者としていいことかもわからないが、少なからず仲間意識が芽生えた。

 男たちが部屋に戻って行き、私たちは再び4人になった。

 4人で村を出て、色んな人と会って、別れて、またこうして4人になる。それでいい気もする。

 4人で旅を続けよう。次の冒険も楽しみだ。


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