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番外編 TRPG エピローグ(1)

※今回、話の切れ目ではないところで切っています。

 宿に戻ると明け方だった。そのままトリノアと会うにはあまりにも早いし、身なりもひどい。

 部屋で猫を放つと、さすがに元気がなかった。私たちも元気がないので我慢して欲しい。

 食べ物と水を与えてから、私たちは限界まで傷を回復させてぶっ倒れた。

 昼頃目を覚ますと、すでに起きていたナツが猫をあやしていた。元々精神力を使っている私たちと違って、怪我さえ治ればナツは元気だ。

「おはよう」

 まだ本調子ではなかったが、起きて身なりを整える。

「この猫と過ごした時間は、血と戦いの歴史だった」

 ナツがよくわからないことを言い出したので、そっとしておいた。しかしまあ、考えてみればいきなり使い魔にされ、熊の魔物に追い回され、何時間も袋に詰め込まれて、この猫も波瀾万丈な人生だ。

 スズカとアヤネも起きたので、猫も連れて食事にすることにした。戦勝祝いは猫をエレノアに返してからすることにして、軽い食事で済ます。

 食べている最中に、不意に他のパーティーから声をかけられた。

「昨日はご苦労だったな。無事で何より」

 見ると男性の3人組で、人間とエルフ、それにドワーフという異色の組み合わせだった。何度か目にしていて、珍しいと思って見ていたが、挨拶すらしたことがない。

 私が咄嗟に反応できずにいると、コミュニケーション担当が陽気に応じた。

「ありがとう。3人も森にいたの?」

「あの5人組に、陽動を依頼されてな。まあ、相手さんも明らかに陽動だとわかっていたみたいで助かったが。全員で打って出てきたらどうしようかと冷や冷やしたわい」

 ドワーフが豪快に笑った。なるほど。私たちが昨日考えたことを、あの5人はとっくに実行していたというわけだ。

 経験もスキルも財力も、何もかも太刀打ちできない。でも、こうして自分たちがいかに駆け出しであるかを思い知るのはいいことだ。慢心は命取りになる。

 食事を済ますと、早速トリノアに猫を返しに行くことにした。ルベルーデ家の門を叩くのは初めてだし、実際に使用人から不審な目で見られたが、自分たちはそういう存在だとわきまえている。ルベリーを見せながら事情を話すと、トリノアに取り次いでもらえた。

 入ったこともないような豪奢な応接室でトリノアと再会する。お嬢様は嬉しそうに猫を抱きかかえながら、いつもの生意気な口調で言った。

「正直、期待してなかったわ。冒険者に依頼とかするの、初めてだったし」

「私たちも、依頼とかされるの初めてだった!」

 ナツが相変わらず独特の受け答えをして、トリノアが面食らったように目を丸くした。

 約束のお金を受け取ると、トリノアが「それで」と切り出した。

「あなたたち、しばらくチェスターにいるの?」

「そのつもりだけど」

 まだはっきりとそう決めたわけではないが、少なくともここにくる道中にはそういう話をしていた。あのドワーフを助けてから色々なことが立て続けに起きたが、当初の予定を変更するつもりはない。

 もっとも、相変わらず冒険者ギルドから見下されるようなことがあれば考えるが、どうだろうか。鼻で笑うギルドの職員の顔を思い出していると、トリノアがほっとしたように息を吐いた。

「そう。それなら時々、ここに来なさい。紅茶とケーキくらいはご馳走するわ」

「はぁ」

 謎の申し出だ。スズカと顔を見合わせると、ナツが紅茶をすすりながら笑った。

「つまり、お友達になりたいってこと?」

 なるほどそういうことかと、ポンと手を打つ。お嬢様だし、同世代の女友達があまりいないのかもしれない。

 ナツの言葉に、トリノアは顔を真っ赤にして早口にまくし立てた。

「全然そんなこと言ってないから! ケーキ付きで有益な情報を交換してあげようっていう、私の優しさがわからないの?」

「そっか。トリノアは優しいね」

 私が笑いを堪えて目を細めると、トリノアは怒ったようにそっぽを向いた。

「もういいわ。顔も見たくない!」

「はいはい。落ち着いたらまた遺跡に潜るから、土産話を持ってくるよ」

「あんまり危ないことするんじゃないわよ?」

 お母さんのようなことを言って、トリノアが表情を曇らせた。

 危険な依頼をしたのはトリノアのはずだが、得体の知れない冒険者から、知人友人にランクアップしたのだろう。

 実際、いつまで冒険者を続けるかという話はしていないわけではない。普通の仕事では手に入れられないお金を手に入れたら、どこかに定住することも考えているが、それは今ではないし、ここでもない。


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