表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
330/377

番外編 TRPG 5(2)

※(1)からそのまま繋がっています。

 戦うのなら、この配置はよくない。範囲魔法で一網打尽にされる危険を回避するために、すぐにアヤネとナツが斬りかかった。私は壁の上の男に石つぶてを放つ。スペルなので当たり前だが、直撃して男は壁の向こう側に落ちていった。倒してはいないだろうが、戻ってくるまで時間が稼げる。その数十秒が大事だ。

 2対2で斬り結ぶ後ろから、マナ使いの両手から強烈な稲妻が私に向かって迸った。スズカがまだ使えない高位の攻撃魔法だ。

 かなり痛かったが、どうにか堪えた。こうなると、私に使ってくれたのは有り難い。倒れさえしなければ、スペルで怪我を治せる。しかも精神力も限りなく満タンだ。

 スズカはあくまで攻撃魔法は使わずに、アヤネの武器を強化した。ナツが一人を足止めしてくれている間に、アヤネが一人を打ち倒す。今のところ、1対1で戦って勝てるのはアヤネだけだ。もっとも、それもスズカの補助があってのことで、アヤネも後ろに私たちがいるから全力で戦える。

 15年を超える付き合いだ。冒険者としての経験不足はチームワークで補う。

 壁から落ちた男が戦線に現れたが、再び私の石つぶてとスズカの放ったエネルギーの矢を受けて動かなくなった。ほとんど同時にアヤネが斬り結んでいた相手を打ち倒したが、それによって前に壁がなくなり、マナ使いの稲妻をまともに浴びる。

 アヤネが地面に倒れたが、スズカの魔法の防御もあるので命は大丈夫だろう。

 私は剣を引き抜いて走った。ナツの隣をすり抜けて、マナ使いに斬りかかる。

 手応えはあったが、マナ使いは踏みとどまって、三度目の稲妻を放った。ギリギリ堪えたが、私ももう限界だ。ただ、さすがにもうマナ使いもスペルは使えまい。

 スズカの放ったエネルギーの矢がナツの相手に突き刺さり、前向きに倒れ込んだ。ナツがすぐにマナ使いに斬りかかる。

 これで勝ったと思ったが、剣を振り下ろした先に使い魔の猫が躍り出て、ナツは寸前で剣を止めた。男がニヤッと笑って、四度目の稲妻を放った。

 いくらなんでも、そんなに精神力がもつはずがない。魔宝石か何かを使っていたに違いない。誤算だ。

 既に斬り合いで怪我をしていたナツは、アヤネ同様完全にやられてしまった。無傷のスズカが私に回復魔法をかける。

 マナ使いも私の貧弱な一撃を受けただけで、ほとんど無傷だ。もし私が倒されたら、マナスキルの低いスズカでは勝てない。

 剣を掲げて走る。男が余裕の表情で両手を突き出す。まさかの5回目。それを使われたら、命まで危ない。

 相手の方が一瞬速い。諦めかけた刹那、男の足に魔法的な蔦が絡み付き、私の切っ先が男の胸を深々と貫いた。


 どうにか勝ちを収めると、まずはただの猫に戻ったトリノアのペットを確保する。魔法で眠らせたいが、それに精神力を使う余裕はない。

 無理矢理袋に押し込むと、仲間のもとに急いだ。最後に死力を振り絞って精霊スペルを使ってくれたアヤネが、もうダメだと大の字になって倒れている。

 まずはナツを回復させて、スズカがアヤネの傷を癒した。

 マナ使いの腰に提げられた袋を漁ると、魔宝石がごろごろ出てきた。魔宝石はその名の通り、普通の宝石とは異なり、魔力を帯びている。効果は様々だが、それがどういうもので、どのように使うかは勉強したマナ使いにしかわからない。

 恐らくこの中には、精神力を回復するようなものもあるのだろうが、生憎私たちにはその知識がなかった。

「ちょっと、帰ったらちゃんと魔宝石の勉強する」

 スズカが無念そうに言った。高値で売れるし、そんな高価なものを戦闘や冒険のワンシーンで使うことを想定していなかったが、命には代えられない。今だって、もし精神力を回復させる魔宝石があったら、たとえそれが1万ツェルで売れるものだったとしても、ここで使いたい。

 周囲では戦闘が続いている。どうやらこの男がこの集団のボスというわけではなかったらしい。

 ひとまず戦利品として魔宝石をいただくと、これからどうするか相談した。

「まあ、行きたいけど無理でしょ」

 スズカが苦笑いを浮かべる。目を覚ましたナツも、疲れた表情で頷いた。

 本当はドワーフたちにも会って、お礼を言うとともに、確かに私たちもここにいたということを証明したい。この盗賊たちの持つ宝石類も気にはなる。それらがすべてあの5人組に持っていかれるのは悔しい。

 ただ、そもそも私たちの受けた依頼は猫探しだし、あのエルフが助けてくれなければ、私たちは今頃くまなく舐められていたか、あるいは殺されていただろう。

 今こうして袋に入れた魔宝石だけでも、トリノアのお小遣いでくれる依頼料の数倍は価値がある。実力相応に、これ以上欲を出すべきではない。すでに全員満身創痍で、これ以上の戦闘は無理だ。

 それに、猫のこともある。もし何らかのミスをして猫を逃がしたり死なせてしまったら、信頼を得るチャンスを失ってしまう。私たちの初めての依頼を、失敗で終わらせるわけにはいかない。

「退こう」

 この遺跡にはまた戻ってくる。「赤の森」同様、しばらくはチェスターを拠点にして「紫の森」を探索するつもりだ。焦ることはない。元々この盗賊退治は予定になかったものだ。

 夜陰に乗じて、私たちは遺跡を出て森に戻った。背後ではまだ戦いの音や声がしている。

 どうかあの5人もドワーフたちも無事でいてほしい。そう願いながら、私たちは静かに遺跡を後にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ