番外編 TRPG 4(2)
※(1)からそのまま繋がっています。
スズカが残りわずかな精神力で眠りのスペルを使ったが、不発に終わった。私は直接的な攻撃スペルで応戦したが、こちらもあまり効果がない。やはり魔物と戦った疲れがある。
スズカが最後の魔法だとアヤネの剣を強化して、アヤネが渾身の力で一人を斬り捨てた。しかし、アヤネも棍棒で殴られて地面に倒れ込む。ナツは善戦しているが、短剣による攻撃はあまり効いていない。
「やっぱり足止めするべきだった!」
今さら言っても遅いが、最初からいつもの戦い方をするべきだった。私たちは植物の精霊と仲良しなのだ。
このままでは負けると思った時、どこからか飛んできた矢が男の背中に刺さり、よろめいた男の首をナツの短剣が貫いた。
これで2対2。回復魔法分は残さなくてはいけないので、最後に精神に働きかける混乱のスペルを使って、一人の動きを一時的に無効化した。
剣を抜いてナツと二人で最後の一人の相手をする。やはり素人の動きではなく、私は呆気なく斬られて地面に倒れ込んだ。同じように、混乱していた男が弓矢の攻撃を受けて崩れ落ちる。
これで1対1。いや、1対2か。
そこで意識が途切れ、すぐに温かい感覚に包まれて目を覚ました。目の前に弓をかけたエルフの女性がいて、私に回復のスペルを使ってくれている。
一瞬に思えたが、何分か気を失っていたらしい。周囲には男たちの死体が転がり、ナツが疲れ切った顔で座っていた。猫の姿はない。
「起きたなら後はやって」
エルフに言われて、アヤネの傷を治した。スズカはスペルを使い過ぎて倒れているだけなので放っておく。
「助けてくれてありがとう」
エルフに助けられるというその時点で悔しいが、一応お礼を言うと、エルフはわざとらしくため息をついた。
「あなたたち、自分の力量を知りなさい。たった1回のミスで全部終わるのよ?」
怒られた。言っていることはもっともなので、先輩からの有り難い教訓として受け止める。スズカが寝ていてよかった。
3人でしゅんとしていると、エルフは「まあでも魔物との戦いは良かったわよ」と褒めてくれた。飴と鞭というやつか。
状況を聞こうと思ったが、エルフはさっさと立ち上がって私に紙切れを投げた。受け取ると、森の地図が描かれていた。
「それ、あいつらがアジトにしてる遺跡の場所。決行は今夜。別に来なくてもいいけど、私たちは猫を助ける依頼は受けてないからね」
それだけ言うと、エルフは音も立てずに森の中に消えていった。あの動きは私たちがどれだけ森に慣れても真似できない。
話したいことは色々あるが、とにかくここは危険だ。盗賊はもちろん、今なら動物に襲われてもひとたまりもない。
何とかスズカを起こして、状況を簡単に説明すると、急いで森を後にした。
ほうほうの体でチェスターに着くと、真っ先に宿に戻った。1階にいた適当な精霊使いにお願いして、精神力を回復してもらう。
怪我と違って寝ればすぐに回復するので、いつもならスペルで怪我だけ治して休むのだが、今は時間が惜しい。
謝礼を払って部屋に戻ると、改めて地図を置いて状況を確認した。
「決行は今夜って言ってた。私たちに期待はしてないと思う」
「助けてはくれたけど、信用していいかは怪しいなぁ。囮に使おうとしてる気がする」
スズカが神妙な様子でそう言った。
彼らの目的は盗まれた魔宝石である。私たち以上に彼らと戦う必要がないから、混乱に乗じて盗み返す方が早い。その混乱の引き金に、私たちを使おうとしているというのがスズカの見立てだ。
「ナツは起きてたでしょ? 猫はあのエルフを認識してた?」
いつの間にかいなくなっていた白猫。敵のマナ使いが何をどこまで把握しているかで、難易度が大きく変わる。いっそ私たちだけ知られていて、私たちが囮になれば彼らの依頼の成功率は上がるが、それは私たちに何のメリットもない。
助けてくれた恩は返したいが、それに命は賭けられない。
「あのエルフが姿を見せた時、猫はいなかったと思う。でも、仲間が矢で撃たれてたから、確実に第三者の存在は認識してるはず」
ナツの意見はもっともだ。正直に言えば、今は一番襲撃に適さないと思う。相手も仲間を殺されて警戒しているだろう。何故今夜なのか。
「元々不意打ちを予定してたのを、私たちが邪魔しちゃった? 私たちなんて見捨てても良かったはず」
「見捨てるのは、寝覚めが悪かったんじゃない? それに、やっぱり助けることで、少なからず私たちの応援を期待してるとか」
「あのエルフが単独行動だったのも気になる」
私が首を傾げると、ナツがそれは聞いたと手を挙げた。
「一人であの男たち4人とも片付ける気だったみたい。分散させて少しずつ数を減らすって」
「じゃあ、なおさら急がない方が」
「潮時だって、魔宝石持って遠くに逃げられたら終わりじゃん?」
そのスズカの意見が一番しっくり来た。彼らは「紫の森」にこだわる必要が、恐らくない。いつでも離れられるが、それでも準備は必要だ。だから今夜。
「行くしかないね。でも、私たちの目的は、あくまで猫だから」
そこだけはブレてはいけない。なるべくならマナ使いは殺さずに解除してもらいたいが、禍根が残るのも怖い。
準備を整えて再び外に出る。本当は1階にいた冒険者に声をかけて集団で乗り込みたいが、それは出来ない。冒険者は兵士でも住民でもないのだ。
彼らに命懸けの依頼を出来るようなお金はないし、そもそも私たちの成功報酬も2500ツェルしかない。
諦めて森に向かおうとしたその時、通りの向こうに見覚えのある子供のようなシルエットを発見した。ドワーフたちだ。
彼らも森とともに生き、人間が手伝ってくれたらと言っていた。その言葉を、そのまま彼らに返したい。
一応仲間たちを振り返ると、言葉にするまでもなく、スズカが早く行こうと私の背中を押した。
私たちはドワーフたちのもとに走り出した。




