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第64話 京都 5

 当初絢音と、涼夏らしいスポットとはどこかと話していたが、清水坂は私が考えていたより遥かに若者向けのオシャレスポットだった。

 食べ歩き的にはシュークリームやバームクーヘン、いちご飴、フルーツ大福、団子に饅頭、何故かきゅうりと揃っており、ファンシーなキャラクターショップ、多種多様な土産物屋、和菓子の老舗、もちろん八つ橋も買えるし、湯豆腐、蕎麦屋、茶わん坂にもあったような陶磁器の店やお茶屋さんと、新旧入り混じってカオスな状態になっている。

「これはすごいな。お店のテーマパークだ」

 涼夏が目を輝かせるが、お店のテーマパークというのは若干違和感のある表現だ。

「アウトレットモール的な響き」

「大型ショッピングセンターもお店のテーマパークかな」

「行こう、父さんは帰ってきたよ」

 口々に感想を述べると、涼夏が「それはいい」とばっさり切って歩き始めた。

 とにかく何かお腹に入れようと、みたらし団子を買って食べる。普通のみたらしときなこの団子の2本食べたら、それなりにお腹が満たされた。

 さらに生八つ橋を一通り試食して、涼夏がいくつか買うのを見届けてから、抹茶のスムージー的なものを飲み、豆腐的なソフトクリームとバームクーヘンを食べたらお腹がいっぱいになった。

 涼夏はそこにさらに抹茶大福を食べて動けなくなっていた。

「余は満足した。京都を堪能した」

「まだお昼だから。三年坂を降りていくよ」

 絢音が涼夏の手を引きながら、清水坂を右に折れて細い石段を下る。ここも観光客でひしめき合い、通りには京都らしいショップが建ち並んでいた。

「三年坂は転ぶと3年で死ぬみたいな話もあるけど、それは全然関係なくて、産婦さんが安産を祈願しながら登る坂だよ」

 絢音がガイドを再開する。確かに産寧坂と書いてあったので、それっぽい響きだ。

「産婦御社に虫散々闇に鳴くやつだな」

 涼夏がうんうんと頷くと、絢音が「それだね」といかにもテキトーに頷いた。

「三年坂は東山八坂の一つで、八坂神社に坂の神が祭られてる」

「一年坂、二年坂、三年坂、四年坂、五条坂」

 奈都が指折り数える。一年坂と四年坂は聞いたことがない。そもそも本当に8つもあるのだろうか。

「二年坂はこれから行くけど、産寧坂が三年になったから、そこに続く坂ってことで、二年坂になったよ」

「転ぶと2年で死ぬと」

「零年坂は転ぶと即死する」

「暗殺に使えそう」

 くだらない話をしながら二年坂を右手にスルーして、八坂の塔までやってきた。写真でよくみる立派な五重塔だ。拝観するにはお金がかかるが、とても大きいので西側から普通に全景が見られる。

「この塔は聖徳太子の命令を受けて、当時の大工さんが建てたって言われてる」

「聖徳太子って実在したの?」

「諸説あるね」

 諸説あるというのは実に便利な言葉だ。今度奈都に好きか聞かれたら使ってみよう。

 この八坂の塔から西に少し歩くと、目的地の一つである八坂庚申堂がある。境内は広くないが、くくり猿がたくさん吊るされた、フォトスポットとしても有名なお寺だ。

 写真を撮る順番を待つ間に、涼夏がくくり猿とは何かという、根本的な質問をした。私も知らないので絢音を見ると、絢音はもちろん知っていると頷いた。

「手足をくくられた猿だね。私も涼夏の手足をくくりたい」

「くくってどうするの?」

「いたずらする」

「猿に?」

「涼夏に」

 話が噛み合っていない。奈都が何か言いたげに私の方を見たので、そっと距離を置いた。どうもこの世界には、友達の手足をくくりたい人間が多いようだ。

 二年坂に戻り、高台寺へ抜ける。ここまで来ると少し人混みも落ち着いた。若者向けの店も減ったし、お店のテーマパークはここまでだ。

「ここからオールド京都だね。中には入らないけど、高台寺に上がっていくよ」

 絢音が先導して階段を上がる。広い駐車場の右手に、何やら巨大な仏像が顔だけ覗かせていた。

「霊山観音だね。京都で一番大きい観音像とかなんとか」

 絢音がそう言うと、涼夏がせっかくだからと手を合わせた。私も健康祈願をしたが、三人が願い終えてから絢音がにっこりと笑った。

「慰霊施設だから、願い事を言われても困るかもね」

「先に言ってよ!」

 三人の突っ込みが綺麗に重なって、絢音が可笑しそうに顔を綻ばせた。

 高台寺は中に入らないとこれと言って見るものはなかったが、外に牛がいたので撫でておいた。東山路傍の触れ仏という、触れる仏様や仏具の一つらしい。他にも、ねねの道沿いに大黒天や布袋の像などがあるようだ。

 みんなでマニ車を回してから、涼夏が17歳の1年を占うべくおみくじを引いた。随分と期間が長いので悪い内容だったらと心配したら、案の定末吉で涼夏が無念そうに首を横に振った。

「今年はもうおしまいだ。大人しく生きよう」

 悲しそうにそう言ったが、内容は読むとそれほど悪くなかった。願い事も時間はかかるが叶うし、待ち人は遅いけど来る。学問は困難とのことだが、努力しろと書いてあるので、努力すればきっと大丈夫だろう。

「出産が安産だから、今年もイマジナリーベイベーをどんどん産んでいこうと思う!」

 涼夏が元気にそう言った。少し頭がおかしいようだが、病気は気長に養生すれば治るとのことなので、少しずつ快方に向かってくれたらと思う。


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