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第63話 スタンプ(3)

※(2)からそのまま繋がっています。また、今回も話の切れ目ではないところで切っています。

 モールは想像したより大きく、飲食店も20店ほどあった。せっかくなので見慣れない店に入ろうという意見も出たが、結局時間的な問題と金銭的な問題で、安いソールフードのラーメン屋に入った。極めて平常運転だが、千円も出して小籠包を食べるようなシーンでもない。

「ここからいよいよ虚無度が上がるけど、これが終わったら私たちは、また一つ上のステージに進める気がする」

 涼夏が真顔でそう言って、自分に言い聞かせるように頷いた。大きな苦労を共にした仲間という意味だろう。こうして帰宅部の結束は強まっていくのだ。

 ふとここにいないもう一人の愛友を思い出して苦笑いすると、涼夏が「どうした?」と私の顔を覗き込んだ。

「ううん。奈都はこういう時にいないから、全然ステージが変わらないなぁって思って」

 一応誘ったのだが、曖昧に逃げられた。他の用事があった感じでもなかったから、気が乗らなかったのだろう。あの人は私みたいに、することがないから一人で遊ぶわけではなく、一人で遊びたいからそれを選ぶ瞬間がある。今日もこの虚無系のスタンプラリーと一人で家にいる時間を天秤にかけた結果、後者を選んだのだろう。

「まあ、この遊びに無理強いは出来ぬ。かなりの忍耐力が要される」

 涼夏が奈都をかばってくれて、絢音は「普通に面白いけど」と、発案した涼夏をかばった。絢音に関しては本当に楽しんでそうだ。私も涼夏と絢音との時間を楽しんでいるが、スタンプラリー自体はただの作業だ。

 駅に戻り、イエローライン同様、紅葉通線の攻略を開始する。早速次の駅で降りて改札内のスタンプを押し、次の電車が来るまで約8分。そろそろスタンプラリーについて話すこともなくなってきたので、地図アプリを開いて、近くに何かないか見てみた。

 何もなかった。カフェで検索したら無人のカフェが出てきたので、どういうものか調べていたら次の電車が来た。ちなみに件のカフェは、自販機の置いてあるワーキングスペースのようなものだった。

 1分ちょっと乗って、また次の駅で降り、改札の外のスタンプを押す。待ち時間に同じようにカフェを検索すると、今度は点心とお茶の楽しめる店がヒットした。なかなか独特だ。

「この遊びは悪くないな。外を歩く時間がない分、オンラインで散歩してる気分だ」

 涼夏が生気の宿った声で言った。ついに虚無状態を脱したようだ。

 そうは言っても、また一駅乗って降り、スタンプ3つで30分は心が折れる。11個のスタンプを押して古沼に戻ると、すでに14時半。そのまま終点まで続けて、紅葉通り線全17のスタンプを押し終えて中央駅に戻ると、時刻はもう16時になっていた。

 乗って降りて階段を歩いて、普通に疲れが溜まってきた。それに、朝言っていた通り、もう随分長いこと外の景色を見ていない。紅葉通線は比較的新しいこともあって駅の作りが同じで、それも退屈に拍車をかける。

「これ、全部集める猛者は何人いるんだ?」

 涼夏がホームで項垂れながらぼやいた。一応参加者はいるようで、同じタイミングで同じことをしている人に、何組か遭遇した。すべて親子か、小中学生の男子グループだ。薄々気付いてはいたが、これは女子高生がやるような遊びではない。

「中間賞のバッジは先着1万個って書いてあるね。なくなる想定の数じゃないって感じるけど」

 そう言いながら、スタンプ帳の最初のページを指差した。ちなみに全部制覇した際にもらえる景品は、個数が限定されていない。スタンプ帳自体が3万冊なので、3万個用意されているのかもしれない。あるいは、状況を見ながらすぐに増産できるのかもしれない。中間賞の個数を考えると、3万個あるとは考えにくい。

「時間のある小学生ボーイたちは、楽々全部押しそうだな」

「逆に、地下鉄以外の施設が手強いかもだよ? 入場料がかかる施設もあるし」

「これ、お父さんお母さんは楽しんでやってるのかなぁ。虚ろな目で回ってそう」

「絢音が私たちといるだけで楽しんでくれるみたいに、子供が楽しかったら親も楽しいんじゃない?」

「素敵な親子像だな」

 そうこう話している内に、イエローラインの反対側の終点に到着した。ここから先、古沼まではスタンプ9個。9駅しかないわけではないが、一部乗換駅は亀歩公園線やパープルラインのページになっている。

 ちなみにこの先はほとんど私の定期券の範囲なので、心が折れそうだったら私がスタンプ帳を預かって、全部押してきても構わない。一応中央駅にいる時にそう提案したが、二人ともやり遂げる意向を示した。


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