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第62話 文化の日(4)

※(3)からそのまま繋がっています。

「今はもう動いてないみたいだけど、時々点検のために動かしてるって。いや、今はもうそれもやってないのかな?」

「じゃあ、朽ち果てる運命だな」

「それを防ぐための文化財登録でしょ」

 文化的な話をしながらデパートまで歩き、屋上に行く。果たしてそこには、9つのゴンドラを有した可愛らしい観覧車があった。私たちの他に人はいない。

「もしかしたら、文化の日に文化財巡りをしてる人って、少ないのかもだな」

 涼夏が感慨深げにそう言うが、もしかしなくてもそうだろう。奇抜な遊びだと思う。

 案内板によると、高さは12メートル。戦後10年ほど経った頃に造られ、50年稼働したそうだ。

「今度みんなで観覧車に乗るのもいいな。微妙に高いけど」

 涼夏の言葉に、ふと春に奈都と観覧車に乗ったことを思い出した。

「私、奈都と港の観覧車に乗った」

「そうだったね。どうだった?」

「抱き合ってキスしてた」

「エロいな。さすがナッちゃん」

 涼夏がそう言うと、絢音もキャーと女の子みたいな声を出した。女の子だけど。

 私からした気がしないでもないが、そうだとしても奈都がそうして欲しいだろうと考えてのことなので、奈都からしたのと同じだ。訂正する必要はあるまい。

 そろそろいい時間になったので、涼夏と二人で観覧車のポーズで写真を撮ってデパートを後にした。

 コンビニ経由でバイトに行くという涼夏と別れて、私は絢音ともう一つの国の文化財を見に行くことにした。こちらは神社の中にある塀で、江戸時代の後期に造られたもののようだ。塀といっても壁ではなく、透垣という、隙間のある木造のものだ。

「塀が200年前ってことは、神社はそれより前からあるってことだもんね」

 私が言うと、絢音がそうとは限らないと首を振った。確かに、先に塀があってもおかしくはないが、調べたら神社は江戸時代の前期から存在していた。

「神社の方は県の文化財になってたりして」

 そう口にして、初めてそう言えば県の文化財は調べていなかったと思い至った。忘れない内に塀のポーズで写真を撮って検索すると、また新しいものがたくさん出てきた。頂相とか墨跡とか、もはや文字を見てもどういうものか想像もできないが、ほとんどすべて同じお寺に所蔵されていて、しかも公開はされていないようだった。

 なんだかんだと4つも見たし、奈都の演技を見てから3時間以上経っている。お腹も空いたし、文化財巡りはこれくらいにして、総踊りを見に私学フェスの会場に戻ることにした。

「楽しかったね。勉強になったし」

 絢音がそう言って顔を綻ばせる。可愛い。

 私も楽しかったが、涼夏はどうだっただろう。そんな疑問を口にすると、絢音は疑いのない眼差しで言った。

「涼夏も楽しんでたでしょ」

「だよね。なんか、1年半一緒にいるけど、未だにあんな可愛い子をこんなくだらない遊びに付き合わせていいのかって思っちゃう。いや、絢音が可愛くないっていう意味じゃなくてね?」

 誤解のないように付け加えると、絢音は何を言ってるんだかと肩をすくめた。

「鏡を貸そうか?」

「持ってる」

「私の素晴らしい企画をくだらないって言った?」

「言ってない。もしくは言葉の絢音」

「言葉の私」

 絢音が嬉しそうにはにかむ。可愛い。

「涼夏も千紗都と一緒で、何をするかより、誰とするかで楽しめる人だね。私は半々だし、ナツは何をするかを重視してるように感じる。だから千紗都の企画でも断ったりする」

「言われてみるとそうだね」

 あまりそういう観点で考えたことがなかったが、確かに奈都はみんなでワイワイできたらそれでいいというタイプではない。そのくせ、楽しそうと思える範囲が狭いから、結果としてただの付き合いの悪い子になってしまっている。

「困ったものだ」

「まあ、俳句を作ったり文化財を巡ったり、私たちの活動が特殊だっていうのはあるよ。帰宅部対抗トラスポ大会は予定空けて来てくれたし」

「足りぬ。好奇心も私への愛も足りない」

 奈都は甘やかしてはいけない。眉間に皺を寄せて首を振ると、絢音がくすっと笑って私の腕にしがみついてきた。

「ナツは千紗都といる時間が長いから。私は千紗都の隣にいることが当たり前にならないように、常に新鮮な気持ちでいよう」

 慣れと飽きは紙一重だ。毎日新しいことをするのは難しいが、これからも全方位に好奇心のアンテナを張り巡らせて、充実した帰宅活動をしていきたい。


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