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第62話 文化の日(1)

※今回、話の切れ目ではないところで切っています。

 文化の日に、奈都が私学フェスでバトンを回すという情報をキャッチした。朝、本人が言っていただけだが。

 私学フェスとは、文字通り私学の高校生が集まって、様々なステージを行ったり、模擬店を出したりする文化祭みたいなものだ。

 公立をはばにするような企画だが、そもそも公立と私立の授業料の格差を是正しようという活動が元になっている。今はお祭り色が濃くなり、公立高校も普通に参加している。

 私学の授業料が高いのは当たり前なのだが、本人の学力ではなく、親の経済的な理由で学びたい学校で学べないのは良い状態ではない、というのが活動の趣旨だ。

 それについての私の個人的な意見は差し控えるが、とりあえずみんなで集まってワイワイやるのは面白い。お祭り事に全力で臨むのは帰宅部の基本方針である。

 この日は涼夏が15時からバイトだが、幸いにも奈都のステージは10時半からだったので3人で見に行くことにした。会場は大きな公園で、涼夏の家からもバイト先からも電車で1本だ。

 現地集合で、少し早く着いたがすでに絢音も涼夏も来ていた。フェス自体は9時から始まっており、なかなか賑わっている。少し暑いが綺麗な秋晴れだ。

「さっき絢音と喋ってたんだけど、私学フェス自体は今からナッちゃんのステージまでいたら満足すると思う」

 合流するや否や涼夏がそう言って、隣で絢音も二度頷いた。実際、奈都以外に知り合いは参加していないし、内容的には文化祭のグラウンド部分だけを切り取ったようなイベントだ。楽しいが新しさはない。

 しかし、それに代わる楽しそうな企画がなければ、せっかく来たのに早々に退散する必要もない。とりあえず模擬店のテントを眺めながら私見を述べると、絢音がわかっているというように頷いた。

「今日、文化の日でしょ?」

「そうだね」

「そこで、文化に触れる遊びをするのはどうだろう。発案、私」

 具体的に何をするのかまったくわからないが、とても知的な響きがする。近くに科学館やプラネタリウムがあるので、そこに行くのも悪くない。ただ、せっかくの秋晴れなので、外で遊びたい気持ちはある。

 ひとまず絢音の考えを最後まで聞こうと続きを促すと、絢音は得意げに笑った。

「文化と言えば文化財! 近くの文化財を回る遊びをします!」

 隣で涼夏がパチパチと拍手する。

 なるほど。文化の日に相応しい遊びだが、楽しいのだろうか。意見を求めるように涼夏を見ると、涼夏は小さく肩をすくめた。

「面白いかはわからんけど、今まで文化財について考えたことがないし、帰宅部っぽい企画だとは思う。どうせ私は総踊りまでいれないし、ナッちゃんのステージの後、文化的な遊びをしても構わない」

 二人がいいなら構わない。

 ステージではどこかの高校の吹奏楽部が演奏している。演奏を聴きながら文化財について調べてみると、人間の文化によって残された価値のあるもののことだそうだ。

 つまり価値がなくてはいけないし、ゾウやシマウマによるものは文化財とは言わない。

「シマウマの文化ってなんだ?」

 涼夏が首を傾げるが、私にもわからない。野阪千紗都は定期的に意味のわからないことを言う女だ。

 文化財には有形と無形があり、技術や音楽も文化財に指定されている。ちなみに文化とは社会的な振る舞いのことを指す。つまり、人間の営みそのものが文化とも言える。

「帰宅部は無形文化財だな」

 涼夏が得意げに言ったが、価値のあるものという定義が頭から抜け落ちているようだ。

 吹奏楽部の演奏が終わり、どこかのチア部の演技が始まった。元気いっぱいだ。私に欠けているのは元気かもしれない。

「近くにはどんな文化財があるかなぁ!」

 元気にそう言って、身を乗り出しながらウキウキを表現するように両手をグーにすると、二人が顔を見合わせて静かに視線を逸らせた。あまりにもひどい反応だ。

 市のサイトに文化財の一覧があり、住所から近くにある文化財を調べてみると、絵画の項目に天神像の絵が出てきた。絵のタイトルで検索すると、どうやら室町時代の絵画らしい。

「これ、いきなり行って見れるのか?」

「一応このページには、見学は常時って書いてあるね」

「お寺の人に声をかけて見せてもらうタイプじゃない? それはなんだか恥ずかしい」

 涼夏が悩ましそうに言った。確かに、見るのが目的の遊びであって、天神像の絵に興味があるわけでもなければ、古い絵画にも興味がない。説明させるのも申し訳ないし、若いのに感心だと褒められてもいたたまれない。


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