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第55話 誕生日2 2

 今年の誕生日会も涼夏の家で開催することになった。去年はたこ焼きパーティーを開いたが、今年は料理系はやらないらしい。

 ケーキも涼夏が前日に作ったとのことなので期待したい。ケーキと言えばクリスマスにみんなで作ったが、あれは体験教室のノリだった。今回は涼夏の本気のケーキが拝めるだろう。

 なお、夜は宅配ピザの予定だ。妹にも食べさせるのならお金を出してもいいと親が言ってくれたらしく、涼夏もそれに乗った。

「妹にも食べさせるけど、一緒に食べるとは言っていない」

 涼夏が自信たっぷりにそう言っていたが、過去の経験上、どうせまた一緒に食べる流れになるだろう。用意周到な涼夏だが、何故か妹のことだけは同じ失敗を繰り返している。結局妹に甘いのか、家族だと冷静に判断できなくなるのか、よくわからない。

 当日は涼夏から、着せ替えゲームをするから、服を何着か持ってこいと言われ、紙袋に詰め込んで家を出た。かさばるが、夏にキャンプ用の折り畳み椅子を持って海まで行ったことを思えば大したことはない。

 ひとまず駅で奈都と合流すると、奈都は私が言及する前に足元に置いていた大きなリュックを指差した。沖縄旅行で見たやつだ。

「チサへのプレゼントのフライパンが入ってて、本当に重い」

 そう言いながら、軽々と持ち上げて背負う。本当にフライパンだったら野阪家で使うことにしよう。私自身は年に数回しか使わない。

「服は持ってきた? オタクっぽいの」

 やってきた電車に並んで座ると、奈都のリュックをつついた。衣類が詰まってそうな感触がしたので大丈夫そうだ。

「オタクっぽくはないけど、チサや涼夏と比べたら野暮ったいかもね。っていうか、いつも着てるのだけど」

「でも涼夏って、時々変なTシャツ着てない? カニなのにロブスターって書いてあるのとか」

「あの人、何着てもオシャレに見えるから。その点ではモア・ザン・チサかもしれない」

「そもそも私、モア・ザン・涼夏なところなんて、成績くらいしかない」

 後はどうだろうか。体力は私の方があるが、運動神経は涼夏の方が良い。コミュニケーション能力は言うまでもないし、メイクも到底敵わない。料理はもちろん、家事も裁縫も周回差だ。

「あの人、設定がアニメ級だから。アヤもあの容姿で成績優秀、歌もギターも上手いっていうチートキャラだし、チサがいなかったら、二人とも私が決して話すことのない、天上の人間だったと思う」

「設定……」

 私が呟くと、奈都が「チサの容姿も天上レベルだから」と付け加えた。まったく不要なフォローだ。

 それにしてもと前置きして、奈都が楽しそうに手を組んで腕を伸ばした。

「今日はみんなの服を着まくろう。アヤ、ライブで着てるようなの持ってくるかなぁ。一応、持ってきてとは言っておいたけど」

 みんなで服を持ち寄って色々な組み合わせで着る遊びは、帰宅部内では随分前から出ていたが、いざやろうと思うと面倒でなかなか実現しなかった。それがようやく出来るということで、私はもちろん楽しみにしていたが、ファッションに興味のない奈都も楽しみにしてくれていたのは意外である。

 冷静にそう指摘すると、奈都は「ごく普通の女子高生だから」と似合わないことを言った。

「誰が?」

「私! ファッション大好き!」

「中に何が入ってるの? 奈都じゃないでしょ」

 軽く肩に手を添えてゆらゆら揺らしたが、中に何か入っている気配はなかった。

 意外というか、単に私たちの趣味に合わせてそう言ってくれているだけの気がするが、何にしろ前向きに考えてくれているのに水を差すことはない。

 涼夏の家の最寄り駅で絢音と合流すると、今年も涼夏が迎えに来てくれていた。私たちの荷物を見て満足そうに頷く。

「せっかく大体体型が同じメンツが揃ってるし、1回やってみたかったんだよね。でも、私とナッちゃんは5センチくらい差があるのか」

 涼夏が少し身を屈めて、天を仰ぐように奈都を見上げた。奈都が慌てた様子で手を振った。

「でも涼夏は私より5センチ以上人間が大きいから!」

「意味がわからんな」

「千紗都は私より5センチ以上胸が大きいから、ブラは交換できない!」

 突然絢音が目を輝かせて話に乗ってきた。「下着は交換しないから」と冷静に退けたが、涼夏は「千紗都のおパンツ楽しみだ」と微笑みながら頷いた。予想の範囲内の反応だ。

「そう言うと思って、今日はパンツを穿いてこなかった」

 澄ました顔でそう言うと、絢音が柔らかく笑った。

「ノーパン、いいよね。私もあの七夕以来、時々ノーパンで出かけるよ」

「マジで!?」

「ウソ」

 当然である。涼夏と奈都に笑われたが、私が秒で反応しなかったら、きっと奈都が先に真顔で驚いていたはずだ。

 家まで歩き、涼夏が鍵を取り出してドアを開ける。母親は一日いないと聞いているが、妹も不在なのだろうか。もちろん、最近は家に誰かいても玄関の鍵はしておくのが当たり前になっているが、とりあえず聞いてみると、涼夏は「出かけた」と頷いた。

「涼夏が追い出した」

「自主的に出て行ったな。まあ、夜には帰ってくるんじゃない? ピザを食べに」

 奈都の冗談を軽くいなして、涼夏が淡々とそう告げた。

「最近また浮ついた話をし始めたから、デートの可能性もあるな」

「へー。むしろ長く彼氏がいなかった方だよね」

「勉強がおろそかになって、結波落ちるがいい」

 涼夏がけけけと笑う。決して妹の不幸を願っているわけではないが、同じ学校は勘弁してくれと常々言っている。

 涼夏自身もそれほど勉強したわけではなかったらしいが、涼夏は地頭が良く、瞬間的な集中力も高い。見たところ、妹氏は涼夏ほどの才能はなさそうだがどうなのだろう。

 家族がいないからとリビングに通され、ジュースで喉を潤すと、涼夏がご飯の前に早速服を着ようと言った。もったいぶるほどの遊びでもないし、汗をかく前にやろうとのことだ。

 もっとも、私たちは大量の服を抱えて歩いてきたから、すでにだいぶ汗をかいている。着せ替えごっこで遊んだ衣類を全部洗うかは要検討だ。

「着せ替えごっこをするなら、先にプレゼントを渡したい」

 絢音が急にそう言って、トートバッグからラッピングされた袋を取り出した。片手を広げたよりは大きいが、持ち方も置いた音も軽そうだ。

「そういう流れ?」

 私が聞くと、絢音はふるふると首を振って包みを私に押し付けた。受け取ると、やはりほとんど重量を感じなかった。

「私のだけでいいよ。着せ替えごっこと相性がいいから」

 絢音の言葉に、涼夏がほぅと興味深そうに顔を突き出した。相性という意味では、私も身に着けるものなのでここで出した方がいいだろうか。

 そう切り出そうとして、袋の中から出てきたものに思わず言葉を失った。中にはなかなかオシャレな感じの下着が入っていて、奈都が「あー」と間の抜けた声を出した。

「そういえば、去年そんなこと言ってたね」

 確かにそんなような話をしていたような気がしないでもないが、若干記憶が曖昧だ。

 上下セットで、触り心地のよい黄色の生地に、オレンジ色の花の刺繍が施されている。派手過ぎず、地味過ぎず、可愛すぎない、絢音らしいチョイスだ。

「私ならもうちょっと攻めたのを贈ったな」

 涼夏がパンツを広げながら言った。攻めたのというのは、形状だろうか。それとも色だろうか。いずれにせよ、もらっても困るので、下着をプレゼントにするのは今回限りにしてもらえたらと思う。

「デザインは私の趣味だね。サイズは知ってたけど、いざ買ってみると、いつも自分の着けてるのとサイズの差に愕然となったよ」

 絢音がにこにこしながら、促すように手を広げた。他の二人もじっと私を見つめているが、一体何を期待されているのだろうか。

「ありがとう。また今度着けてみるね」

 軽やかにそう言ってしまおうとしたら、涼夏が「違うな」と深刻そうに首を横に振った。絢音も同調するように頷いた。

「今着て。写真撮る」

「写真は要らないでしょ」

「手で顔を隠してピースして」

 絢音が真顔でそう言うと、涼夏は小さく噴き、奈都は「チサのエッチ」と嬉しそうに目を細めた。相変わらず頭のおかしい人たちばかりだ。

 せっかくなので私も買ってきた帽子を渡すと、奈都も装飾品だからと言ってプレゼント開けた。去年はポーチをもらったが、今年は細いデザインのブレスレットだった。絢音にはイヤリングだ。

「ナツって、自分が着けないものを贈るからすごいよね」

 絢音が早速耳に着けながら笑った。サイズは親指の先ほどの大きさながら、ゴールドが存在感を主張している。若干黒髪には合わないが、絢音が卒業後もずっと黒髪でいるとは思えないし、デザインも大人びているので長く使えるだろう。

「個人的には可愛いと思うけど、自分で買っても似合わなそうなものを押し付けてる感じかな」

 奈都が謙虚にそう言ったが、似合わないことはないと思う。まあ、今日はそういう固定観念を打破しようという主旨なので、自分の着ないタイプの服を色々試してみよう。

 結局、私も奈都も絢音もプレゼントを渡してしまったので、そういう流れならと、涼夏もプレゼントを取り出した。去年は季節外れの冬物だったが、今年はアイパレットとネイルパレットという、涼夏の得意分野である。

 奈都が見た目から違いがわからないと首を傾げたが、私も成分的な違いとかはよくわかっていない。当然アイシャドウが私だろうと思ったら、涼夏が「逆だな」と笑った。

「自分じゃ買わないものの方が良かろう」

「確かに、絶対に自分じゃ買わないね。今のところ」

 絢音が微笑みながらパレットを受け取った。絢音もまったくメイクをしない人間ではない。奈都がバトンで舞台に立つ時にメイクをするように、絢音もライブでステージに立つ時はそれなりに整えている。しかし、使っているメイク用品はほとんどすべてもらいもので、涼夏も大体絢音が何を持っているかを把握した上で贈っている。

 私の方でも、あまり爪には力を入れていないので、ネイルパレットは自分で買うとしたら優先度の低いアイテムだ。涼夏もあまり爪はいじらない人なので、暗に私に研究しろと言っているのだろう。

「まあ、今日はメイクをする日じゃないから、服を楽しもう」

 そう言って、涼夏がドンと服の詰まったクローゼットケースを置いた。丁度一番上にロブスターのTシャツが見えるので、後で着てみることにしよう。


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