第51話 告白(4)
その後、特に興味もなかったので私からは結果を聞かなかった。奈都からも、須田さんに悪いと思ったのか、何の報告もなかった。
もしかしたら須田さんが思い止まったのかもしれない。そうも考えたがそうではなかったようで、数日後に須田さんから少し話がしたいと言われて、また一緒に店を出た。
とりあえず「どうでした?」と聞いてみると、「やっぱりダメだった」と、須田さんは無念そうに唸った。わかってはいたが、奈都がちゃんと断れたことに、少しだけほっとする。おつかいを見守る親の気分だ。
「誰も成功していませんから。あの子、恋愛より部活なんです」
無難にそう言うと、須田さんは不思議そうに首を傾げた。
「学校に好きな人がいるからって言ってた。ん? もしかして、野阪さんには内緒だったか?」
須田さんがどうしようと頭を抱えた。まったく、奈都も面倒な断り方をしてくれた。
知らなかったと言えば、須田さんが奈都の秘密を喋ったみたいになってしまうし、知っていたと言ったら、たった今言ったばかりの台詞を自分で否定することになる。
ここは中間を取って、聞いたことはあったが冗談だと思っていたことにしてやり過ごした。
「そっかー。奈都も色気付いたんだなぁ」
白々しくそう言うと、須田さんは「ところで」と呟いて私を見下ろした。
「野阪さんは、彼氏いないんだっけ?」
まったく、これだから男は。まあ、奈都に未練たっぷりでも困るので、その切り替えの早さは悪いことではない。
「この前教えてもらった私を好きな人リストに、須田さんの名前はなかったと思いますけど」
「新しく書き加えられた」
「消しゴム貸しましょうか?」
ぞんざいにそう言うと、須田さんは可笑しそうに声を立てた。
「野阪さん、美人なだけじゃなくて、受け答えとかも面白いな」
「気のせいだと思います。っていうか、フラれたらすぐ次に行くなら、私もフリますよ? さあどうぞ」
挑発するように手を広げると、須田さんは静かに首を振った。
「俺は無謀な戦いは挑まないんだ」
「奈都なら行けるって思ったんです?」
「いや、そういう意味じゃない。今のは言葉が悪かったな」
素直に謝られたので許した。これからもバイトでお世話になるので、事を荒立てないのが大事だ。
「じゃあまたバイトで」
話に区切りがついたところで、あっさりとそう言って須田さんは帰って行った。
リストに名前が書かれたままなのは気になるが、ずっと奈都に固執されるよりましだ。それに、あの調子ならすぐにまた次の女の子を見つけるだろう。
本当に、みんな恋愛が大好きだ。
一応須田さんの告白をもって、今回の小さな出来事は終わったと考えていいだろうか。
相談代として、今夜にでも涼夏と絢音と喋るネタにさせてもらおう。それも恋愛トークに含まれるのかはわからないが、そういうのは私も好きだ。




