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番外編 Prime Yellows 6(2)

 ライブの打ち上げは、反省会も兼ねてすぐにやることにした。メンバーはPrime Yellowsの正規メンバーの4人で、朱未は呼んでいない。元々ゲスト出演だし、今後の話もしづらくなる。朱未とはまた別の機会に、元LemonPoundのメンバーだけでやろう。

 全員ユナ高なので、みんな揃って校舎を出た。今日はバイトの涼夏と、いつも暇している部長も一緒だ。

「聞けば聞くほど行きたかったなぁ。絢音のお父様はどうだった?」

「絢音のお父様だけあって、歌もギターも上手だったよ」

「一緒に歌ったのでしょう?」

「ええ、とても素敵な時間でしたわ」

 千紗都が変な口調でそう言って、おほほと笑った。テンションが高い。

 Prime Yellowsのステージは千紗都に撮影をお願いしていて、私はもちろん、涼夏もすでに見ている。オープンマイクの方は忘れていたとのことで、涼夏は残念がっていたが、私は安堵した。あんなものは残さなくていい。

 もっとも、元1組メンバーの方は撮っておけばと後悔したが、千紗都と喋っていたので仕方ない。

 駅までは帰宅部の二人と一緒に歩き、電車に乗って古沼で涼夏と別れた。千紗都にはついてくるようお願いしたが、ファミレスに入ってなお、恐縮した様子で縮こまっていた。

「どう考えても、私の部外者感強いね。大きなぬいぐるみとでも思って、そっとしておいてくれていいから」

「野阪さんって、発想が変……面白いよね」

「今、変って言った?」

「言いかけたのをグッと堪えた。声には出てなかったと思う」

 さぎりんが大丈夫だと頷いたが、何が大丈夫なのかは私にもわからない。

 ちなみにテーブルは4人席で、広い方で千紗都とくっついて座っている。柔らかいぬいぐるみだと、腕を指でむにむにすると、向かいで莉絵が「硬いぬいぐるみ概念」と笑った。ナミが「私もさぎりとくっつきたかった」と頬を膨らませたが、今日のコンセプトを考えたら、この配置が妥当だろう。

 莉絵が持ってきたタブレットで、撮影動画を再生する。千紗都からもらった動画はその日の内に全員に送ったが、一緒に見るのは初めてだ。

 最初のMCを聴きながら、私は苦笑いを浮かべた。

「いつもだけど、曲はいいけど、MCはなんか恥ずかしい」

 曲は練習した上で披露している。言わば発表会のような側面もあるが、MCはその場のノリで喋っているだけだ。その場の空気には合っていても、冷静に振り返ると変だったり寒かったりすることはよくある。

「これ、チャンネルに載せる?」

 さぎりんがそう言って、莉絵がそうしたいと頷いた。私のあやおと・みゅーじっくとは別に、バンドで作っている動画チャンネルのことである。MCさえ切ってくれたら、私も別に構わない。一応撮影者にも確認したが、好きに使ってくれとのことだ。

「野阪さん的に、ライブはどうだった?」

 ナミがそう聞いて、隣で縮こまっていた千紗都が顔を上げた。

「いつも通り良かったよ」

「古い曲ばっかりだったけど」

「そこはあんまり問題じゃないし、どれもヒット曲なんでしょ? キャッチーで良かったよ」

 実際のところ、古さを感じるのは音質だったり、MVの画質やファッションだったり、そういうところであって、曲自体に古さは感じない。

 流行っていた頃を知らないのもあるかもしれない。もっとも、演歌やフォークは、曲それ自体に時代を感じる。何が古さを決定付けるのかは、研究の余地がありそうだ。

 演奏を見ながら、感想を言い合ったり、技術的な確認をしたり、当時の心境を語り合ったりしてから、次回の予定について話すことにした。

 今のところ、夏休みにライブハウスで演奏することは決まっている。若いグループが多いのでそれに合わせて曲も決めてあるが、こうしてライブを挟んだことで心境の変化もあるかもしれない。

 莉絵とナミも、最終的には「古い曲もいいなぁ」と言っていたがどうか。意見を求めると、莉絵はストローをくわえながら言った。

「せっかく練習してたし、ライブは予定通りでいいんじゃない? IMNにはまた出たいとは思うけど」

「またマスターに聞いてみるよ。お父さんと一緒で挙動不審な絢音が面白かったし」

 さぎりんがくすくすと笑う。努めて冷静に振る舞っていたが、やはり無理があっただろうか。

「もう呼ばない」

「呼ぼうよ。ジュース奢ってくれたし、帰りも送ってくれたし」

「西畑家からたからないで」

「1万円もらった人がよく言うわー」

 莉絵がわざとらしく目を丸くして、残りのメンバーが可笑しそうに頬を緩めた。

 実際のところ、呼ぶデメリットは恥ずかしいくらいだが、多感な女子高生にはそれはとても重要なファクターだ。特に愛友に見られるのは堪え難い。次は涼夏も来てくれるだろうから、出来れば避けたところである。

 その後もグダグダと喋り倒して、大人しいぬいぐるみの手を引いてファミレスを出た。別で帰ると言って手を振ると、バンドメンバーはわかっていると言わんばかりに頷いて帰っていった。

 改めて千紗都を見ると、我が愛友は私が今日の感想を聞く前に口を開いた。

「絢音がトイレ行ってる時に、みんなに絢音と付き合ってるのかって聞かれた」

「何それ!」

 今日の感想どころではなくなった。思わず驚いて声を上げると、千紗都は小さく笑ってギュッと手を握った。

「驚いてる絢音、可愛い」

「なんて答えたの?」

「性的な目で見てるって言っておいた」

「見てないでしょ」

「見てないね」

 千紗都が自信たっぷりに頷くが、まったく意味がわからない。まあ、メンバーも本気にはしていないだろうが、誰が言い出したかによって、若干意味合いが変わる。念のため確認すると、やはりナミだった。

「今日は退屈じゃなかった?」

 一応元々の質問をしてみると、千紗都は「全然」と首を振った。

「私はいいんだけど、みんながどう思ってたかは不安。だって、永峯さんすら呼ばなかったのに、何でお前いるの感あるよね」

 そう言って、千紗都は悩ましげに眉根を寄せた。千紗都の疑問はもっともだが、朱未はゲストだし、学校も違うし、バンドも違う。千紗都は同じ学校の友達だし、ライブにもいつも来てくれる。それに、今回は動画も撮ってくれたし、裏方としても活躍している。

 恐らく千紗都は、ナミからされた質問を、「本来は場違いなのに、そこにいるのは絢音の彼女だからか?」という意味に取ったのだろう。しかしそれは勘違いで、あの子たちのただの下世話な興味であり、ナミがさぎりんとの関係の参考にしたかっただけだ。

「さぎりんが過去の恋愛をほのめかすようなことを言ってから、ナミに焦りとかあるのかも」

 だいぶ前のイエプラ会議でのさぎりんの失言を思い出して思わず笑うと、千紗都が興味を惹かれたように身を乗り出した。生憎話せるような情報は私も持ち合わせていない。千紗都みたいに、やや重たい過去の可能性もあるので、向こうから話してくれるまで聞く気はない。

 あらましだけ伝えてからそう言うと、千紗都は「それがいいね」と頷いた。

 何にしろ、あの二人には仲良くしていて欲しい。メンバー同士でこじれるのはもう懲り懲りだ。

「ようやくライブも終わったし、とりあえずまた全力で帰宅するから」

 話を変えるように明るくそう言って寄りかかると、千紗都も楽しそうに私に体重を預けた。

「それはもちろん、喜んで」

 軽く唇を触れ合わせて、今日のところはお開きにする。

 明日から、何をしようか。Wikipediaゲームも楽しいが、そろそろ新しい遊びも開拓したい。

 唇に残る感触に思わずにやけながら、また明日からの楽しい帰宅に胸を弾ませるのだった。


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