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番外編 Prime Yellows 6(1)

 最後のバンドの演奏が終わると、店内にガヤガヤと声が戻り、マスターがオープンマイクの準備を始めた。もうなかなか遅い時間ということもあって、さぎりんチームのメンバーは帰っていった。我が帰宅部の面子は残ったので、マスターが父親に声をかけている隙に二人に挨拶に行った。

「ようこそ」

「うん。良かったよ」

「それはどうも。もう帰っていいよ」

 私がヒラヒラと手を振ると、千紗都に「まだ歌うんでしょ?」と爽やかに返された。

 友達を見送ったさぎりんが、ナツに「何かやろう」と声を掛け、ナツがとんでもないと慌てた様子で手を振った。

 オープンマイクの一番手は父親が歌うことになった。こういうのはカラオケと同じで、誰かが最初にやれば勝手に後が続く。わざわざそれを目的に来た客がいるのなら、マスターが勧めるのも当然と言える。

 ライブ中ほどではないが少しだけ照明が暗くなり、声のトーンも落ちた。もっとも、女子高生組の大半が帰り、2組目に声援を送っていた女性陣も帰ったので、静かなものだ。もちろん、後から来た客もいれば、普通に今来る客もいる。店は夜の時間だ。

「えー、初めまして。今日は娘の晴れ姿を見に来ましたが、オープンマイクということで1曲やらせてもらいます」

 父親が簡素な挨拶をして、パチパチと拍手が起きた。何だかとても恥ずかしい。中学時代は何度も一緒に演奏しているし、父親のバンドで歌ったこともある。今でも別に構わないのだが、友達の前ではしたくない。

 サザンの『いとしのエリー』を熱唱してから、一緒にやるぞと手招きされた。ここで年頃ムーブをしてもみっともないだけなので、1万円の最後の仕事だと、笑顔でステージに立った。

 曲は米津玄師の『打上花火』にした。せめて少しでも新しい曲をやらせてくれと頼んだ結果、一緒に歌える曲ということでこれになったが、何にしろ父娘で歌うような曲ではない。

 ギター2本のシンプルな弾き語りで、マニアックなリフもやらない。幸いにも父親もなかなか歌が上手いので、歌だけで十分聴かせられるだろう。

 なかなか満足に歌い終えて、たくさんの拍手をもらった。男性と一緒に歌うことはないので、こういうのも新鮮だ。父親なら千紗都も嫉妬しないだろうし、時々やりたい気持ちもなくはないが、千紗都には見られたくない矛盾は解消出来そうにない。

 私たちの後は、ステージに立った人から立たなかった人まで、様々な人が演奏して盛り上がった。結局さぎりんとナミがナツを引っ張っり出して、元1組勢で『君の知らない物語』を歌っていた。私も入りたかったが自重して、ぼっちの千紗都に話しかけた。

「千紗都がどうしてもやりたいなら、私はもう一度ステージに上がる準備があるけど」

「まったくないから安心して」

 本当にまったくなさそうだ。帰宅部でも時々カラオケに行くし、千紗都も楽しそうに歌っているが、特に好きなアーティストはいないし、歌うのがそこまで好きというわけでもない。

 まあこの美少女は、極力人前に出さずに、帰宅部で囲い込もう。

 オープンマイクはダラダラと続くので、適当なタイミングでお暇することにした。楽器だけ父親に任せて、みんなと一緒に帰ろうかと思ったら、むしろ莉絵が父親に乗せていって欲しいと頼んだことで、家の近い同中組は父親カーで帰ることになった。少し千紗都と喋りたかったが仕方ない。

「じゃあ、打ち上げはまた今後。千紗都とナツも来てくれてありがとね」

 そう言って手を振ると、ナツが胸に手を当ててうっとりと微笑んだ。

「ステージで歌うという、貴重な経験をした」

「楽しかったんかい」

 さぎりんが笑いながらナツの背中を叩く。ぼっちの千紗都は、また今度私が相手してあげよう。

 こうして、私たちのIKOIKO MUSIC NIGHT Vol.86は幕を下ろした。やり遂げた感はあるが、これも一つの通過点だ。

 特に最終目標があるわけでもないが、また次のライブも同じように楽しめたらと思う。


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