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番外編 Prime Yellows 5(1)

※今回、話の切れ目ではないところで切っています。

 今回のライブ会場であるIKOIKOは、確かにカフェかバーか悩ましい形態の店だった。モーニングやランチの営業はしておらず、開店は14時という中途半端な時間で、夜は24時まで営業している。

 車で行くという父親に便乗して、近くの駐車場から機材を運んだ。一応父親が飛び込みで歌えるか、事前にさぎりんに確認してもらったら、大歓迎との返事だったそうだ。本来、オープンマイクとはそういうものだろう。

 集合時間より30分も早く店に着いたが、すでにさぎりんとナミは来ていてマスターと引き合わせてくれた。話の流れでさぎりんのことを聞くと、2年ほど前から時々ここで演奏しているらしい。

「満を持しての参戦ってやつだね」

 さぎりんが無意味にガッツポーズをする。照れ隠しっぽい仕草だ。

 父親のことも紹介して、すでに来ていた他のバンドメンバーとも挨拶を交わす。30代から50代くらいだろうか。大体趣味でバンドをやっているのは20代か50代以上が多いので、なかなか珍しい構成だ。

 30代から40代は子育てで忙しい。自分の父親も兄が生まれてから弟が小学校に上がるまで10年くらい、ほぼ活動を休止していたそうだ。

 やがて莉絵と朱未もやって来て、出演順にリハーサルをした。ライブは18時からで、千紗都とナツをはじめ、ユナ高の友達勢は17時くらいに来てもらうことになっている。

 もっとも、今日は愛友とはあまり喋らないつもりでいて、千紗都にもそう宣言してある。バンドメンバーは仕方ないが、愛友のことは父親に知られたくない。

 リハーサルは練習の場ではないので、機材や立ち位置、進行の確認だけしてテーブルに戻った。父親が4人分ジュースを奢ってくれたのは良かったが、知り合いもいないからと私たちのテーブルに居座った。

 社交性の高い友達勢が父親を会話に入れてくれるが、どうしても話が私のことになる。これが嫌なのだ。

「中学の時にバンドを組むって言い出した時は、俺は自分の生まれてきた意味のようなものを感じたな」

「そう言えば、会ったことはありますね。絢音は頑なに紹介してくれなかったけど」

「そうか、君たちはLemonなんとかのメンバーか」

「ここ2人はそうです。同中」

 莉絵がにこにこと応じる。私は心を無にして神と対話し続けた。不貞腐れても笑われるだけなので、ここは笑顔でやり過ごすのがよい。

 涼夏がパパ活みたいだと笑っていたが、リアルパパにはどうすればいいのか。何をしても子供扱いされる。いや、リアル子供か。

 よくわからないことを考えていると、やがて学校の友達がやってきた。今日もさぎりんチームは健在だ。同じタイミングで千紗都とナツもやってきた。元々さぎりんもさぎりんチームも、1年の時はナツと同じクラスで、全員顔見知りだ。ややコミュニケーション力に欠ける千紗都の心境はわからないが、千紗都大好きなナツが千紗都と二人きりでいることを選ばなかったのなら、少なからず千紗都もみんなといたかったのだろう。

 さぎりんと元々さぎりんチームのナミが挨拶に行ったので、私はLemonPound組とテーブルに残った。案の定父親から、「お前は行かなくていいのか? 友達は来ないのか?」と実にうざい絡みを受けたが、1万円+参加費をもらっているので静かに耐えた。

 千紗都は元1組メンバーと一緒に観るらしい。眺めていたら目が合ったのでウインクを送ると、スマホに「謎のウインク可愛い」とメッセージが飛んで来た。

『千紗都分が足りないから、可愛い千紗都の写真を眺めてやり過ごそう』

 ため息スタンプと一緒にそう返すと、千紗都はチラッとスマホを見ただけで返事は打たなかった。目の前に誰かいる時はそっちを優先する方針だ。仕方ない。

 少しずつテーブルも埋まって、やがて開始時間になった。満席とは行かなかったから、そういう規模のイベントなのだろう。いつからやっているのかわからないが、第86回だ。

 店内の照明が落とされて、マスターの挨拶の後、1組目がステージに上がる。ご夫婦デュオで、旦那さんがギター、奥さんがキーボードだ。

「今日は初めましての人が多いかな。deltaという名前で活動しておる者です。今日は若い子が多いから、IKOIKOもIKEIKEになったなぁと思いますね」

 旦那さんが自己紹介をするが、今のはよく意味がわからなかった。ちなみに、deltaは三角形だ。元々は3人だったのか、やがて生まれてくる新しい家族用の枠なのか。

 deltaの楽曲はすべてオリジナルである。昔から曲を作るのが好きだと、リハーサルの時に話していた。

 歌も楽器も上手だったが、盛り上がり的にはどうだろう。オリジナル楽曲は難しい。

 それは私がカバーしかしない、5つくらいある理由の1つだが、私が好きな楽曲も、元は誰かのオリジナルである。そう考えると、「オリジナル曲は盛り上がらない」というのは、「盛り上がるような曲が作れない」ということだ。少なくとも、私には作曲の才能はない。

 5曲演奏して、二人は拍手をもらいながらテーブルに戻った。やっと終わったと満足そうにビールを注文する。そういうのは私も大人になったらしてみたい。

 2組目は後から増えたバンドで、20代くらいの男性4人。自己紹介によると、大学時代の楽器サークルの仲間で、民族調のインストゥルメンタルで活動しているそうだ。もちろんそれも、開始前から知っている。リハーサルの時に声を掛けられて、さぎりんと二人で対応した。

 なかなか見事な演奏に、ナミが私のシャツを掴んで、「レベル高くない?」と不安げに眉をひそめた。

「絢音さんたちもなかなかすごいから大丈夫だよ」

 安心させるようにそう言ったが、ナミは大袈裟に頭を抱えていた。

 彼らの演奏は大いに盛り上がり、ファンと思われる女性客のテーブルから黄色い声が上がった。確かにIKEIKEかも知れない。

 3組目はおじさんバンドで、B'zやミスチルといった、大体私たちの歌う曲と同じ年代の男性曲を披露した。ストライクゾーンの父親が楽しそうにしていたので、まあ良かった。私も大いに楽しんだが、父親の前なのではしゃがないという年頃ムーブをキメた。


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