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番外編 Prime Yellows 4(1)

 練習は可能な限り入れて、私も帰宅部そっちのけで頑張っていたが、なかなか上手くいかなかった。

 ナミの表情からだんだん余裕がなくなってきたのを見て、さぎりんがやはり曲数を減らそうと言った。

 本番の詳細が決まり、私たちはラス前になった。初参加なのに随分といい位置だ。その分、あまりひどい演奏はできない。

 時間が短くなったのを理由に『出逢った頃のように』を削る。莉絵はせっかく練習してきたのにと不満げだったが、ナミはほっとした様子だった。

 あと、これは私の個人的な事情だが、スタジオ代の捻出が難しくなってきた。帰宅部に使いたいのを我慢してなお、全然足りない。

 仕方がないので、密かに父親に相談することにした。母親はお金に厳しいので、小遣いで出来る範囲で遊べと言うだろう。春はどうにかバイトを許可してくれたが、基本的には学生は勉強をしろという方針である。それなりに学力も高いユナ高で6位をキープしている娘に、一体どこまで求めているのか。

 母親にはもちろん、兄弟に聞かれても情報が漏れるので、父親を部屋に呼んで企画の趣旨と現状をプレゼンした。

「……そういうわけで、バンドメンバーやお客さん、歴史あるイベントに対して満足のいく演奏になっていなくて、私たちにはもっと練習が必要です」

 ドラムやキーボード、アンプなどの関係で、スタジオは必須だ。そして、スタジオで練習するにはお金がかかる。当日だって演奏者も参加費とワンドリンクが必要なのに、私の5千円のお小遣いでは全然足りない。

 強く訴えると、父親はわかったと頷いてから、条件があると付け加えた。

「オープンマイクなんだろ? 俺も行って歌う」

「友達も来るから、それはちょっと……」

「お前のオープン枠でも歌う。親子バンド復活の日だな」

 父親の目がバンドマンの輝きを帯び出したので、これはもう無理だと悟った。それに、お金について即決してもらえたのは有り難い。下手な抵抗をして、機嫌を損ねるリスクを冒すべきではない。お金はどうしても必要だ。父親に断られたら、もう涼夏に泣きつくしかなくなってしまう。

「じゃあ、私とやる曲、考えておいて」

 この妥協と引き換えに、私は1万円札を1枚手に入れた。ふた月分のお小遣いをポンとくれるのだから、やはり根底には娘がバンド活動をしている嬉しさがあるのだろう。

 なお、一緒にやる曲は、スピッツかコブクロかレミオロメンか、ギター2本だしその辺りだろうと思っていたら、何故かあいみょんをやると言って眩暈がした。しかも自分で歌うそうだ。

「こんな機会でもなければやることないしな」

「どんな機会? 意味がわかんないんだけど」

 何故か得意げな父親に考え直すよう訴えたが、「娘と一緒に弾く機会だ」と、わかるだろ的な顔で言われて頭を抱えた。申し訳ないが、何もわからない。娘を衆目の場で辱める趣味でもあるのだろうか。

 ちなみに、ソロでは尾崎豊を弾くと言うので、私は最後の抵抗を試みた。

「両方それでいいじゃん。『路上のルール』歌ってよ」

「じゃあ、それはソロで」

「無理に私に寄せなくていいから。おじさんがあいみょんとか、寒いから」

「お前のおじさんホイホイの逆バージョンだな」

 勝ち誇ったように言われて、私は諦めた。1万円のために心を無にしよう。

 後日帰宅部で愚痴を零したら、パパ活中の女の子みたいだと笑われた。ひどい喩えだが、実に言い得て妙という気もした。


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