番外編 グッズ(2)
※今回、話の切れ目ではないところで切っています。
涼夏がバイトなので、とりあえず昼休みに今朝の話題を振ってみると、涼夏も絢音も興味深そうに身を乗り出した。
「どんな付き合いでも我慢とか妥協はあると思うけど、千紗都にしたいことで、したらドン引きされそうなことって、面白い考え方だな」
涼夏が何かないかと、わざとらしく顎に指を当てる。しかし、何も思い付かなかったようで、静かに首を横に振った。
「私、千紗都にしたいことで、したらドン引きされそうなこと、ないな」
「私はいついかなる時でも千紗都のおっぱいを揉みしだきたいけど、しても致命傷にはならない気がする」
絢音がそう言って微笑んだ。涼夏も大きく頷いて同意する。
「わかる。私も千紗都のあっちこっち触りたいけど、嫌われそうだから我慢してるんじゃなくて、自制心との戦いって感じがする」
二人が手を取り合ってわかり合う。本人の目の前で変な子たちだ。反応を期待しているという感じでもないから、私のことが見えていないのかもしれない。
体に触りたいというのは、あまり私にはない欲求である。確かにキスやハグは気持ちいいが、特段全身を撫で回したいとか、おっぱいを揉みしだきたいとは思わない。
だからと言って、二人がそれを私にしたとしても、確かに致命傷にはならないし、そもそもなんとも思わない。嫌がった覚えもないから、本当にただ自制心と戦っているのだろう。
「ナッちゃんのしたいことも気になるけど、千紗都は何かないの? 私たちにしたくて我慢してること」
涼夏が目をキラキラさせて聞いてくる。何かあって欲しそうな顔だが、生憎何も思い付かない。
「私は結構現状に満足してるけど。しいて言うなら、もっと一緒にいたいね」
「千紗都は寂しがりだな」
「片想いなの」
「片想いではない」
涼夏が冷静にそう言って、絢音がくすくすと笑った。
結局昼休みは自分たちのしたいことの話で終わってしまい、奈都のしたいことは帰りに持ち越しになった。その方が帰宅部という感じがするので構わない。
帰りにはもう、その話への興味が薄れてしまったかというとそうでもなく、学校を出るや否や涼夏が切り出した。
「昼の続きだけど、千紗都のアクリルスタンドって発想、面白いな。ナッちゃん節、全開って感じがする」
「数が増えたら安くなるなら、私も一つ欲しい。ナツに相談したい」
「私も買う」
「じゃあ、私も買う」
とりあえず乗ってみたが、「これで4つだな」とさらっと流されてしまった。
話が続いたのは嬉しいが、話したいのは奈都のことであって、私のアクリルスタンドではない。ただ、二人とも楽しそうだし、わざわざ話の腰を折るほどでもない。
「千紗都のぬいぐるみを作って枕元に置いておきたいとかはたまに言ってたけど、それってあんまり現実的な話じゃなかったんだよね。アクリルスタンドって、リアルじゃない?」
涼夏が同意を求めるように私たちの顔を覗き込んだ。もし涼夏が裁縫がまったく出来ないならわかるが、涼夏が私のぬいぐるみを作りたいというのは、奈都のアクリルスタンドとそんなに変わらない気がする。
それを口にしても大して話が膨らみそうになかったので、無言のまま絢音にパスすると、絢音は「何か面白い千紗都グッズないかなぁ」と呟いた。完全に脱線してしまった。
「部屋に千紗都やみんなの写真は飾ってあるけど、それはグッズじゃないな?」
「それは違うね。それこそ白ホリで撮った生写真とかならグッズ感あるけど」
「CHISATOって書いてあるTシャツとか」
「ライブTシャツっぽくしたい。年号とか、in YOKOHAMAとか入れて」
「CHISATO LIVE TOUR 20XX ~ EATING CABBAGE」
「タイトルのダサさはデザインでカバーしよう」
二人が楽しそうに笑う。架空のライブTシャツはともかく、帰宅部のTシャツなら作りたい。
「誰か、カッコイイ帰宅部Tシャツ、デザインしてくれないかなぁ」
私がそう言うと、涼夏が静かに首を振った。
「そういうのは自分たちで作ることに意味がある」
「私、絶望的にデザインセンスがない」
「検索して、カッコイイデザインを真似よう」
「パクリだな」
「参考だね」
絢音が悪びれずに微笑んだ。まったくゼロから作るのもいいが、どうせならカッコイイのを作りたいから、プロのデザインを参考にするのは良いと思う。