7. 巨大蛇との対決
バジリスクを即死魔法で殺しつつ、周りの奴らに即死魔法の仕業だとさとらせない細工が必要だ。
周りくどい……。
全員を殺すわけにもいかないし、どうにか作戦を練らなければ。
しかし思うように動けない。
バジリスクによって開いた巨大な地割れが邪魔をして、動ける範囲が少ないのだ。
太い尾が身を穿つ。
剣で防いだものの、恐ろしい勢いで壁に叩きつけられる。
「──くッ」
『愚かな青年よ。ワタシを眠りから覚醒させるだけでなく、虚構で煙にまこうなど愚劣の限り。死をもって償え』
長く伸びた舌が俺を巻きつけ、口もとへ運ばれる。
俺は驚いた。
上空から見えたのは、先まで震えていた少女が剣を向ける姿。
「だ、ダメ……。この人はダメです!」
剣を手に走り来る少女。
バジリスクに向かって勇猛果敢にとびかかっている。
牙で噛み殺されようとしている俺は、口が閉じられる瞬間まで彼女の勇姿を見た。
そうだよな……。諦めちゃいけないよな。
暗い口内で噛み殺される寸前、即死魔法を繰り出す。
「食らえ!」
鋭い牙が身を突き刺すことはなかった。
噛み殺される前にバジリスクは絶命したのだ。
あとは口から出るだけなのだが、一身に感じるのは下降する感触。
まさか三階層から六十階層まで落ちている、なんて言わないよな。
「きゃぁぁぁあぁぁあ」
……どうやら少女もついてきてしまったようだ。
大きな衝撃がバジリスクの皮膚で吸収された。
口を剣で斬り裂き、外を眺める。
「最悪のシナリオだな」
「もう終わりですぅ! わたしたち死ぬんですよ!」
待ち受けていたのは英雄譚で勇者が退治したような上級モンスターばかり。
通称Aランクゴーレム、ギガントゴーレム。
通称Aランクマンドラゴラ、ダークアルラウネ。女人型の植物モンスターだ。
通称Aランクゴブリン、ゴブリンロード。
全てがAランク冒険者がパーティーで討伐するような魔物。
冒険者歴四日で到達していいような場所ではない。
頼れるもう一人もおそらくアマチュア冒険者。
遥か上空を見上げながら不運を嘆く。
しかしネガティブになってもいられない。
「いいか、君はこの巨大蛇の口の中に隠れているんだ」
「えっ、そんな! あなたがこの化け物たちを倒すっていうんですか⁈」
「いいから待ってろ。絶対に出てくるなよ」
即死魔法を見られようものなら俺が死ぬ。
彼女には少しばかりベトベトするがバジリスクの中で潜んでいてもらうしかない。
幸い硬い皮膚は簡単には攻撃を通さないからな。
「お前たちの相手は俺だ!」
体をぴょんぴょんと跳ねさせ敵の注意を引きつける。
まずは距離をとろう。
敵のヘイトを全て受けながら、全速力で離れた。
高位のゴーレムがA級魔法サンドストームを放つ。サンドストームは自由に土砂を変形させることができる最上位土魔法だ。
砂で形作られた龍が襲う。
回避すると美しい女性が手招きしていた。
ダークアルラウネの変化魔法であろう。
看破して距離を取ると、もとのおぞましい人型植物に戻り、A級風魔法ウィンドイーターによって巨大な竜巻が迫る。
もし回避できたとしても、おこぼれを狙う一際でかいゴブリンが待ち受ける最強の布陣。
普通のソロプレイヤーならば死は必然。
普通ならば、な。
無詠唱の即死魔法。
使用を隠蔽しつつ、一瞬で葬る最強の魔法。
窮地に陥ったはずの俺は次々と魔物を屠っていった。
いくらの時間が経っただろうか。
頭をかち割るような痛みにももう慣れた。
「まさか、本当に倒すなんて……。な、何者なんです?」
バジリスクの中から出てくるや否や、少女はあたりに散乱する死体に驚く。
彼女は包帯が巻かれた緑髪の頭を抱えている。
どうやらかなり驚いてるようだ。
「何者って、俺はE級冒険者のアインザッツだ」
「い、E級が倒せるような相手じゃないですよ……。いくらわたしがこの世界を知らないからって、そんな嘘は通じませんからね‼︎」
それが本当なんだな。少しカラクリはあるが。
「あ、申し遅れました! わたしはニャリア。同じくE級冒険者です。先ほども今も助けていただきありがとうございます」
にっこりと少女。
意外と喋る子なんだな。
最初の印象とは正反対だ。
「ひとまずここを抜け出すまではよろしく、ニャリア」
「はい! 迷惑かけてしまうかもしれませんが、全力でサポートいたします!」
悪い子……ではなさそうだな。
完全に信用したというわけではないが、魔物も狩り尽くしたことだし、気分転換に話してみてもいいな。