64. 琴の鳥人
九十五階層。
俺は今日も今日とて即死魔法で敵を瞬殺していると(もちろん剣で倒しているように見せかけている)、何やら音色が聞こえる。
「琴かしら」
俺としては音楽にからっきしで、クレッシェの発言が正しいかもわからない。
どうやらニャリアも同じで。
「う〜ん、わたしにはわからないです。ただ心地よい音なのは確かですね」
「ふん〜♪」
ミルもふんふんと鼻歌を奏でる。
少し歩いたところで、音の発生源を岩陰から覗き見る。
するとそこにはワシのような鳥人がいた。
目をつむって琴に興じている。
「鳥人族であろうな」
「あぁ、クレッシェの言う通り琴を弾いているが何の意味があるんだろうな」
「この音色が強化魔法の効果があるかもしれないわね」
「もしかしたらただの趣味かもしれませんよ」
「いずれにせよ、倒すだけだな。虚をついて攻撃するぞ」
ここはすでに深層。
正攻法で倒すには敵のレベルは最高峰すぎる。
少し卑怯だが、岩陰から魔法を一斉に放つことにした。
アルマデスのA級光魔法。
クレッシェのC級水魔法。
ニャリアの支援魔法。
そして俺のA級土魔法。
もちろん一斉攻撃の後に即死魔法を放つつもりだ。
だが放つ瞬間で琴を動かす手がとまる。
しっかりと脇に琴を抱えると、翼を広げて大きく移動した。
ちょうど俺たちの魔法をよけるように迂回した鳥人は目をつむったまま空に浮かぶ。
『美しい音色を邪魔する者は誰デスカ。噂の人間デスカ。演奏の邪魔デス』
翼をバサバサと動かしたかと思うと、夥しい数の羽が飛んでくる。
「サンドストーム……!」
俺が土嵐を起こすと、その渦に羽が巻き込まれていった。
『風の音。さては全て羽を防ぎましたカ。少しはやるようデス』
「どうやら目が見えないようだな。その代わりに聴覚は秀でているといったところか」
『……コレを使うしかないようデスネ。ディバインフィールド」
A級障壁魔法ディバインフィールドか。
鳥人を薄い光が包む。
魔法を大幅に軽減する聖なる障壁。
クレッシェとアルマデスが魔法を放つもまるで効き目がない。
A級障壁魔法と言えどそれほど強いはずないのだが。
琴を上機嫌で弾く鳥人は意気揚々と種明かしする。
『この琴の音は攻撃魔法の威力を弱める力があるのデス。障壁魔法とあいまれば無敵も同然。最強の鉄壁デス』
「厄介であるな……」
琴の音はおそらくユニークスキルによるものだろうが、魔法の無効化ならば俺は負けていない。
即死魔法は魔法も殺すことができるのだから。
問題はどれだけ自然に敵を倒すか、だ。
やはり剣で殺すと見せかけるのが自然か。
どうやら物理攻撃の対策はされていないようだしな。
エターナルアムールで強化された俺は羽に臆せずに駆けだした。
迫る羽は全て剣で弾き飛ばす。
【剣聖】剣術の猛者であり、剣技で秀でる者はいない。
「剣聖にその攻撃はきかない!」
ミルの声が聞こえる。
「……うしろ!」
俺は器用に剣で背を守る。
すると死角から羽で攻撃されていたようで、軽くない衝撃が刃に走る。
『ミルさまデスカ』
「知っているのか? ミルを」
距離を詰めながらも会話する。
『……人間にいうことは何もないデス』
強く踏み込んで斬りかかる。
されど空を支配する鳥人だ。
うまく体をねじってかわされてしまった。
【剣士】ならそれまでだっただろう。
俺は素早いモーションで連撃を放って琴めがけて斬りかかる。
同時に禁忌の魔法を無詠唱で放った。
『な……』
驚いたような表情のまま、巨体は地に落ちていく。
剣をしまってミルを見やる。
「ミルにさま付けか。いよいよきな臭くなってきたな」
しかし俺を死角から襲う羽を伝えてくれたのもミルだ。
真実はまだわからない。
ただ最下層を目指すだけだ。




