6. 六十階層からの刺客
「おい小僧! 正気か!」
【威圧】を発して三人の行動をわずかに止める。
片手に剣を強く握りしめ、もう片方の手で少女を連れる。
【威圧】が解けるや、すぐさま追いかけ回す三人。
おそらく格上の冒険者なのだろう。
じりじりと距離が縮められる。
やるしかないか……。
「あ、ありがとうございます」
長い緑髪の少女は息切れながらも口を開く。
「まだ助けてない。無事逃げ出すことができたらその時また言ってくれ」
幸いにもあたりには魔物が湧いていない。
覚悟を決めて対峙する。
「おい小僧! てめえ、仲間だったら手を貸すってもんじゃねえのかよ!」
「そもそも仲間になったつもりはない。それに仲間などいらない」
「な……。フンッいいだろう! 小僧、てめえが俺様をイライラさせるゴミだと分かっただけで充分だ! この街で俺様に逆らうとどうなるか教えてやる」
指示とともに下っ端が斬りつけてくる。
夥しい殺意。
剣で受けると隙が生まれる為、要領良く回避に徹する。
「お前たち、人を殺すのに躊躇ないのか」
腕を組んで戦況を見守るエデルソンは口を開く。
「逆らうものは排他する。そうしてこの街では仲間の絆を保っているんだ!」
「なるほど、絆ね。自分の思う通りにならないと除け者にするって、それガキの考えと同じじゃないのか? もしかしてその図体で幼児だったりする? それだったら納得できるが──
大剣が髪をかすめる。
「小僧、次は外さんぞ」
後ろには少女。
何か言いたげにしている。
敵は三人。
ジリ貧だな……。
即死魔法は対人では禁忌だ。
それを許したら俺は悪魔となってしまう。
じりじりと壁に追い詰められた瞬間だった。
──ドゴオォォォォォォォォォオ──
地が割れる。
中からは巨大な蛇が現れてくるではないか。
な、何でこんな敵が……。
バジリスクだと?
第六十階層主の強敵……。
階層主、それはそのフロアでも最強を誇る番人。しかも人類が到達しているのが七十階層なので、その力は測りしえない。
深紅の巨軀。獰猛な牙。全身に刻まれた歪な模様。全てが禍々しい。
崩れ落ちた床になんとか片手一本で連なる三人。
「ひっひぃ! 小僧! た、助けてくれ! なぁお願いだよ!」
懇願も快諾とはいかないな。後回しだ。
バジリスクはジッとしている。
殺気は感じられない。
俺を舐め回すように一瞥。
少女の震えが伝わる。
手を繋ぐことで少しは緩和できるか。
崖に捕まる三人には目も向けないで、そいつは人間の言葉を話し始めた。
『魔王様を彷彿とさせる邪悪な力を感知して参った次第だ。だがどういうわけか、その力の源は青年のようだな。安心せい。ワタシは寛大だ。今は危害を加えるつもりはない』
今は、ね。
シュルルルルと舌を俺の方へ伸ばす。
「ここには魔王も勇者もいない……。何かの勘違いだろう」
『ほう、思い当たる節もないと? ワタシも人間風情に礼儀をもって接している。オヌシも誠心誠意語ってくれ。嘘が身を滅ぼすことを忘れるでない』
こいつは高い知能を有している。
だから即死魔法の使用がバレてしまうと死は必然だろう。
ここはやり過ごさなければならない。
「嘘はついてない。ほ、本当だ」
畏怖で言葉が詰まる。
『ならばオヌシのスキルとやらを教えていただこうか。次本当のことを言わなければ、オヌシら全員血の海に沈むことになろう」
この瞬間に俺はこいつを殺す覚悟を決めた。