46. 冒険者最強決定戦、待合室
王都ヴィレッセの北に位置する決闘場。
普段は祭典やスポーツに使われるドーム状の施設にはおびただしい数の来場者がいた。
「こんなに観客いるんですか……」
「わたくしも初めて観戦するが、まさかこれほどとは……」
「ちょっくら行ってくるよ」
規模に驚く二人を置いて、俺は受付へ向かった。
国王からの直筆招待状を運営に見せると、これまた広い部屋に案内される。
そこには見るだけで分かる上級冒険者がずらり。
身に付ける装備や放つオーラが段違いだ。
どうやら彼らは見知った顔が多いようで、酒場のように談笑していた。
おそらく例年出ているメンバーは同じなのだろう。
国王が俺を入れようとした理由が分かった気もする。
入り口から最も遠い戸棚に向かう。
新参者にはもってこいの位置。
しかし歩いていると肩を押され、呼び止められる。
振り向くといたのはダレットを彷彿とさせるような中年の大漢だった。
「おい新入り、挨拶ってもんはねえのかよ」
そういう文化だったのか。仕方ない。
「おはようございます。初めて参加するアインザッツです。よろしく」
フランクに握手を求めてたがはねのけられる。
「おめえ若くて新入りならよ、おでこを床につけてオレの靴を舐めるくらいしろよな! あ、でもそうなると靴が汚れるか?」
周りでケラケラと笑う冒険者たち。
なるほど、このしきたりが冒険者最強決定戦を停滞させるのだろうな。
「おでこを床につけたら靴は舐められないと思うんだが」
「うるせえ! 口答えすんなッ! 若もんのくせによ!」
今にも決闘が始まりそうな雰囲気を断ち切ったのは高い声の男だった。
「レバン、俺様が来たってのに挨拶はないのかあ?」
入り口でふんぞりかえる青年は漢より歳下なのに乱暴な口調を使う。
俺と同じように喧嘩をふっかけられるかと思ったが、大漢レバンは意外にも下手に出た。
「エインリッヒ・バイノルート様じゃないですか! これはこれはすみません。ご無沙汰しております」
周りの冒険者も歓声を上げる。
「バイノルート様がやってきたぞ」
「あの貫禄はやはり前回優勝者たるもの」
「今回もどうせあのお方だ」
「実質二位決定戦みたいなもんだな」
話を聞くにどうやら一目置かれているらしい。
「ん? なんだこのゴミクズ……ってダンジョンで逃げ出した雑魚冒険者じゃないかあ。ひっひっひっ。お前ら、こんなのと話すとゴミがうつるからやめたほうがいいってもんだぜ」
「知っておられるのですか?」
「六階層の雑魚フロアで女と二人で楽しくやっててよ、そんでもって俺様に恐れ慄いて逃げ出したへっぴり腰さ。あぁ思い出すと笑っちまう」
「やはりエインリッヒ・バイノルート様に敵う者はいませんよ。さすがSランク冒険者と言われるだけあります」
「おい、雑魚冒険者、お前は何ランクなんだ? このレバンでさえAランクだが」
「……俺はDランクだ。ぜひ本戦で戦おう」
嘲笑を背に俺は強く拳を握る。
その後、トーナメント表が配られた。
一回戦の相手は……レバン。
中年の漢はクククと不敵な笑みを浮かべていたのだった。




