4. 欺瞞の仲間意識
「な、なんですって! 道中にミノタウロスの群れが?! 信じられないわ!」
冒険者ギルドの窓口を務めるエルフが恐れおののく。
周りの冒険者もザワザワする。
初めは信じてもらえなかった。
しかし入手した無数のツノを見せ、さらに行商人の証言もあって、確認の手配を要請するようだった。
仕事増やしてごめんな。
「これは世界の終わりだわ!どうしよどうしよ」とエルフはあたふたする。
落ち着けよ。いい歳なのに。
「……あなた今、失礼なこと思ったでしょ」
キリッと睨みつけてくる。
しかし美貌で怖さは台無しだ。
ただただ綺麗だとしか思わない。
亞人は虐げられてきた歴史がある。
ゆえに彼女らは人の悪意や企みを感覚的に察知できるとか。
「いえ、美しいだけでなく、慌てる姿も可愛いなと思ってしまって」
「えっ、あっ、その、それはその」
エルフは体をねじらす。
「この街ではこれからお世話になるし、お世辞のひとつやふたつも必要ってものだ。よろしく」
「──くぅぅっ、からかったわね! おすすめの依頼を聞かれても変なのしか斡旋してあげないから! ふんっ。わたしの名前はクレッシェ。覚えておきなさい! あなたの名前は……」
「アインザッツだ。アインでいい」
「アインくんって呼ぶわ」
「へいへい」
自己紹介もほどほどに、行商人のせいで眠れなかったので宿屋に行くとするか。
すると、屈強な男に呼び止められる。
荒くれ者から洗礼を受ける展開か?と思っていたが、顔を見たら違うことはわかった。
「覚えているか? ダレットだ」
「昨日ぶりですね」
「タメでいいさ。冒険者はお互いに助け合ってこそだ。俺たちは見知った仲だし一蓮托生よ! ここの街は剣士や槍士も多い。世間ではくっだらねえこと言ってるやつもいるが、俺たちは一致団結していこうじゃねえか! なぁおめえら!」
歓声が沸き起こる。
窓口のクレッシェさんもやれやれと笑う。
仲間、か。
つい先日、俺は長年の仲間に裏切られた。
その事実を知っても簡単に仲間と謳うことができるのだろうか。
しかし、無理やり不和を作るわけにもいかない。
円滑に。円滑に。
「ありがとうございます! いや、ありがとう、ダレット!」
「その意気だぜ!」
その後、場に居合わせていた剣士やら槍士やらがわざわざ自己紹介に来てくれた。
仲間意識が強いのはいいことだ。
魔法が使えない者同士で力を合わせるのは、生き延びる上で大切なことである。
しかし言い換えてみれば、魔法が使えない者同士で徒党を組んで傷を舐め合っているとも言える。
俺が最強の即死魔法を使えることを知ってもなお仲間と唄えるだろうか?
「アイン、今日はクエストでも受けにきたのか?」
「ううん、今から寝ようかなって」
それを聞いて一同に笑いが起きる。
「面白いことを言うな、アインは。俺たちは少しでも技を磨いてスキルをゲットしなきゃならない! そんなことでは置いてかれるぞ!」
たははと愛想笑いを浮かべてみる。
もし仲間がスキルで魔法をゲットしてもなおその仲間意識とやらがあるのなら本物だろう。
俺は軽く手を振って宿屋に向かった。