32. 単身暗躍
すやすやと眠る猫耳少女を置いて宿を出る。
ニャリアはよほど思うことがあったのか、盗賊が去ってから「ひとりにしてください」と宿屋に帰って行ってしまった。
そんな少女をあやしつけ、閑散とした深夜、単身で敵地を目指す。
今回の相手は以前とは違う。
古き英雄譚に出てきた伝統ある盗賊集団『シノビ』だ。
しかも黒龍を生み出した盗賊を配下にするほど。
今までの敵とは一線を画すだろう。
彼女を巻き込むわけにはいかない。
俺ひとりでやつらを壊滅させる。
拳に力が入るのを感じつつ、俺は静かに夜道を走る。
偶然にも奴らのすみかに見当がついていることだ。
先日の深夜、ニャリアを追いかけている最中に見つけたのは間違いなく『シノビ』。
そのひとりが大きな屋敷に入っていくのを見た。
おそらく仮拠点であろう。
屋敷を囲む木々からこっそり様子みる。
「おにいさん、さては盗みかい?」
声は上から聞こえた。
そこには黒い装束に身を纏った影。
シノビの配下だ。
「しびれろ。パラリシス──」
その手はきかない……!
麻痺魔法の詠唱より先に、無詠唱の土魔法を繰り出す。
近距離でA級土魔法をくらった男はどさりと地に伏した。
「……く、無詠唱なんてきいてな……い」
男は衝撃で気絶した。
聞いてない、か。
俺とニャリアについて下調べをしていたのかもしれないな。
しかも記憶に新しいあの麻痺魔法。
食らうわけにはいかない。
変化魔法ドルークヴェルトで男の姿を模す。
このまま忍び込むとするか。
姿を偽装しつつ屋敷に忍び込む。
門をくぐると扉の前にはしっかりと見張りが二人いた。
臆せず堂々と近づくと、見張りの男は合言葉を言うように指示してきた。
また古い手法を……と思いつつも俺は合言葉とやらを知る由もない。
「……? 合言葉はどうした」
すぐに言わない仲間に不審がる男二人。
「知らないな、そんなもの」
俺は【威圧】で敵の行動を制限し、瞬時に抜剣して柄で首を殴る。
【剣士】スキルゆえに拳より柄で殴った方が強力なのである。
倒れる二人を受け止めて静かに床に置く。
見張り以外は人が見当たらなかった。
もしかして屋敷には盗賊の長、ヴェイルはいないのか?
室内は絵画や武器、銅像が無造作に置かれている。
階段を上り、二階を探索すると一気に空気が変わった。
転がっているのはポーションか?
よく見るとフラスコの中には不気味な紫色の液体がぶくぶくと音を立てており、ポーションとは程遠い。
廊下の奥にはひときわ大きな扉。
俺は深呼吸をして慎重にドアを引いたのだった。




