3. 道中でもこっそりチート魔法
ダンジョンから帰還して酒屋へ。
酒屋では仲間を殺したというのに和気藹々としている三人を陰から見てしまった。
少なくとも彼らは罪悪感や悲しさは感じられないほど談笑している。
クズだ。
しかし、今は復讐をするつもりなんてない。
怒りより悲しみの方が強い。
酒屋を後にして、戦利品を売り捌く。
一層では一日かけて銅貨二枚だったが、二層では半日で銅貨四枚の儲け。
あのパーティーだと分け前が減ってしまうし、今日は贅沢ができそうだな。
と言っても、拠点を隣町イーランに変えるつもりだから、その準備に全て取られてしまうだろうけど。
◇ ◇ ◇ ◇
太古、伝説の魔法士、いわゆる勇者は魔族と戦争をし、彼らをダンジョンと呼ばれる地下に閉じ込めた。各地に点在するダンジョンからは魔物が溢れ出ることなく、今日も今日とて平和が築かれている。
もう魔物とは戦う必要がない。
なのに冒険者なる職業が現れ、ダンジョンに潜り込み、魔物の宝やアイテム、スキルを手に入れる。
俺のように勇者に憧れてダンジョンに潜る者までいる。
「平和ボケってやつなのか……」
ダンジョンで仲間に裏切られても、まだ他のダンジョンに向かおうとするあたり、俺も夢を捨てられてないのかもしれないな。
お金を払って太った行商人の馬車に乗せてもらう。
荷台は揺れがひどく、とても寝れたもんじゃない。
夜なのに馬車を走らせ続けるなんて。
「うぇ、おやじ、もうすこし平坦な道いかないか。あとはスピードを下げるとか。夜だし野宿でもいいんじゃないか?」
小太りの行商人は首を振る。
「ノンノンノンッ! 行商人はスピード命なのですぞ! 僕ちゃんにはわからないかもしれませんねえ。ふぉっふぉっふぉっ」
「乗せてもらってる身だから我慢しますよ」
「そうですぞ! すこしの苦痛など我慢するのが若者ってものですぞ」
無茶苦茶な精神論だ。
「──ッ! おやじ! 止まるんだ! 馬車を止めろ! 今すぐだ!」
「んぉ? わかりましたぞ!」
聞き分けよく止めてくれた。
必死な思いが伝わったようだ。
「どうしたのですぞ」
「なんで、こんなところにミノタロスが?」
【暗視】で確認したのは巨大なミノタロスの群れ。
「何も見えませんぞ? しかしこの気配! ど、どうして……」
魔物は勇者がダンジョンに閉じ込めたはず。
「待っていてくれ。やってくる」
俺は馬車から下りた。
「お待ちくださいぞ! ミノタロスは五階層に現れる凶悪な魔物! 一人では冒険者ランクC級はないと歯が立ちませぬぞ!」
「ああ知っている。魔物については調べ尽くしているさ。英雄譚で情報収集してるからな」
「ならば、もしかして若くしてC級に?!」
「いや、E級だ。おやじには言ってないけど、冒険者歴三日だ」
「そ、そんな! に、逃げるのですぞ! 今なら間に合いますぞ!」
「行商人はスピードが命なんだろ? ならさっさと倒すしかあるまい。迂回してる時間はないだろう」
「なりませんぞ! スピードより人の命なのは当たり前ですぞ!」
今ここで俺を置いて逃げることも可能だ。
自分の命が惜しいなら、俺を犠牲にするのが合理的。
にもかかわらず待っていてくれる。
「すぐ終わらせるよ」
魔法を出力しやすいように腕を掲げる。
【暗視】で魔物の群れはよく見える。
行商人はあまり見えてないようなので、お構いなく使わせてもらうか。
即死魔法で直ちに朽ちろ……!
襲いくるミノタウロスの群れはなぜ死んだのか分からないまま道に転がる。
「……ッ」
魔法を一気に使ったために、ひどい頭痛が生じる。
魔力の枯渇が原因だな。
「僕ちゃん……?」
「……どうやら魔物は瀕死だったようだ。すぐに殺せたよ」
「なんと……! わたしには何が起きたのか分かりませんでしたが、褒めるほかありませんぞ! あっぱれ!」
即死魔法の仕業とは気付いてないようだ。
ふう、なんとか今日も生きながらえた。
「冒険者ギルドにこの事態は伝えなきゃだな」
ミノタウロスのツノを綺麗に削ぎ、魔石もしっかりとしまう。いい金になりそうだ。
「では行きますぞ!」
そうして徹夜で馬車は稼働した。