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21. 漢の謝罪

 会議館を後にギルドセンターで報酬を受け取ろうと思っていると、クレッシェに話しかけられた。


 アルマデスはトボトボとどこかへ行ってしまったので変に絡まれることもなく一安心だ。


「アインくんもニャリアさんも本当によくやったわね」


「わたしなんか本当に着いて行っただけで、金貨もらえるなんて感謝の極みです!」


「俺は昇格するとは正直意外だったなあ」


「本当はね? C級に飛び級で昇格する案もあったのよ。世論的な意味合いもかねて却下になったけれども」


「そこまですると悪目立ちしちゃうからな。困る困る」


 勇者に憧れてこの世界に挑んだものの、即死魔法の条件もあって過度な注目は避けたいものだ。

 なんとも歯痒い思いだが、昇格は素直に嬉しい。


「アインくんのために言っておくけど、十分目立ってるからね……」


「俺はただの影が薄い剣士だ。やめてくれやめてくれ」


「アルマデスから聞いてるわよ。A級土魔法が使えること」


 クレッシェはツンツンとつついてくるが愛想笑いでごまかす。

 ニャリアが睨んでいるように感じたのは気のせいか。


「あ、そう言えば、俺の報酬のことなんだけど、クレッシェに頼みがあるんだ。金貨三十枚は少年の村まで一緒に届けてくれ」


「──な、だめですよ! アインさん!」


 ニャリアは俺のぼろい皮服を引っ張る。


「村への資金は早く送った方がいいだろ。王都の資金はまた地道に集めよう」


 少女は「でも、でも!」とぴょんぴょんしている。可愛い。


「せっかくの機会だしな? ニャリアの同族、仲間のためだ。それくらいは普通さ」


 ニャリアのさらさらな髪をわしゃわしゃとかく。


「もー、そんなんされたら断れないです。卑怯です。アインさんは! クレッシェさん、わたしの報酬も一緒に送っていただきたいです」


「はい決まり。クレッシェ頼んだよ」


「あなたたちのイチャイチャをこんなにも見せつけられると断ろうか迷ったわ。分かったわよ。しっかり手配しておくわね」


 クレッシェは早歩きでそそくさと行ってしまった。

 さっそく手配しにいくのかな。


 ニャリアは「もしかして敵ですか、クレッシェさん……」と頬を膨らませている。

 何を張り合っているんだか。



 レクスとの別れはやはり二人とも泣きじゃくっており、馬車が豆粒のように小さくなってもずっと手を振っていた。

 筋肉痛にならなければいいが。


 泣き疲れた少女は目が腫れている。 


 感慨深く思ってると、剣を腰に携えた大漢、ダレットが遠くから近づいてくる。


「どうした? 何か用か?」


 エデルソンの嘘を信じた彼とは確執がある。

 だがどうやら戦闘する気ではなさそうだ。


「いや、アンちゃんたちにはしっかり伝えなくちゃならないことがあってな」


 ニャリアは俺に寄り添いながらダレットを睨みつけている。


「まーたわたしたちにイチャモンをつけるっていうんですか」


「その件は本当に申し訳ない。会議館でエデルソンの犯行を知って、オレたちが間違ってたんだなって気付かされた。一人の人間として筋は通さなくちゃと思って謝りたかったんだ」


 漢は長く深くお辞儀した。

 

「ダレット、お前がしたことを忘れない。簡単に仲間と評して、簡単に剣を手に取った薄っぺらさ。剣士を慕って勢力を強めるのはいいが、本来の目的を失っているんじゃないか?」


 ダレットは剣を見つめながら話す。


「もともとは虐げられた剣士の集まりだったんだ。魔法が使えないから効率よくスキルを得られず負の循環で腐っていった奴ら。だけどそんな奴らでパーティーを組んでダンジョンに挑むようになってよ、攻撃魔法も回復魔法もなかったけどそれでもD級までは上り詰めたし、そこそこ稼げていたんだ。味をしめてもっともっと仲間が増えれば、さらなる高みを目指せるんだって勘違いしちまったのかもな。アンちゃんたちに気付かされたよ。ありがとな。そして本当に申し訳ない」


 エデルソンは悪意の塊だ。

 しかし、ダレットの行動は悪意によるものじゃない。

 本質を見失って表面的な形式に囚われた弱さによるもの。


 ニャリアもそこは分かっているだろう。

 

「もう、わかればいいのです。アインさんはあなたが思っているよりずーっと性格の良いお方なのです。わたしが村を出て初めて信じてもいいかなと思えた人。まだ会ってから数日ですけどね」


「そういうことだ。まあ元凶は魔法至上主義によるものかも知れないが」


「ありがとな、アンちゃん、いやアイン。ブチ切れても当然なところを落ち着いて話せるだけ年取った俺より十分大人ってことだ。ガッハッハ」


 豪快な笑いはダレットらしい。

 今すぐ仲良くは気まずいが、月日を重ねれば分かり合えるかもしれないな。


 俺は軽く手を振って、ニャリアとギルドセンターに向かう。

 まだまだ昼下がりだ。クエストを達成できるだけの時間はある。


「よし! またお金はなくなっちゃいましたけど、心もスッキリしたことですし、はりきっていきましょう!」


 ニャリアはやる気満々だ。

 クエストは誰でも受けられる共通クエスト、そして指定された冒険者ランクをクリアした者のみが受けられるランククエストがある。


 パーティーで一人でもランクを満たしていればランククエストは受けられる。

 さっそくD級クエストを受けるものか……。


「悩みますね……。アインさんと出会ってから、バジリスク、鳳凰、黒龍とあり得ない敵ばかりと戦ってきて、普通の魔物討伐が物足りなく思えますよ……」


 クエスト一覧が載っている掲示板を眺めながらニャリアは呟く。


「身の程にあった依頼を受けような。まだDランククエストは早い」



○四階層・イエローゴブリンの棍棒・十個納品

○報酬・銅貨十枚


 討伐は簡単でも納品の棍棒が重すぎる。

 これは複数人パーティー前提の依頼だろう。


○三階層・ヒートボアの魔石・三十個納品

○報酬・銅貨二十枚


 ヒートボアは群れで襲ってくる猪型のモンスターだ。

 避けやすいと言えども、二人しかいない俺たちでは囲まれると厄介だな。


 なんて思っているとその下にあった依頼にビシッと指がさされる。


 ニャリアではない。

 ふと横を見ると会議館でクレッシェに振られたアルマデスがいた。

 何か用だろうか。


「アインよ、この依頼をどちらが早く達成できるか勝負しようではないか」


 街で最高峰の魔法士に勝負を挑まれたのだった。


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