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2. 裏切り

 翌朝。


「なぁ、もう二日も危なげなくやれてんだぜ? そろそろひとつ下の二階層いきたくないか?」


 ダンジョンを目前に、エルドレッドは赤髪をかき上げながら提案する。


「ありだね! ありあり! わたしも言おうと思ってたんだ!」


 ミレアもうんうんと乗り気のようだ。


「うし! やっちまうか! 土魔法がどれだけ通用するかみたいもんだな!」


 ヴァイアンもやる気を見せる。

 しかし油断は大敵だ。


「けれどさすがに早くないか? ギルドのお姉さんも二階層からは気を付けろって言ってたし」


「大丈夫、大丈夫! いざとなったら……はっはっはっ!」


 言いかけてやめたのを誤魔化すように笑う。

 エルドレッドが悪いことを考えているときの癖だ。



 いつも通りクエストを受けて、ダンジョンに意気揚々と乗り込む。


 ゴーレムの群れを軽くいなし、奥の階段を下る。


「ここからが二階層ってやつか。ウズウズするぜ」


「わたし、少し怖い」


「大丈夫だ! 俺の土魔法がついている! それに何かあったら俺には回復もあるからな!」


 お気楽だな。ダンジョンは二階層から魔物の種類、数、質が跳ね上がるという。一階層では魔法を使わないゴーレムだけに過ぎないものの。


「つ、土魔法?! 聞いてない!」


 大男のヴァイアンがサンドゴーレムの土魔法でのけぞる。


 エルドレッドも必死にファイアーイリュージョンを行使するが、土属性モンスターには相性が悪い。


「ホーリープロテクト!」


 ミレアの障壁魔法も物理攻撃を阻むだけで、魔法特性はなくダメージが貫通してしまっている。

 秘密兵器と繰り出した麻痺魔法もゴーレムには効かない。


 パーティが壊滅するなか、俺だけは冷静に対処してみせる。


 即死魔法を使ってもいいが、すこしは敵の動きを見たいというものだ。


 敵の土魔法はサンドスクリームか。直進しかしてこないD級魔法。


 簡単に避けられる。


「落ち着いて見極めよう。まだ勝機はある」


 俺は今後のためにも逃げ出さず、パーティを鼓舞したものの、返ってきた言葉は冷酷なものだった。


「無理だ無理だ無理だぁ! 俺は逃げるぜ! 見ろ周りを! 魔物が囲んでやがる! 障壁は魔法を通すし、やっていけねえよ!」


「なーによ! 私のせいだっていうの! そもそも水魔法がないのがいけないじゃない!」


 怒るミレアを宥めるように、ヴァイアンは矛先を俺に向ける。


「違うな! 無能が一人いるからだろ!」


「違いないぜ。なぁアイン」


 エルドレッドは魔物にも引けを取らない凶悪な表情をしている。


「俺は剣で応戦している」


「ふっ! ならその役ただずの剣使いとして一生このダンジョンにいるんだな! ミレア! 作戦通りいくぞ!」


「了解よ! パラリシスペイン!」


「おい、それ麻痺魔法じゃ? どうして俺に……」


 体を麻痺が襲う。

 魔物にはあまり効かないが人間だとかなりの痺れが起きる。


 まさかとは思っていたが、俺を囮にするつもりか。


「すまないな、アイン! 俺たち子どもの頃から一緒に過ごしてきたけれど、ここらでさよならだぜ!」


「剣士なんて落ちこぼれじゃ仕方ないよね。アインが水魔法でも覚えていたら違ったのに」


「全員の死より一人の死だ。背に腹はかえられない」


 しまいには魔物が好むキレウの実を動けない俺のもとへ投げる。

 魔物の意識を俺に向け、三人は弱腰で逃げていった。


 去り際にも「弱くてがっかりした」「優しくしてやってたけどもう終わり」と散々に吐き捨てていった。


 気付けば、サンドゴーレム、ダークオーガ、プレーンゴブリンなど多くの魔物が囲んでいる。


 助けてくれる仲間もいない。


 動けない今、頼れるのは即死魔法だけ。


「覚えておけよ……」


 ありったけの即死魔法デスエグゼキューターを魔物の群れに浴びせた。

 基本的に魔物は知能レベルも低く、即死魔法を認知されることもない。

 ということで思いっきり暴れた。


 麻痺の拘束時間が切れるとともに、全てのモンスターを絶命させる。


 金になりそうな皮などを剥ぎ、魔石もしっかりとバックパックに詰める。

 裏切られた悲しみと怒りが時間とともにふつふつと湧いてくる。

 そんな時、低い声が聞こえる。


「アンちゃん! それひとりでやったのか?」


 はじめましての中年戦士パーティーだ。

 リーダーらしき巨漢はワイルドだが優しそうな面持ちだ。


「たまたま運良く倒せたんですよ」


 即死魔法の存在がバレると嫌なので、適当な返事をしてしておく。


「すげえや! 若くしてソロでやるなんて! いつか有名クランの長になったら仲良くしてくれよ! ガッハッハ」


 後ろにつく仲間も気前よく絶賛してくれる。


 悪い気分ではないが、先ほど裏切られたばかり。


 ここでいい気になって仲良くなるのも、過ちを繰り返すだけだ。


 そそくさとダンジョンを抜けようと思うと。


「俺はダレットだ! となりの街イーランから稼ぎに来たおっさん戦士だよ。アンちゃんと同じ剣士だ。わざわざたいそうな剣をもってるってこたあ、アンちゃん剣士だろ?」


 実際は魔法剣士だがあながち間違っていないので返事しておく。


「俺はアインザッツ。正真正銘、剣士さ。この世界では少しばかり扱いが雑だけどね」


 悪しき魔法至上主義への皮肉を込める。


「生きづらい世の中だなぁ全く。お互い頑張ろうな」


 いいおっさんのように感じた。

 だが簡単に信じることはできない。

 人は二面性を器用に操るものだ。


 「それでは」


 俺はそそくさとダンジョンを抜け出すこととした。



※幼なじみへの報復は40話になります

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