1. 俺だけこっそりチート魔法
「やってやるぜ! ファイアーイリュージョン!」
長い赤髪のエルドレッドが巨大な炎でゴーレムを攻撃する。
「いくよ! ホーリープロテクト!」
可愛らしいショートヘアーのミレアは見かけによらず強固な壁を作り出す。
現れた神聖な壁はゴーレムの打撃を弾く。
「怪我はないか! オールヒールチューニング!」
屈強な大男、青い短髪のヴァイアンはお得意の全体微量回復で支援する。
パーティリーダーのエルドレッドが命令する。
「おい、アインザッツ、剣士ならば攻撃してみせろよ! と言ってもお前の攻撃じゃあ、やわすぎるか! はっはっはっ!」
仕方ないな。
今日も一応剣で戦うフリをするよ。
もちろん、俺は剣士でもある。
彼らのように目立つ髪色でもないし、ただの平凡的な剣士。
だが無詠唱で即死魔法を出せるくらいには魔法士でもある。
無詠唱はA級魔法士レベルの保有するスキル。
このパーティーは新米冒険者のみとあって、俺を含めた皆がEランクに過ぎない。
だけど使えてしまう。
そして即死魔法はおそらくユニークスキル。
唱えると対象物が死ぬ。
しかし、唱えているのがバレると自身が死んでしまうという、なんともひやひやする力。
もしかしたら他の人々も隠し持っているかもしれないが、こんなチート魔法が蔓延っていないといいなと希望的観測で済ます。
適当に剣で攻撃したあと、エルドレッドのファイアーイリュージョンのタイミングで即死魔法 を発する。
瞬く間にゴーレムは絶命した。
「やったぜ!見たか俺様の力!」
今日も今日とて自分の手柄だと思っているようだ。
「ちっ、けどスキルはゲットできなかったな」
「敵にラストアタックを決めたらスキルゲットできるっていうのに。わたしもエルもヴァイアンもひとつももらったことないよね。あとはアインもか。でもアインはもらえなくて当然よね〜」
お前たちに届かないのは当たり前だ。
とどめの一撃はほとんどが即死魔法だからな。
結果的に俺へスキルが行き届く仕組み。
毎日の精神的苦痛を考えたらお釣りが来るくらいだ。
「スキルゲットは稀というし仕方ないのだろうな! 俺も回復だけじゃなくて攻撃魔法でねらっていくぜ!」
スキル至上主義社会。スキルは生まれながらのもの、鍛錬で得るもの、魔物から継ぐものの3種類だ。
スキルは自身でしか確認できないが話を聞く限り、おそらくエルドレッドは炎魔法、ミレアは障壁魔法と麻痺魔法、ヴァイアンは回復魔法と土魔法なのだろう。各々の魔法にもランクがある。
考えてみると、意外とバランスがいいパーティーだ。
そもそも若くしてダンジョンに鳴り物入りするからには強いのかもしれない。
ちなみに俺ことアインザッツはというと……。
「ヘッ! でもアインはスキル剣士しかないんだろ? 魔法主義のなか、辛いってもんだな! はっはっはっ」
エルドレッドはしきりに馬鹿にしてくる。
「あぁ、俺は剣士スキルしかない。これからも戦闘で頑張るよ」
謙虚に行こう。
スキルは隠し持っているが、無駄にヘイトを集めたくないので我慢我慢。
【即死魔法】対象物を即死させる。スキルの存在を知られると使用者も即死。
【無詠唱】詠唱なしで魔法が使用可能。
【剣士】剣の扱いに比較的長けている。
【暗視】暗闇でも視界がクリアである。
【威圧】睨み付けることで一時的に対象物を怯ませる。対象物に一度のみ有効。
ダンジョン攻略二日目にして下の二つを手に入れたのは大きい。
一階層ではゴーレムしかおらず、これ以上めぼしいスキルはないだろう。
「おい、アイン、雑用やれよ」
「はいはい」
雑用というのは魔物の部位や魔石を集めろということだ。
魔法が使えない者はよくやらされるらしい。
仕方なく作業しますよ。
三人とも孤児院の幼なじみ。
昔からダンジョンで最下層をクリアしようと夢みた仲。
俺が剣士スキルしかないと伝えてからは、かなり軽蔑が混じった扱いを受けているが。
それでも俺は信じている。
幼き頃に誓い合った夢を達成できるのではないかと。
淡い夢を胸に。
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