百鬼 夜雨の音
目を閉じれば
目の前に現れるのは
己の心である
食い意地を張る奴は
その日の晩飯か
もしくは放映された食品の数々か
美意識の高い奴は
新品の化粧道具を思い出し童心に帰るか
目新しいものに敏感な奴は
情報が欲しくて夜も眠れないんじゃないんだろうか
さて
私はと言うと
目を閉じればそこに現れるのは
獣である
人よりも動物が好きだとかそういう話だはない
ただ獣がこちらに向かうのだ
「まだだ」
「まだ足りない」
それだけ口にして煙のように透けていく
特別不快に思うわけでもないので
友人に相談をしたり
不思議体験を話題の種にしようともしなかった
少しばかり人と違うんだろうなと
認識をする程度ではあるが
何故こんな話を突然始めたかといえば
簡単な話だ
今日に限っては
目蓋を閉じずとも
眼前に現れたからだ
「だめだ」
「もうだめだ」
そう言うと獣は煙のように透けていった
今更ながらその獣をよく見ると
鵺によく似ている事を知った