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ふわふわ

 ――ふわふわ。


 日だまりのような暖かさの中でルルは目覚めた。

 朝方のようだ。

 カーテンの隙間から、日の光が差している。

 体が軽い。

 物心ついたころからずっとつきまとってきた息苦しさが、綺麗になくなっていた。


 ――天国?


 あまりにも楽で、あまりにも暖かい。

 おかげで変な単語が脳裏をよぎったが、死んだわけではないようだ。

 息はできている。

 もう一度、ゆっくり息をしてみる。

 痛みはない。

 苦しくもない。

 胸が引きつったりもしない。

 ベッドから起き上がれるような気がしたが。


 ――もうちょっと。


 起きられない。

 起きたくない。

 布団も枕もふわふわでふかふかだ。

 大きくて優しい生き物に寄り添っているようなぬくもりと安心感がある。

 幸福な柔らかさにくるまれ、微睡んでいると、ドアが開き、父エルバが顔を見せた。

 気持ちよくうとうとしていたのが申し訳なくなるような、憔悴した表情だ。

 いつもの通り、思い詰めたような表情で近づいてきたエルバは娘の、異様なほど良くなった顔色に気付き、目を瞬かせた。


「ルル……おまえ……一体……?」


 喜びや安堵より、困惑の色を強く浮かべた声で、エルバは娘に問いかける。


「……よくなった、みたい」


 ルル本人としても、状況がよくわかっていないが、そうなのだろう。

 たぶん。


「……そう、か」


 エルバの目元に、透明なものが盛り上がる。


「……良かった」


 ぼろぼろと涙があふれ、こぼれ落ちる。


「……本当に、良かった……」


 エルバは目元を押さえ、嗚咽した。

 それはルルが生まれて初めて目にする父親の、大人の涙だった。

 

「おとう、さん……?」


 ルルは八歳だ。

 こういうとき、どういうふうに振る舞えばいいのか、全くわからない。

「なんの騒ぎだい?」とウェンディが乗り込んでくるまで、おろおろしながら見上げることしかできなかった。

 そのウェンディも、目を覚ましたルルの姿を見るとベッドに取りすがって絶叫、号泣し、事態はさらに悪化することになるのだが。



「収拾がつかないな」


 小屋まで飛んできたエルバとウェンディ婆さんの声に苦笑する。

 エルバの慟哭が聞こえたときはルルの容態が悪化でもしたのかと心配したが、結果を見るために小屋に残ってくれていたルフィオとサヴォーカさん曰く、心配ないとのことだった。


「……ルル嬢の方は問題ないようでありますので」


 サヴォーカさんは微苦笑していった。


「今回は、これで失礼するであります。来週の頭に、またおうかがいさせていただいてもよろしいでありますか?」

「ええ、それまでには仕上げておきますので」


 さほど難度の高い作業はない。

 羊飼いの仕事の傍らでも充分間に合うだろう。


「では、よろしくお願いするであります」

「またね」


 名残を惜しむようにそういったルフィオはおれに近づいてきて、背伸びをした。

 顔を引いて逃げようとしたが、狙いは口じゃなかったようだ。

 首筋、耳の下あたりをすっとなめられた。


「そっちか」

「ん」


 震天狼バスターウルフは尻尾を振った。

「口の中に舌を入れるな」という話はしたが、それ以外はいいと解釈したようだ。

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