大工と国司
カーンカーン釘を打つ音が響く。建物の修理を初めて三日目。
黒曜がぶち抜いた屋根の穴を塞ぎ。
今日は壊れた三階の部屋の窓を付け替える作業をするオ-ディは、あんなに嫌っていた大工
の修行が役に立ち複雑な気持ちだった。
大工を嫌い騎士を志した一五才より三年・大工道具に触れる機会は少なかったもの七才より
鍛えられた技術はしっかり身に付いていた。
「大したもんだ。隣街の大工より良い腕してるよ。あんたの旦那は」
食堂で泊まり客の朝食の片付けをしながら、宿屋・道端の女将ヴィラは、
台所で食器を洗うシャランに言葉を掛ける。
長い銀髪を後ろにひとつに結び女将が貸した仕事着を身につけ山に
積まれた皿を洗いながらシャランが言う。
「あの人‥本当は大工嫌いなんです。出会ったときは騎士を目指していましたから」
流れの行商人と思っていた女将はシャランの意外な返事に興味を持った。
「それじゃ今の商売は何をしているんだい」
「今ですか、肩書はイォク-ル国の国司です」「国司~」
「はい、わたしも国司です」国司と言えば国を代表して外交に携わる大切な役目を行う重役。
「イォク-ルは国と言ってますけど、五〇〇人程の里でわたし達・共生者達が
雑事を引き受けています。外国との交易も雑事のひとつで外界で生まれ育ったわたし達が
適役と長老が言ったので国司を名乗っていますが、外界との交易が仕事と言えば仕事かしらね」
「国司以外は何してるんだい」
「里に居るときは薬草摘みに、畑仕事、それに害獣退治ですね。
大工さんですけど剣の腕前もいけますよ。うちの人」
洗い終わった皿を積み上げシャランはニッコリ笑った。
残りの皿を奥に運ぼうとしてヴィラは、台所を覗くオ-ディとぶつかりそうになった。
「おっと、どうしたね」
オ-ディは腫れ上がった左人差し指を突き出し言う。
「また叩いちまった」
確かに大工の腕は良いが時々見当違いの怪我をする為オ-ディの指は、包帯と膏薬だらけだった。
「うちの人も上がって来る。ひと休みしなよ。
シャラン‥傷の手当が終わったらお茶出すから一緒に飲もう」
ヴィラは手近の椅子をオ-ディに勧め残りの皿を台所に運びお茶の準備を始めた。
手慣れた手付きで指に湿布を巻き付けながらシャランはオ-ディに尋ねる。
「修理にあと何日掛かりそう」
「この傷が治る前には終わる」包帯だらけの両手を前に付きだしオ-ディはニッカリ笑った。
「それでは当分終わりそうもないな」
食堂の入り口に主のバスチャスが立っていた。
出立する泊まり客達を見送り休憩に戻って来たのだ。
その後から一人息子のヴァンがオ-ディの横に座り。
「また傷が増えたな。シャラン‥オ-ディの仕事は冬まで掛かるからイォク-ルに帰えれるのは春だよ」オ-ディの不器用さをからかい年の近い友人との一時を楽しんでいる息子を見つめヴィラはほほ笑んだ。
ウェットは、年寄りが多くヴァンの話相手になる同年代の者はおらずオ-ディ達が仕事を手伝う事で、
会話が増え息子がイキイキしてきてるのが嬉しかった。
建物の修理が終れば、二人は去りまた以前の会話の少ない生活に戻ると
思うとヴィラは、少し寂しかった。
「本当に里の人達はここを通るのかい」
オ-ディがこれからの予定をバスチャスに伝えた事にヴァンが質問をしていた。
「塩はここで買えるし、今からフェロウに向かうより帰って来る皆と合流した方がいいと思う。
里の者は夜間は飛ばない。迷う事を考えて街道上空を飛ぶ約束だったから、絶対ここの上を通る。
目印もあるし見付けてくれるさ」
「でも‥目印があれではね」
食堂の窓より外を眺めてヴァンが笑う。