被害
オ-ディが、黒曜の下から這い出し立ち上がり前方に見える町の様子をうかがった。
五軒ある建物の三軒は無事だったが、手前側二軒は竜巻にでも遭ったように軒先や窓が
壊れ家具や道具が散乱していた。オ-ディは取り囲む村人に会釈する。
「おはようさんです。お尋ねしますが、あれはこいつが破壊した跡でしょうか‥」
オ-ディは建物と黒曜を交互に指さし近くの男に話掛けた。
「今朝方スチャスの宿屋に屋根を突き破り飛び込んで、向かいの食堂を壊したが、
こいつは全く無傷で偉く丈夫な竜だな。兄ちゃん」
白露と黒曜は共生者である。オ-ディとシャランに会話は出来るが、他の人と会話は出来ない。
里の泉で魂をつなげた人と竜は、共に生きる共生者して生きている。
一般の人々の言葉は判らない。
それでも黒曜は自分が起こした騒ぎの大変さにシャランの後ろでその身を小さくしていた。
「うちの竜が迷惑かけまして、村長か責任者に話を通したいんだが」
「あんたが飼い主かい」
振り向くオ-ディの前に四〇代・小太り・如何にも宿屋の女将らしい女が憮然と見上げていた。
「どうも女将さんですかい?うちの者がご迷惑かけまして」
自分より大きな男が頭を下げ素直に謝る姿に毒気を抜かれた女将は苦笑交じりに言う。
「建物の修理代と壊れた物の弁償をしてくれりゃいいからさ」
「幾らぐらいの弁償で‥」
壊れた建物の惨状を眺めながらオ-ディが尋ねる。
女将は上着のポケットより紙を取り出し計算しながら
「隣街から大工に来てもらうから二〇〇万ギルは貰わないとね」
「二〇〇万ギル~そんな大金持っていないよ」成り行きを見ていたシャランが叫ぶ。
「荷物が全部売れても八〇万ギル位だし、弁償したら岩塩や冬越え用の品が買えなくなっちゃう」
大金に驚き声を上げるシャランの後ろで、黒曜はさらに小さく身を縮める。
振り向き自分と黒曜を交互に指さしオ-ディは溜め息を付く。
「屋根に穴を空けたのは‥こいつで保護者は俺‥弁償の責任がある」
「あんた達‥ひょっとして文無しかい」
降って涌いた惨事の責任者が現れたと安心したものの相手に賠償能力が無い事が判り女将は動揺した。
回りで成り行きを見ていた者達も口々に責任を取れ金を払えと言い出す。
オ-ディは無言で詰め寄る人々を押しのけ籠からこぼれた日用品の中から
大きめの革袋を拾い上げ。小さな麻袋を取り出し中身を確認する。
引き返し女将に手渡し頭を下げた。
「俺達の持ち金五千ギル。建物は俺が責任持って修理する。不足分は小麦と
薬草で許してくれないだろうか」
相手が言った二〇〇万ギルには、とても足りないが自分達に出来る精一杯の
条件を出しオ-ディは願った。
「不足分は後でちゃんと払います」
シャランも夫に並び一緒に頭を下げた。二人の様子を見ていた黒曜もペコと頭を下げた。
「いいよ。屋根を直ししてくれるなら、さっ‥頭を上げて」
「えっ‥」駄目だと思っていたオ-ディはびっくりしながら「いいんですかい」と尋ねた。
「建物の修理とあんた達が持っている品でいいよ。それと娘さんは修理が
終わるまで宿の手伝いをしておくれ。大工の腕は確かだろ」女将はバンと
オ-ディの背中を叩きついて来きなと自分の宿屋へ向かった。