落としもの
「こうなる事が、判っていたから、置いて来たのにあいつが勝手に後をついて来たんだ。
構いやしない。俺は置いて行くぞ」
少女に殴られた顎を摩りながら青年は出入り口に座る少女に近づき、
その細い肩に顎を乗せ寄り掛かった。
「シャラン‥俺‥腹減った朝飯~」
シャランはすっと後ろに体を引き籠の中に入る反動で青年の体は出入り口に倒れる。
「お‥おっ‥落ちるじゃねえか、お前は亭主を殺す気か」
籠にしがみつき情けない声を上げる夫にシャランは怒りをぶつける。
「黒曜はあなたの共生者でしょう。心配じゃないの。あの子はまだ生まれて
五ヵ月の幼体‥初めての外界にひとりぼっちで・・もしかしたら怪我を負ってるかも」
「そう悪いほうへ考えるなよ。あいつの丈夫さはこの五カ月間で十分判ってるだろ」
シャランを抱き締めオ-ディは、大丈夫とささやき続け優しく額に口つけた。
シャランがオ-ディの腰に手を回し自然と引き合う唇と唇。
「エ~‥オ熱イ中失礼‥黒曜発見‥アラヤダ‥アンタ泥ダラケジャナイ~」
白露の声に重なり黒曜の声が聞こえる。
「白露ゥ~じゃらーん~~ビェ~~ン」
我に帰り籠の外へ顔出した二人・目がけて黒い固まりが飛び込んできた。
「ぐぇ~」ショック止めに使われたオ-ディが潰れたカエルみたいな声を上げ黒曜の下敷きになる。
身長三尺・体重一五貫・全身漆黒の小さな竜がオ-ディを踏みつぶしシャランにすがる。
「しゃらん~」「お前泥だらけで‥怪我はないか‥あ~あ‥目ヤニだらけ、こら鼻水をつけるな」
迷子になり泣き続けて目ヤニ・鼻水・涙で、グチョグチョになった顔をシャランに
こすりつけしがみつく幼い竜を笑顔でなだめシャランは安堵の笑顔を作る。
「一晩中探したよ。無事でよかった‥よかった」
再会に喜び涙で抱き合う一人と一頭。
嬉しい沈黙が籠に漂う中・地の底から響くような呻き声が聞こえて来る。
「俺は無事じゃねえ‥退け~クロ助~」
黒曜の下敷きになって潰れていたオ-ディが反撃に出た。
黒曜を背中から振り落とし今まで溜まった怒りをぶっける
「勝手に飛んで迷子になって‥見付けたからいいけど、おとなしく里で留守番してりゃあいいもんをお前が、勝手に後を追いかけて来やがって‥今頃フェロウで旨い酒のんでいるのによぉ‥〓☆◎〓 ‥」
オ-ディの小言山舞をBGMに目ヤニ・鼻水で汚れているいる黒曜の顔をきれいに拭きながらシャランは「無事でよかった」とつぶやく。
オ-ディの小言に重なり白露の声が聞こえて来た。
「シャラン‥無事デ済マナイミタイ。降リルヨ」
白露の言葉に籠より外を覗くシャランの視界に見えたものは、屋根に大きな穴が
空いた宿屋らしき三階建の建物とこちらに向かい何か叫んでいる人々だった。
街道より少し外れて小さな食堂を兼ねた宿屋を営む五軒程の集落の外れに降りる白露。
見慣れない翼竜に驚きながらも近づく人々。
白露は籠中の三人に呼びかけ背中の籠を下ろそうとするが、中では黒曜を間に
口喧嘩の真っ最中で無視された。
「降リテチョウダイ‥ト‥聞ク気ガナイミタイネ」
溜め息を吐きながら 白露は人間が背中に背負った籠の中を出すように頭を下に向け体を揺すった。
ドサリと音を立てて固定していなかった寝具やコップ・水筒などと一緒に
シャラン達は地面に放り出された。
「白露‥イッテ~退け黒‥重てえぞ」
「きゃっ‥痛い‥あっやっやっ‥白露ったらひどい~」
突然の強行手段に抗議するシャラン達の声には耳を貸さず背負っていた
籠の背負い紐を外し籠を地面に降ろし白露は
「一晩ジュウ飛ンデ疲レタワ‥食事ト水浴ビニ行ッテクル」
と言い残しサッサと素知らぬ振りで山の方で飛んで行ってしまった。
残された二人と一頭は村人に取り囲まれた。