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51.五年生のドッジボール大会

 五年生になって俺の新しいクラスは三組だった。残念ながら葵ちゃんと瞳子ちゃんは二組となってしまったのでいっしょにはなれなかった。こればっかりは運なので仕方がない。

 とはいえ、赤城さんとは四年生に続いて同じクラスになれた。佐藤なんかはこれでもう五年連続で同じクラスである。やっぱり仲の良い友達とともにいられるのは心強い。


「よう高木! 今日も勝負だな!」

「わかったからいちいち肩組むなよ」


 本郷が飛びかからん勢いで肩を組んでくる。そう、こいつも俺と同じ五年三組なのである。

 なんだかんだで四年生の頃は本郷と関わることがけっこうあったからな。運動能力が近いというのもあって、体育の時間では本郷とペアを組むことも多かったのだ。

 まさかスポーツ万能でモテモテの本郷くんと仲良くしてるだなんてな。前世の俺だったら信じられなかっただろう。

 さて、本郷のテンションが上がっているということはスポーツをするということである。

 本日の体育はドッジボールをやるのだ。小学生の頃は大好きだったスポーツである。サッカーは蹴球、バスケでは籠球と漢字で書いたりするが、ドッジボールを漢字で書くと避球となる。かなりどうでもいい知識を思い出してしまった。


「ちょっと本郷! 俊成から離れなさいよね!」

「うおっ!? 何すんだよ木之下!」


 瞳子ちゃんの声がしたかと思えば本郷が俺から離れた。どうやら彼女が引っぺがしてくれたらしい。

 二人が睨み合いを始めたのですぐさま間に入る。


「おい本郷。瞳子ちゃんとケンカするようなら俺は怒るからな」

「うっ……、悪かった。謝るから怒らないでくれ」


 本郷は引きさがってくれたようだ。まったく、いきなりケンカなんてしてほしくないもんだ。

 さて、クラスの違う瞳子ちゃんがここにいる理由がある。というか五年生全クラスが運動場に集まっていた。

 今日は合同体育で五年生全クラスでのドッジボール大会なのだ。みんな気合が入っていた。


「うぅ~……。ドッジボールかぁ……、やだなぁ……」


 いや、葵ちゃんはテンションだだ下がりだったね。小学生に人気のドッジボールでもそれは変わらないようだ。


「あおっち心配しないで。ちゃんと私が守ってあげるんだから」

「真奈美ちゃん……」


 小川さんの頼りがいのある言葉に葵ちゃんは目を輝かせた。小川さんは葵ちゃんと同じ二組なのだ。

 二組は葵ちゃんに瞳子ちゃん、それに小川さんのグループが固まっている。何と言うか女子の勢力が強いクラスとなっていた。

 そういえば前世でもこのくらいの時期から小川さんのグループが完全にカースト上位になっていた気がする。葵ちゃんがいるのはもちろん、今世では瞳子ちゃんもいるので相当な勢力だろう。


「俊成、今日は負けないわよ」

「俺も負けないよ」


 瞳子ちゃんはやる気だった。でも正直彼女にボールをぶつけるなんて俺にはできない。他の子を相手に全力を出すのだと心の中だけで誓った。


「トシくん……優しくしてね?」


 微笑みながらそんなことを言う葵ちゃん。なぜ俺は彼女と別のクラスになってしまったのかっ。守りたい、その笑顔を!


「高木、そろそろ集まらないと」

「ふぉうっ!? あ、赤城さんか……。そ、そうだね行こうか」


 背中をすーっとなぞられる感覚がして変な声を上げてしまった。赤城さんは俺の背中を突っついたりなぞったりと様々な攻撃を繰り出してくる。四年生の時に俺の後ろの席になってから背中を触られることが増えてたから癖になってしまったのだろうか。

 俺は赤城さんといっしょに三組の子達の元へと向かった。後ろの方からぐぬぬと聞こえた気がしたけど気のせいだろう。

 ドッジボール大会は一クラス二チームを作っている。五クラスあるので十チームもあるのだ。

 勝利方法は制限時間内に相手チームを全員倒すこと。制限時間がきてしまった場合はコート内に残っている人数が多いチームの勝ちとなる。


「高木、決勝で会おうぜ」

「はいはい。お互い勝てるようにがんばろうな」


 本郷は俺とは別のチームとなっている。俺と勝負したいからとわざわざ俺とは反対のチームを選んだのだ。別にいいんだけどね。

 運動場は広いので一度に五試合行うことができる。好きなことをする時は良い子なもので、みんなテキパキと試合をこなしていった。


「ふふふ、やっと高木くんを倒せる時がきたのね。佐藤くん、あんたもよ!」

「えぇーっ! 僕は高木くんみたいにすごくあらへんよ」

「問答無用っ! 私に泣きっ面を見せなさーい!」


 佐藤と小川さんは楽しそうだなぁ。そんなに興奮しなくてもすぐに試合は始まるのにね。


「俊成、わかってるとは思うけど真剣勝負よ。手加減なんてなしなんだからね」

「あ、うん。わかってるよ」


 瞳子ちゃんはやる気に満ち溢れていた。そんなにドッジボール好きだっけ?


「大丈夫。あたしと高木がいっしょなら負けない」


 赤城さんが俺の背中にくっついて顎を肩に乗せてきた。彼女の体温がそのまま伝わってきそうだ。ていうかくっつき過ぎじゃないかな?


「トシくん? どうして赤城さんとくっついてるのかな?」

「あたし達への宣戦布告と受け取るわよ?」


 葵ちゃんと瞳子ちゃんから黒いオーラが発せられていた。あ、これやばいやつだ。

 しかし赤城さんはわかっていないようで首をかしげるだけだった。ちなみに顎は俺の肩に乗せたままである。

 赤城さんにとっては男女がくっついても異性の意識なんてまだないんだろうね。まあ子供なんてそんなものか。


「葵、やるわよ」

「うん。私がんばるよ瞳子ちゃん」


 なんか二人が結託していた。いや、同じチームなんだからそれはそれで間違ってはないんだけども。

 そうして三組と二組の試合が始まった。


「てぇいっ!」


 瞳子ちゃんが投げるボールが三組を襲う。運動ができる彼女はドッジボールでも強かった。なんなく三組の子達を倒していく。


「みんながんばって!」


 葵ちゃんがそう言うと二組の男子達が連携を取って彼女を守る。そしてガッチリとボールを押さえてきた。え、何あれ?

 まるで葵ちゃんを守る騎士団である。いやいやいや! まだ五年生になって間もないのに葵ちゃんを守るこの男子達はなんなんだよ!? 統制が取れ過ぎだろ!

 瞳子ちゃんが攻めて、葵ちゃん(というか彼女を守る男子達)が守る。なかなかに攻守のバランスがいい。

 コート外からボールを当てればその子はコート内に入れるルールだ。俺はボールを取ったらコートの外にいる子にパスをする。


「自分から攻めてこないなんて情けないわね!」


 小川さんに野次を飛ばされた。ちなみに彼女は俺が最初にボールを当ててあげたのでコートの外にいる。まあ佐藤を狙われるわけにはいかないからな。


「高木、くるよ」

「おう、任せろ」


 赤城さんは目立たないながらもしっかりとサポートをしてくれていた。わりとアシスト上手である。

 制限時間が刻々と近づいてくる。相手は葵ちゃんと瞳子ちゃんを含めて五人残っている。対してこちらは俺と赤城さんと佐藤の三人だ。数的不利だがまだ負けたわけじゃない。

 パスばかりだと読まれてしまうな。俺も攻めなきゃ。

 投げられたボールをキャッチする。今度はパスじゃなくて俺が投げて当ててやる。

 足元を狙って投げる。相手の男子はキャッチできずに当たってしまいコートの外に出た。


「やるわね俊成。でも勝つのはあたし達よ」


 ボールを拾った瞳子ちゃんが全力投球をする。そのボールは速く、簡単に佐藤を倒してしまった。


「当たってもうた~。ごめんな高木くん赤城さん。後は頼むわ」


 ついに佐藤がやられてしまったか。避けるのが上手い奴だったから最後まで残ってくれると思ったんだけどな。まああれは当てた瞳子ちゃんがすごかった。

 これで二対四か。ちょっと厳しいな。

 赤城さんがボールを拾う。彼女はしばしボールを持ったまま止まっていた。それから隙をつくようにボールを放った。

 だけど、それは相手の誰にも当たらない位置だ。コントロールミスかと思ったら、外に出たばかりの佐藤がキャッチして近くの相手男子にぶつけた。


「おぉー」


 思わず感嘆の声が漏れる。今のは上手い。

 コートの外にいる佐藤が当てたので戻ってきてくれた。これで三対三となった。

 葵ちゃんがコートの外に出そうになっていたボールを拾う。それから彼女は瞳子ちゃんに何やら耳打ちをした。

 なんだろうか? 気にはなったけど葵ちゃんがボールを投げたので思考を中断する。


「みんなお願いね!」


 葵ちゃんがそう言うと、パスを出された男子がさらにパスを出す。それから次々とパスが繋がっていき、俺たちは翻弄された。だからなんなんだこの統制された連携は!?

 距離を取ろうと下がればまたパスを出される。そして瞳子ちゃんにパスが渡った時、俺と彼女の距離はだいぶ近かった。

 これはまずいっ。この距離で瞳子ちゃんの速いボールをキャッチするのは無理だ。これはよけるしかない。

 瞳子ちゃんが投球モーションに入る。俺は回避行動に移った。


「瞳子ちゃん右!」


 俺がボールを避けるために足に力を入れた瞬間、葵ちゃんの声が響いた。

 地面を蹴ってから気づく。葵ちゃんが言ったのは俺が避ける方向だったのだ。

 狙いすましたかのようなボールが俺の足にぶつかった。キャッチできなかったのでアウトだ。葵ちゃんと瞳子ちゃんのコンビネーションにやられてしまった。


「やったね瞳子ちゃん!」

「葵の言った通りだったわね。すごいじゃない!」


 葵ちゃんと瞳子ちゃんは互いを褒め合っていた。やっぱりあれは作戦だったのか。してやられてなんだかすごく悔しい。


「安心するのはまだ早い」


 すぐさまボールを拾った赤城さんが、喜んでいる途中だった瞳子ちゃんにボールを当てていた。この早業には俺もびっくりしてしまう。当てられた瞳子ちゃんもぽかんとしていた。

 ちょうどそのタイミングで制限時間がきてしまい試合終了となった。コートに残っている人数も二対二だったので引き分けとなってしまった。


「せっかく俊成に勝てると思ったのにっ。悔しい~」


 瞳子ちゃんは心底悔しそうにしていた。ほっといたら地団駄を踏みそうな勢いである。葵ちゃんが声をかけると収まってくれたみたいなのでよかった。葵ちゃんはいい笑顔だったな。

 それにしても、まさか瞳子ちゃんにやられてしまうとは。いや、葵ちゃんの協力もあったな。こんなところでも二人の成長を感じられた。

 五年生のドッジボール大会は俺と葵ちゃん瞳子ちゃんチームの同時優勝に終わった。ちなみに本郷は同じチームの女子達が彼の周りに固まってしまい身動きが取れなくなってしまったことで万事休す。不完全燃焼のまま敗退していたのであったとさ。



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