if 二つの幸福が重なる場所③
「……ん」
柔らかな朝の陽光が差し込む寝室。
左右から伝わってくる心地の良い体温と、甘い香りに意識が浮上する。
左側には、長い黒髪をシーツに広げて、無防備な寝顔を見せる葵。
右側には、陽光できらめいた銀髪に包まれて、安らいだ寝顔を見せてくれる瞳子。
「……ここは天国か?」
と、思わず大真面目に呟いてしまう。
前世の俺が見たら、いろんな意味でショックで憤死しそうな光景だ。
だけどこれは現実で、幼馴染として二人と過ごしてきたからこその幸せだ。
「んん……あ、トシくん……おはよー……」
葵がゆっくりと目を開く。
その目はとろんとしていて、まだ寝惚けているようだった。
葵は「んん……」と甘く呻き、俺の腕に抱きついてくる。
抱きついてくるというか……双丘と太ももに挟まれて、ふわふわスベスベの幸せを腕で堪能させてくれる。
「……」
ちなみに、現在俺たちは身に纏っている衣服は何もない。
肌で直接、葵の温かさと柔らかさを感じ取っているのだ。
「……っ」
昨晩あれだけしたってのに……我ながら元気だ。
前世よりも確実に体力が向上している。それは日々の鍛錬の成果なのか、二人の妻が可愛すぎるせいなのか、その両方か……。
「すぅ……すぅ……すー……」
ついさっき「おはよー」なんて言ったばかりなのに、葵はすやすやと寝息を立てていた。
再び夢の世界へと旅立ったらしい。彼女のとても幸せそうな寝顔に見惚れてしまう。
「ここにある今が、俺にとっては夢のようだよ」
冴えないおっさんだった俺が、こんな素敵な女性に好かれるなんて夢でしかあり得なかった。
もちろん前世の時とは比べ物にならないほどの努力をして、それ相応の立場になったのだと胸を張れるからこその今がある。
「んっ」
左手は葵に抱え込まれているので、空いた右手で彼女の黒髪を撫でようとしたら、動かなかった。
寝返りを打った瞳子が俺にくっついてきたのだ。葵とはまた違った温かさと柔らかさが腕全体に伝わってくる。
葵以上に白い肌がとても綺麗だ。俺の右手を内ももで擦り合わせて……とても良い感触に顔が綻ぶ。
幻想的なまでに美しい女性が、無防備に俺を誘惑する。
や、やばい……こんなの、朝から収まりがつかないぞ……っ!
「んー……」
瞳子の手が、俺の胸を撫でる。
寝惚けているだけなのだろう。瞳子はあどけない寝顔で可愛らしい寝息を立てているだけだったから。
「んふ……俊成……♡」
寝惚けている……だけだよね?
耳元で甘い寝言を囁かれて、熱が上がるのを押さえられるわけがなかった。
「んー……トシくん……♡」
しかも葵まで、俺を撫で始めた。
その手は腹や太ももなど、際どいところを責めてくる。
その手つきは、まるで俺を煽っているかのようで……っ。
「って、二人とも絶対に起きてるだろっ!」
「あ、バレちゃった?」
「ふふっ、俊成が可愛いからいけないのよ」
身体を起こした葵と瞳子が「ねー?」と笑い合う。打ち合わせとかしてないだろうに、息ピッタリすぎませんかね?
「……起きてたんなら、俺が我慢の限界なのわかってるだろ」
盛り上がりは隠し切れない。
朝から幸福な時間を過ごせるのを確信して、一部分の震えが止められなかった。
「「じゃあ、朝の一番はどっち?」」
「え?」
同時に尋ねられて、盛り上がっていた気持ちが停止する。
代わりに俺の心にのしかかってきたのは、二人から発せられるとてつもないプレッシャーだった。
「「……」」
瞳子と葵が、無言で互いの目を見つめ合う。
瞳子の氷のような微笑が俺を震えさせ、葵の太陽のような満面の笑みに押し潰されそうになる。
「あら、葵? 昨晩は譲ってあげたのだから、朝の一番はあたしの番でいいわよね?」
「えー? 瞳子ちゃんが譲ったんじゃなくて、トシくんが私を選んだんだよ。だから朝もトシくんに選んでもらえばいいんじゃないかな?」
なぜだろう……二人とも笑顔のはずなのに、火花が散っているように見えるんですけど?
「ねえ、トシくん……私が一番だよね? 昨晩だって、あんなにも『可愛い』って言ってくれたんだもん♡」
葵が俺の頭を引き寄せて、豊かな胸に埋もれさせてくれる。
すでに葵のすべてを知り尽くした身でありながら、やっぱりこの感触に感動せずにはいられない。
「ず、ずるいわよっ! ね、ねえ俊成……昨晩あたしに『可愛すぎる』って囁いてくれたわよね……。また言ってくれたら……俊成がしたいこと、叶えてあげるわ……っ♡」
瞳子が葵から奪い取るように、俺の頭を自身のキメの細かい肌の胸に埋もれさせてくれた。
成長した柔らかさは、豊満と表現していいほどだ。ずっと彼女たちの成長を見守ってきた俺が言うのだから間違いない。
ふむふむ……やっぱり瞳子の感触も好きだなぁ。ときめかずにはいられない。
「むぅー、ずるいのはどっちなの!? トシくん、私だってトシくんのお願いならなんでも聞くよ。ど、どんなに恥ずかしいことでも……ね♡」
「あ、あたしも俊成になら……どんなに恥ずかしいことをされても……う、嬉しいわ♡」
二人は俺を引っ張り合う。
言葉もどんどんエスカレートしていく。特に瞳子は普段では考えられないほど過激な発言をしているのに気づいているのだろうか。
二人とも、外では「世界の至宝」であり「伝説のデザイナー」と崇められている超一流の女性だ。
子供たちの前でも、優しくて落ち着きのある姿を見せている。
なのに、どうして俺たち三人になると、幼稚園児のような主導権争いをしてしまうのか。
「あーっと……二人とも落ち着こうか。俺にとっては瞳子と葵、どっちも──」
「「『どっちも』は禁止!」」
見事なシンクロ率で遮られた。君たちケンカしていたはずだよね?
でも、まあ、仕方がないか。
あの日のクリスマス……二人は、俺の傲慢な願いに応えてくれたのだ。
だったら、俺も彼女たちの微笑ましい(?)キャットファイトに応えなければなるまい。
「……葵」
「なあに、トシくん?」
葵は期待に満ちた目で俺にその美貌を寄せてくる。
ちょうど近づいてきた耳に口を近づけて、吐息混じりに囁く。
「葵は俺の心の一番柔らかい部分を癒やしてくれる最高の妻だ。苦しい時や悲しい時、俺が弱っている時にいつも優しく癒やしてくれたから頑張れたんだ。本当にありがとう……愛してるよ」
「……! も、もうっ、トシくんったら……っ!」
葵が顔を真っ赤にして悶絶する。
「そして、瞳子」
「な、何よ」
少しだけ耳を赤くして身構える瞳子の肩を抱いた。
そして、赤くなった耳に向かって熱く囁く。
「瞳子は俺に一番強さを与えてくれる最高の妻だ。大変で困難な道でも迷わず突き進めたのは、瞳子が支えてくれて、奮い立たせてくれたおかげだよ。いつもありがとう……愛してるよ」
「~~……っ! そ、そう……あたしも、愛しているわ……っ」
瞳子も顔を真っ赤にしながらも、満足げに口元を綻ばせた。
「「「…………」」」
俺も、顔が熱い。
だけど、たまにはこういう時間もいいのかもしれない。
愛情を言葉にして伝えることは、きっとこれからも大切だろうから。
さて、ケンカも収まったし、これにて一件落着……と思ったのだが。
「……ねえ、瞳子ちゃん」
「何かしら、葵?」
「『一番柔らかい部分を癒やしてくれる』と『一番強さを与えてくれる』は、結局どっちがより愛されていると思う?」
え、そこ比較するの?
「……比較対象が違うけれど、人生の根幹を支えているという意味では、あたしの方が優位性が高いわね」
「そんなことないよ! 人間癒やしがないと生きていけないんだから、私の方がトシくんにとって重要だよ!」
またもや二人の間に火花が散っているように見えるんだけど……。
あれ、ケンカは終わったんじゃなかったの?
葵と瞳子の視線が、同時に俺へと向けられた。
「ねえトシくん」
「ねえ俊成」
二人の声が重なる。
「「結局一番はどっちなの!?」」
俺は沈黙した。
結局、二人を選んだ以上の答えなどないのだ。
こういう時間があることは、覚悟しなければならなかったのだろう。
「あ……」
「ん……」
俺にできることは、二人を抱きしめることだけ。
絶対に愛する存在を離さないのだと、その意思を行動で見せることだけだ。
「「……もう、本当に欲張りなんだから♡」」
左右の温もりが、俺に応えてくれる。
ああ、まったくだ。欲張った結果がこれだ。
いろいろなものを敵に回して、法さえも超える場所を作った男の末路がこれなのだ。
俺の人生、面倒なことや大変なこともたくさんあったけど。
それを全部ひっくるめても、今が一番幸せだ。
『昔弟子だった勇者が魔王を討伐して私を口説きに来た』という異世界恋愛短編を投稿しました。
こちらも読んでいただけると嬉しいです(色んな意味で最強もの)
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