逆ハーエンドのその後のお話
思いついたので書いてみました。
どーでしょね?
アシェリーは転生者だ。
大学の階段で足を滑らせて、意識が遠のいたと思ったらこの「夜に花咲く鳥籠に」という乙女ゲームの世界のヒロインになっていた。
7人の素敵な男性と恋にバトルに忙しくも華麗な学園生活を送る市のゲームをアシェリー、前世名 綿引優菜はやり込んでいた。
全てのスチルは見たし、キャラ毎のルートの全クリは当然。隠しルートに、隠しキャラ、逆ハールートまで完璧に。暗唱できる程にはやり込んだ。
まぁ、要するに。
彼女はこの世界が大好きなのだ。
どのキャラも大好物だった彼女が、この世界に来て取ったルートはもちろん。
逆ハールート一択である。
いやもう当たり前だが。他のルートを選ぶ女子がこの世にいるのだろうか、とアシェリーは思う。
そしてつい二日程前。
隠しキャラまで含めた完璧な逆ハーエンドをアシェリーは無事に迎えたのだった。
(んー・・・なんの用なんだろ、王妃様。っは! まさか噂の王妃教育とかいう奴の話?! ゲームだとアレ、キツイとかしか書かれてなかったのよねぇ。・・・うう、ダルそう。)
アシェリーは王宮の蝋かを歩きながらちょっと顔を顰めた。
ハーレムエンドのスチルみたいに、7人の美男子に囲まれてお茶していた所を王妃リリティアーヌに呼び出されたのだ。
アシェリーは後ろ髪を引かれつつも、これからは毎日こんな事出来るんだし、と軽い気持ちで王妃の招待に応じて、今こうして向かっている所だった。
エンディング後の補足でも、主人公は子宝に恵まれ幸せに暮らし、国は一層の繁栄をした、みたいな事が書かれていたからアシェリーは安心しきったいた。
――――コンコンッ。
サロンの前に到着したアシェリーは淑女らしく扉を叩いて王妃様にそれを知らせる。
ややあって、中から王妃様の声がした。
「どうぞ、お入りになって。」
「失礼いたします。バートン男爵息女アシェリー、王妃様のお招きに預かり、只今参りました。」
王妃の声に応えて、この世界で身に着けた完璧な礼をとってから、静々とサロンへと入る。
目を伏せ、頭をブレさせない実に淑女らしい歩き方も披露してみせた。
ある程度進むと、王妃様から再びお声がかかる。
「お顔をあげてくださいませ、アシェリー。」
ここでも慌てず騒がす、美しく花が綻ぶ様に、ゆっくりと顔上げ目を開いていく。
淑女は何事にももったいをつけ、じゃなくて、時間をかけるものなのだ。
(うん、完璧じゃない? 無いとは思うけど難癖つけられて嫁いびりされても困るもんね。)
ゲームでは王妃の性格はあまり触れられていなかったのだ。情報がほとんどない。
一応、念の為にアシェリーは全ての宮廷作法を完璧にこなして見せた。
(・・・あれ?)
アシェリーは目の前のテーブルに、王妃以外に6人の女性が座っている事に心の中で首を傾げた。
全員、まるで見覚えがない。
乙女げーなのでライバルキャラの女の子以外に立ち絵が用意される訳ないのだから、当然といえば当然と言えた。
(えーと。・・・あ、もしかして攻略キャラのお母さん達? え、幸せに暮らすんじゃなかったっけ、主人公。皆そろって嫁いびりでする気なの?!)
さっきまで一緒にお茶してた美男子達の面影が微妙にあるような気がする6人を見て、アシェリーはちょっと焦った。
一人息子をよくもハーレムに!とか怒られるかと思って内心ガクブルだ。
そんなアシェリーをまるっとスルーして、王妃リリティアーヌはたおやかにほほ笑んだ。
「ご紹介いたしますわね。
こちら、アンラクス侯爵夫人、ララリエル公爵夫人、エルティラ伯爵夫人、メセルガ伯爵夫人、ロバル子爵婦人、そして、隣国ハルティア帝国第三妃のナナトリア様ですわ。
ご存知かもしれないけれど、私を含めて皆様、貴女の伴侶達の母親ですわ。」
アシェリーの額にタラリと汗が一筋流れた。
(やっぱ虐め?! 吊るしあげなのっ?! って、ララリエルって王子様の元婚約者の悪役令嬢の家じゃんっ! あーっっ! 弟が攻略キャラだからそりゃ居ますよね!!)
その悪役令嬢さんは二日前に全力で蹴落とした記憶がある。
すわ、報復か!報復なのか!と身構えるアシェリーに、当のララリエル公爵夫人はにこやかな笑顔を差し向けた。
「身構えていらっしゃるから、お伝えしておくけれど。別に私は娘の仕返しに来た訳じゃないのよ?」
(嘘だ! 絶対嘘ついてる! だって目が怖いもん!)
アシェリーは心の中で吼えた。
酷い濡れ衣である。
ゲームでは悪役令嬢としてデザインされている為に、ララリエル公爵令嬢シャリルはかなりキツい目をした娘として描かれていた。
攻略キャラの息子さんは父親似の目で柔らかい、とか設定があった程だ。
なので母親が娘によく似た目をしていたとしても不思議ではない。
なんとなくアシェリーの心情を察したのだろう、ララリエル公爵夫人は頬に手を当てて困った様子だ。
「本当よ、アシェリー。
それに今日、貴女をココに呼び立てたりしたのは、もっと現実的な問題について貴女の意見を伺う為なの。」
見かねた王妃様が助け船をだす。
(ん? 現実的な問題? なんかあったっけ?)
チワワみたいに警戒していたアシェリーは、王妃の言葉に引っかかりを覚えた。
前世の記憶を引っ掻き回して、何かあったかと探してみた。
(スピンオフは幼少期のうんちゃらで、ドラマCDは攻略キャラのBLチックなサイドストーリーだったよーな? んー・・・私がこっち来た後で続編でもでたのかな?)
もしそうだったらどうしよう、ヤバいなぁとか思いつつ。
アシェリーは王妃様に詳しい内容を話して貰えるように促してみる。
「現実的な問題とおっしゃられますと? 国内か周囲で何か変事でも起きたのでしょうか?」
アシェリーの緊張を孕んだ声に、王妃様方はきょとんとされた。
高貴な淑女の珍しい呆気にとられた顔をみて、アシェリーの頭に疑問符が湧く。
「ええと、何か起こっているのではないのですか?」
重ねて問うアシェリーの言葉に、王妃様方が大爆笑なされた。
や、大爆笑は言い過ぎかもしれない。淑女らしく口元を手や扇で隠されているのだから。声を出して笑っていらっしゃる程度が良いかもしれない。
「うふふ、うふっ。・・・んっ、いいえ。国内にも国外にもそういった事は怒ってはいませんわ。」
頭一つ抜けて上品に笑ってらっしゃった王妃様が、時折お腹のあたりをピクピクさせながら、アシェリーにそう告げる。
噴き出しそうになるのを、鉄の表情筋でこらえてらっしゃるようだ。
いや凄いね、王妃様。流石淑女の頂点、淑女の鑑である。
「それでは何が問題なのでしょう?」
「とても現実的で、重要な問題ですわよ。
アシェリー、貴族は家を存続させなくてはならない事はわかっていますわね?」
今一ピンときていないアシェリーに、王妃様は顔をキリッとさせて尋ねる。
「はい。私達はその血によって民を導く事を女神様より許されていますから。」
アシェリーはゲームの設定をそのまま、王妃様に返した。
ライバルキャラ達はそれを盾に、爵位や立場の低い主人公に酷い事をするのだから、忘れる訳もない。
アシェリーも実際にそれで格の違いがうんたらされたし。
アシェリーの答えに王妃様は満足そうに頷く。
「その通りですわ。
ですから、私達のもっとも重要な役目は、血を残すという事になりますわね?」
「はい、そうです。」
(はよ子供作れとか、そんな事が言いたいのかしら? ・・・うーん、もーちょっとの間、気楽にロマンス楽しみたいんだけどなぁ、私。
いやでもあれか。王子様の子供は早い方がいいのかなぁ? こう国民感情的に。)
むむむ、とアシェリーは眉根をよせた。
「ところで、話は変わるのですけれど。
私の息子も含め、貴女のどの伴侶も貴女以外の娘との間に子を為す事は拒否すると言っています。」
(いや、それされたら逆ハーじゃないじゃん?! 当たり前だよ?!)
王妃のセリフにアシェリーは吼えた。
無論、心の中で。実際やったら、不敬罪とか言われそうだ。
第一エンディングの後にいきなり浮気されたら吃驚である。というか、そんな心折設計の乙女ゲーがあってたまるか!
アシェリーは、悲しそうな表情を王妃に向ける。
「・・・彼らとは、真実の愛で結ばれていますから。王妃様は私達の仲をお疑いなのですか?」
「ああいえ、私真実の愛とかはどうでも良いですわ。
ですが、貴女のその言葉を聞いて、貴女にも覚悟がおありのようなので安心いたしました。これで皆様と実務的なお話に入る事が出来ますわね。」
アシェリーはぽかんとした。
「貴女、お年は18でしたわよね?」という王妃様の質問にすら、 「あ、はい。」と生返事をしていまうくらいには混乱している。
(っえ? え? 今どうでも良いとかいった? 王妃さま? あれそんな性格してたっけ? イベに出てこないキャラだからわかんないー! ってか、覚悟ってなに? は?)
王妃様はアシェリー放置で周囲の淑女達を何やら交渉を開始していた。
「では、少し危険も伴いますけど。40歳あたりまで頑張って頂くとして、22年といった所かしら? ぎりぎりイケそうですわね?」
「45歳あたりまで見積もった方が宜しくありませんこと? 産んですぐに次は無理ですわよ、王妃様?」
「それはあまりに過酷ですわ、皆さま。一家に二人として、35歳あたりで手を打って差し上げるべきですわよ?」
「帝国としては三人は欲しいのですけれど。この先、関係の強化も致したいですし。」
「それでしたら家も三人ほしいですわ。・・・最近、周囲からの圧力が厳しくて。」
「皆さま、家は彼女が許してくれるのなら、ですけど。辞退しても良いですわよ?」
「それ、息子さんがお嘆きになるのでは? ララリエル公爵夫人。」
「王妃様には申し訳ないですけれど、家は娘が戻って参りましたから。あの娘が産めばお相手は誰であろうと問題なくなってしまいましたの。」
「その枠、帝国が買わせて頂きますわ。」
「あら、家でも買いたいですわよ?」
「本当に、相変わらず侮れませんわね、ララリエルお姉さまは。」
実に逞しく交渉をしていらっしゃる。
なんか聞きたくない単語が沢山聞こえた気がする。
(いやまって、40歳とか45歳ってなに?! そこまで子供産めと?! てゆか、一家につき三人?! 21人産めとかそういう話なのっ?!)
マリアテレジアだった16人だよ?! とか驚愕を覚えつつも、アシェリーは王妃様達の間に割って入る。
「お、王妃様方っ?! 一体なんのお話をなさっているのですか?!」
惚けたら何とかならないかな、とアシェリーは期待した。
21人とか物理的に無理だろう。
「・・・何って、貴女の義務のお話ですわよ? 貴女の伴侶は皆、各家の嫡男なんですもの。
あぁ、そうですわ。ララリエル公爵夫人からの提案はどういたしましょう? 貴女さえ良ければ、一人分の空きができますわ。」
ダメだった。
何が良ければなのか、アシェリーは尋ねるのも怖い。 が、一応尋ねておく。
「その、何が良ければなのでしょう?」
「私の家は、貴女のおかげで娘が王子の婚約者から外れたでしょう? だから無理に息子が子を為さずとも血は保たれるのよ。」
アシェリーの問いに、ララリエル公爵夫人が直接答えてくれた。
(確かに卒業パーティで断罪劇やってお宅の娘さん蹴落としました。・・・すみません、必須イベだったんです。)
そんな事いえる訳もないので、アシェリーは無難に頷いた。
「はい、ええ、まぁ。」
「だからね、貴女も大変でしょうし。
息子のパイプをチョッキンしてしまってもよいわよ? っていうお話。そしたら、順番とかお勤めとか気にしないで、あの子を癒し役として確保できるでしょう?」
本人が聞いたら多分泣いて嫌がるだろうコトを、ララリエル公爵夫人にこやかにおっしゃられた。
たおやかなお手手でハサミの真似事をするサービス付きである。
アシェリーはドン引きした。
(チョッキンって、いやそれは。・・・と、ちょっとまって。娘さん修道院に送られませんでしたっけ? え、何、あのキャラ戻ってくるの? まじで?)
ライバルキャラの復帰とかやってられない。
エンディングの後に昼ドラ真っ青のドロドロの寝取り寝取られ展開とかちょっと遠慮したい。
幸せに暮らせるんじゃないの、とか別の不安まで首をもたげてきた。
「・・・シャリル様は、修道院に行かれたのでは?」
「行っているわよ? 領地の公爵邸内に新設した所に今もちゃんといるわ。」
「その・・・良いのですか? いえ、修道院の場所もそうですけど、その、修道女が子供を産んだりしても。」
「だって、勿体ないでしょう? 直系なのよ、あの子。
それに、私、貴女が何を心配しているのか良く解らないわ。慈愛を直接学ぶ良い機会ですわよね?」
(そうだった! この世界の神様って、大地母神的な女神様だった! 修道女とか別に処女でなければならないとかなかったわ・・・むしろ子作り推奨だったわよね。
あと、直系だから勿体ないって、シャリル聞いたら泣くわよ!)
産めよ増やせよ地に満ちよ。
この世界の女神様の教えの基本である。
ついでに、親の罪は子にはないという実に道徳的な倫理観に溢れた優しい世界だったりもする。
アシェリーはちょっと遠くを見たくなった。
ココには居ないライバルキャラだったシャリルに、「あんたのお母さんおかしいよ。」とメッセージも届けたい。
花摘みとか言って席を外しても良いだろうか?
しかし、王妃様方の熱い視線がそれを許してくれなさそうだ。
「そ、その件は少し考えさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
この場で即決するには、ちょっと処じゃなく重い。
せめてパイプカットを告げる役が自分ではないと保証して貰わないと。
あの捨てられワンコ系の公爵子息は発狂するんじゃなかろーか。
(いやでも、21人が18人に減るなら・・・。)
アシェリーはちょっと揺らいでいた。
「別に構いませんわよ。 でもなるべくお急ぎになってね?」
アシェリーの葛藤を知ってか知らずか、ララリエル公爵夫人はさらっと引き下がってくれた。
ほっと胸を撫でおろしたアシェリーの脳裏に、チラリと嫌な予感がよぎる。
(あれ、まって・・・この際何人産むかは置いといて。
・・・・・・もしかして、年単位で攻略キャラとイチャコラできなくなったりする?! いやだって、皆といつも一緒だと誰の子かわかんなくなっちゃうよね?)
この後、それはもうばっちりイチャラブする予定だったアシェリーは大いに焦った。
花の時間は結構短いものなのだ。
それが、乙女でも、美男子でも。
確認せねばなるまい、とアシェリーは口を開く。
場合によっては戦争も辞さない覚悟だ。
「その、とりあえず何人とかの話は脇に置かせてくださいませ。
それよりも。
あの、授かるまではその方だけとしかお会いしてはいけないとか、そういう事になったりしてしまうのでしょうか?」
アシェリーはそんなのとても耐えられない、と全身で表現してみせる。
対して、王妃様一同はニッコリと微笑みを返していた。
「それはお気になさらなくてもよろしいですわ。
近頃は魔法も便利になりましたのよ? 父親や母親が誰であるか判別する魔法がありますの。」
「ええ、私の夫もおかげで調停がやりやすいと喜んでいましたわ。」
王妃様の言葉に、宰相の旦那様をもつロバル子爵婦人が同意を示す。
おお、とアシェリーの顔に希望が灯った。
「ですから、貴女のお好きなように逢瀬を楽しめますわよ。
一人一人お相手するも良し、全員まとめてお相手するも良し、ですわ。」
「そうですわよ。それに、貴女が順番とかを気になさる必要もありませんわよ?
誰の子であれ、授かった子の父親に順番が一巡するまで、子種殺しの呪いをかければ済む事ですもの。」
魔法の大家であるエルティラ伯爵の奥様が不穏な事を口にした。
話が妙な方向に流れているような気がする。
アシェリーの額に、再びタラリと汗が流れる。
(まとめてお相手とか、8Pしろとっ?! こちとら前世も含めて経験ないんですけどおぉっ?!難易度高すぎるわよっ!
てかその前に! 子種殺しの呪いって何?! 女神様の教えに真っ向から喧嘩売る様な呪いとかあんのっ?!)
頭の中のアシェリーさんはパニックで大騒ぎだ。
希望はどうやら休暇にでてしまったらしい。・・・いや、希望通りといえばそうかもしれないが。こんな生々しい方向を希望していた訳では断じてない。
「ええとその、子種殺しの呪いとか大丈夫なのですか? 教会とか・・・。」
「無いと大変ですわよ?
昔も似たような事か何度かあったのですけど、我が家がこの呪いを開発するまでは、生活にも影響する不便な道具を着用したりしていたそうですわ。
貴女も真実の愛を交わすのに、制限がある方がお辛いでしょう?」
(昔・・・っあーーーーーー! シリーズの前作と前々作かぁあああああ!!)
この「夜に花咲く鳥籠に」は、シャーラン世界物語というシリーズ物三作目だったりする。
1作目と2作目は、声優さんがいまいちだったのでアシェリーはすっかり忘れていた。
「この呪いの開発で我が家は陞爵いたしましたの。」とか、エルティラ伯爵夫人が言っている。
正直聞きたくなかった、魔法の大家の裏話である。
「昔ながらの方法が良いのでしたら、お持ちしますわよ? ミスリルの貞操帯。」
アンラクス侯爵夫人が頬に手を当てて、大変可愛らしく仰って下さった。
侯爵家には実物があるそうだ。
どんなものか、詳しく説明までしてくださる。
一応、生理現象には対応したものだそうで。小をするには専用の器具を使う必要があるものの、生活はできるとのことだった。
「かぶれたりして大変だったみたいなの。」とかは、要らない情報すぎる。
この時、アシェリーは自分が死んだ魚の目をしていると確信をもって言える。
まじかーと、天を仰いでいたら、急にゾクリと悪寒が走った。
ハッとして現実に戻ったアシェリーをお迎えしたのは、大変ワクワクとされた王妃様方の熱い視線だった。
「それで、何人くらい頑張れそうですの?」
「14はイケますわよね?」
「16くらいは欲しいですわ。ね、アシェリーさん?」
(・・・これ、幸せに暮らしましたな展開なの? いや、子宝には強制的に恵まれそうだけど。あれ、美男子に囲まれてちやほやされるなら、乙女げー的には幸せなのかなぁ。
肉体的負担は、あぁ・・・ゲームにでてくるわけないよねー、全年齢対象だもん。)
じりじりと迫る王妃様方に、アシェリーは逃げたくなった。
5年後。
4人目の赤ちゃんをお腹に宿して、アシェリーは城のテラスでお茶をしていた。
(逆ハーとか、止めときゃよかったわ、うん。・・・一巡まであと三人かぁ。)
頑張ったのだそれはもう。
というか、頑張らされたのだ。
最初は無理だと思った複数プレイも、今では慣れたものだった。
どれだけ美男子でも、年頃の男の子は男の子なのだ。一人一人お相手してても、嫉妬とか競争とかでまぁ、皆さん暴走してくださった。
物理的に無理なんじゃないかな、とか思う8Pだって出来てしまう。
人間って凄い。
(・・・前世のお母さん、優菜はふしだらな娘になってしまいました。)
そっと前世の母に謝っていると、向いに座る元悪役令嬢のシャリルが何かを察して気の毒そうに声をかけてきた。
「だからあれ程ご忠告して差し上げましたのに。
高位貴族の娘の間では有名な話ですのよ? アシェリー様。」
寄せられた眉根が、彼女の心情をこれ以上ないくらいに表現している。
あと、有名なのは、自由恋愛への切符として期待が込められた話だからだそうだ。貴族に恋愛結婚とか基本ないのだから仕方ない。
皆乙女なのだ。
「ほんとね、いやもーちょっと解りやすく忠告してくれても良かったと思うのよ。」
「私も当時学生でしたのよ?
そんな破廉恥な未来など、人前で口に出来る訳がないじゃありませんか。ふしだらな娘だと思われたら死んでしまいますわ。」
(そっかー、攻略キャラとイチャコラしてる時に限ってお邪魔虫になってたのは、そういう意味だったのかー・・・、嫉妬とかじゃなかったのね、アレ。)
目線を変えてみれば、攻略キャラ達に呼ばれた時に服をやぶいたり、お茶会に拉致しようとしたりしていたのは、なんとかこのルートに入らない様にしようとしてくれていたのだろう。
ゲームしてた時も、当時も、嫌がらせだとばかり思っていたが。
思い返してみれば、ゲームでも逆ハールートに行かない限り、彼女は悪役令嬢になんてならなかった。
(そうよねー、王子様ルートだと『どっちがより相応しいか!』みたいな勝負ばっかりだったわよねー、この娘。)
愛おしげに膨らんだお腹をさするシャリルを眺めて、アシェリーは嘆息する。
彼女も今や一児の母だった。
数か月前に授かったと、弟に見せに訪ねてきて以来、アシェリーは彼女と会話をするようになって色々とわかったのだ。
ちなみに、彼女のお腹の子は、実は恋心を寄せていた家庭教師との子供らしい。
王子の婚約者だからと今までは諦めていたの、とか可愛らしい笑顔で言われて、アシェリーの顎は外れそうになった。
「・・・でも、本当に宜しいのですの?
私としてはあの人の家に入れる様になるのですから、大変うれしいのですけど。その・・・貴女のお体の方が心配ですわ。」
「ええ、うん、仕方ないじゃない。決めたのよ。」
シャリルが本日の本題へと、話題を移す。
アシェリーは結局、ワンコ系キャラのパイプカットをしないことにしていた。
その可能性をアシェリーと一緒に母親から告げられた時の、泣きそうな、それでいて耐えるような顔を見て、「あ、これ無理。」と悟ったからだ。
(てゆか、『わかりました、アシュの体の為に僕・・・』とか涙ぐまれて出来る訳ないでしょーがっ!! 鬼女か私はっ!)
その事をシャリルに伝えるのがこのお茶会を開いた理由なのだ。
彼女は全身で、「これであの人のお嫁さんになれますわっ。」と喜びを露わにしていた。幸せそうで何よりである。
すっかり冷めてしまって注ぎ直された紅茶のカップに口をつけ、アシェリーは疲れた様に遠くの空を見る。
白い雲が真っ青に澄んだ空に浮かんで大変爽やかだった。
(・・・うん、もし次にたような事があったら、キャラは一人に絞ろう。)
アシェリーの決意は固い。
一万字近くもお付き合いありがとうございました。
楽しんで頂けたなら幸いです。