恋桜
ーーー蕾は春を待つ
雪の下から蕗の薹が見える。
そんな時に君と出会った。
僕が微笑みかけると君は僕に
そっと微笑み返す。
ああ、愛おしい。
ーーー蕾は花開く
小鳥がさえずる。
君と僕は、野原を駆け回る。
駆け回る理由なんて無かった。
けれど、二人で駆け回った。
少し暖かい風が二人の間を抜けていく。理由なんてなくていい。
ただひたすらに君の笑顔がみたかった。
ーーー桜は春を終え葉が緑に映える
僕と君の関係なんてただの友達。
でもそれだけでよかった。君はずっと僕と駆け回り、笑顔で居続ける。
僕の恋愛感情は無視していいんだ。ただずっと、このまま笑顔で。
ーーー桜は葉を落とす
僕はそこまで望んでいなかった。君の彼氏になれたらそれはとても嬉しいけど。そこまで望んでいなかった。
でも、最近君は居ない。
どうしたかなんて僕は知らない。
また、桜が咲く季節がくれば
また駆け回るだろう。
ーーー桜は永い眠りにつく
世間では背の高いモミの木に飾り付けをする時期になった。あらゆる男女が楽しそうに歩いている。その人混みの中に君はいた。
でも隣にいるのは僕じゃない。
知らない男。
君は僕だけの物だったはずなのに。
君は笑顔を見せる。僕ではなくその知らない男に。
仕方ない。
僕はそっと振り返った。
また春がくる。
春になってからでも遅くない。
ーーー花開く
僕は桜の木の下でそっと目を開ける。木の幹を背もたれにしていた。僕はそっと立ち上がる。桜の花が足下に落ちている。桜の花は所々紅色に染まっている。所々桜の香気はしない。ただ鼻を突くような鉄のようなにおい。
それは君と出会ったあの春とは違う。君が僕に微笑みかけることはない。僕と君が出逢ったあの春が二度と来ることはないのに。
それでもあの桜は春を繰り返す。