空の色
僕は「頑張る」なんて言葉の意味が全く分からなかった
テストで100点取っても父に殴られるだけ、何かの賞を取ったって学校で殴られるだけ、誰かを助けようとしたって余計邪魔になるだけ
なにかを得るには何かを失う覚悟をしなければいけないのに、失った所で結局それが帰って来る訳じゃない
そんな物は無意味だ、結局何かが起きるなんて事はない
大人は卑怯だ、僕が何か言ったところで都合が悪ければ聞こえないフリ、それに僕が嘘をついてるなんて事を言ってくる
本当の嘘つきはお前らだ、何が皆幸せな社会を作ろうだ、自分が良ければそれでいいんだろ、第一お前らが自分の子に対して「あいつと一緒にいると馬鹿が移る」なんて嘘をついたんだろ、よっぽどお前らの方が馬鹿だ
学校の友達なんてのは下らない、仲良しグループ?嘘つけ、あれはいじりグループだ、何も見えてないのかこいつらは
何が私たち親友だよねーだ、お前らお互いの悪口しか言ってねえだろうが
僕が友達と呼べる奴なんて一人しかいなかった。そいつも俗に言ういじめられっ子だった。保育園の頃からずっと一緒に話し、ずっと一緒にいじめられてきた。だからこそあいつだけは本当に真に心からわかり会える
小三のある日、父が死んだ。原因は肺がんだった
正直そのときはざまあ見ろと思った
毎日家で僕やお母さんを殴り、時には包丁で刺したりした罪が災いしたんだよバーカってね
でも葬式の時、お母さんはひたすら泣いていた
今までどれだけ殴られても、刺されても、僕を庇って余計痛かっただろう時でも決して泣いたことがなかったあのお母さんが泣いていた。
何故泣いているのか僕には分からなかった、絶対に嬉しい筈なのになんでこんなに顔がぐちゃぐちゃになってるのか分からなかった
そんなお母さんを見て、耐えれずに僕もひたすら泣いていた
あいつは葬式には来てなかった
それ以来俺は母に対して何かしてあげようと思うようになった
二度とあんな顔は見たくない、俺が少しでも守ってやると心に誓った。
でもできる事はひたすら少なかった、家の事を手伝うくらいのことしか出来なかった。
学校でのいじめは無くなった。原因はあいつが鬼の形相で怒ったから…らしい。それに加え俺が学校を休んでる間あいつも休んでいたらしい、本当かどうかは知らないが
俺は暫く色々なショックのせいかこの辺りの記憶はあまり無いが
家では常に母の側から離れられなかった事とあいつがずっと下らない話をしてくれた事だけはは覚えている
あとその影響かは知らないがあいつは極度の人見知りになった
小六のある日、母から大事な話があると言われた
内容だけ纏めると
・実は俺が生まれる前から父はがんだった影響で精子が死んでおり、俺は精子提供から生まれた、要するに本当の父親じゃない
・父は薬物を使用していた
・がんになる前に不倫しており血の繋がっている子供がどこかにいる
と言う事だった
正直ずっと唖然としてたし言ってる事の意味がよく分からなかった
でもそれを聞いて俺が何かのショックを受ける事は無く、ただただ無感情だった。
しかし母はずっと隠しており言えなかった事がずっと苦しかったと言っていた、恨まれても言いとか言われたが恨む事は決してない、何故ならあの母なのだから。
その話をあいつにも話した、話した理由は単に顔を見たときに「何か隠してるだろ」と気づかれたことにあった、あいつには何も隠す事が出来ないくらいの仲になっていた、だから全部話したしただただ何も言わずに聞いてくれた。それが嬉しかった
中学に入って部活をするようになり、あいつとは話す時間が少なくなってはいたがずっと一緒にいた
母に対してはたまに風邪をひいたりしたときに家の家事を全部してあげられるくらいには俺は成長していた
高校に入ってから数日、母が勤めている会社が倒産した
転職の関係上引っ越す事になり、一応市内ではあるのだが駅1つ分くらいはあいつと離ればなれになり、会える機会は少なくなっていた
まあ休日とかに普通に会ってるし携帯とかでいやなくらい話してはいるんだが
高2のある日、母が職場の人と再婚した
この人が凄く優しくまるで本当の家族みたいに自分や母を心配してくれる人だった
この時始めて俺はやっと「一人じゃないんだ」と思う事ができた
ずっと俺を支えてくれた母
ずっと俺に対して真剣に話を聞いてくれたたった一人の親友
そして本当に心の底から大事にしてくれる今の父
この人達に対して俺は一生をかけても恩返しをする事は出来ないと思う
それでも自分ができる分だけがんばって帰そう、そう心に決めた
曇り時々雨
傘を常にさし、友と一緒に帰路を進んでいた
家に帰りふと見上げると
空は晴れていた