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魂、売ります

作者: 小林今昔

最後に同性愛をにおわす表現が出てきます。それも嫌なかたはおやめくださいまし。全体的に普通です

なんで、いつも俺だけやねん

なんで、俺にはなんにもないねん

なんで、なんで、こんなにくそったれやねん


死んでまえ、みんな死んでまえ

みんな死んで、俺に物くれ

俺だけ、助かったらええと思う

俺だけ、上手に生きれたらええと思う


そやのに、みんなうまいことやって

俺だけが、いつも取り残される


皆、笑ってる、皆が持ってる鞄、靴、ポケットに入ってる財布

ブランド、個性、好きな物、決して使い古された物やないもの

しかたなしにお古やら貰い物を使っているんやない若い奴ら

好きなもの、好きに持てて、好きに遊んで生きてる奴ら

憎い、憎い、憎い



俺はいつも見てる

俺はいつも持ってない


お前ら皆笑ってる


なんで、いつも俺だけやねん

なんで、俺にはなんにもないねん

なんで、なんで、こんなにくそったれやねん


死んでまえ、みんな死んでまえ

みんな死んで、俺に物くれ

俺だけ、助かったらええと思う

俺だけ、上手に生きれたらええと思う


うまいもん、ええおんな、やさしいおかあちゃん、ふかふかのベッド

週刊誌がいつも買える小遣い、ゲームソフト、アイスクリーム、友達

俺には母ちゃんのビンタ、きいきいする姉ちゃんの声、ジジイが言う

「お前は橋の下で拾ってきたんやぞ」ほんとうにそうならいいと思う

俺は捨て子でええ所のぼっちゃんで、隣のおじちゃんに愛想笑いなんか

しなくていいええところのぼっちゃんならええことやと思う

欲しいなら、くれてやる

こんな生活なんて夢ならええ、こんなもんならなんぼでもくれてやる

そやから


死んでまえ、みんな死んでまえ

みんな死んで、俺に物くれ

俺だけ、助かったらええと思う

俺だけ、上手に生きれたらええと思う


そやのに、みんなうまいことやって

俺だけが、いつも取り残される


くれてやる。魂も体もなにもかも

悪魔に魂を売れるところがあるなら

俺に教えてくれ


俺は喜んで売り出してやる。


【魂、売ります】


1,



「おおきに、ええ商売させてもらいました」

「てっちゃんが連れてくる子はいつも上玉ばっかりで助かるわ。」

「そら、僕、お商売させてもろてますから。」



おおきに、まいど。


おきまりのフレーズで男はにっ、と笑った。

大阪、ふきだまり、浪花の夜


そこに、長身の男が現れる


雑居ビルから派手なスーツの男


いなせにハンチングなんぞかぶって


原田、という男はキョロキョロと回りを見渡している。


そこへ、上玉の女


にっ、と原田は笑った。


「…こいつは、鰻特上4枚分ってとこやな」


ペロッと舌舐めずりをして原田は駈け出した。



おおきに、おねえちゃん、今、暇?え、どないしたん


僕あやしそうに見える?僕なんもあやしくないで、


ほんま、ほんま!あやしいのは僕の頭くらい


僕、あたま悪いねん、ほんま、ほんま、この前もな、足し算出来ひんて


バイト首になったん。かわいそうやろ、え、なに、おもろかった?


あ、おねえちゃん、あんた、笑ったらめっちゃかわええやん!


ほんま、かわいい!ばり、ばり、かわいいわあー!



…いま、暇?



女がノリに乗せられて

、原田と話す。

原田の話術に乗せられて、キャバクラ嬢位ならまあいいかと笑った。


「ちょうど、欲しいバッグもあったし」

「そおかー、いや、良かった、良かった、僕も君のお役に立ててよかったわあん」


そして、女に見えないように顔を背けて


笑った


「まいど、おおきに」


ここは地獄の一丁目


いきはよいよい、かえりはこわい


骨の髄までしゃぶらせてもらいまひょ


女は気付かずに、笑っている。



2,


あこぎ、な真似と言うのは要するにテクニックだけではない。


思いやりだ。真心が必要なのである。



精神誠意込めて、その時だけ、その人の事を思う。

疑似恋愛をご提供する。


すると、心が繋がる。


愛が芽生える。


「そう言うもんを提供するのが僕の仕事や、思てるし。だってそうやん。おいしいもんなかったら、魚もつれへんやろ。餌、大事やで。」


20代後半の男からそんな言葉が漏れると、大人は苦笑してしまうだろう。

目の前にいる男性もそうだった。


「そう、やな」

「森さんなに、笑ってんの。」

「いや。いい男を拾ったもんやと、な」

「冷とうあしらったくせに。現金なおっさんやな」

「まあ、そう言うなや。」



そう、笑っているのは多少ふっくらとした中年の男性だ。



事務所然とした部屋の一角に、異様なスペースがあった。


元は着替え場所であった隅のスペースに

物が、溢れているのである。


新しい物、古いもの、全て原田の私物である。

流行りのバッグ、ガチャガチャで取ったおもちゃ

ガキから巻き上げたくだらない何か


原田はここに住んでいる訳ではないが、自宅に持って帰る量と、持って来る割合が崩壊して、こうなった。


原田は来客用のソファーに座って、札を数えて、丁寧に半分折り曲げてから自分のポケットにしまうと、ばさりとテーブルに残りを投げ捨てた。




横柄に呟く

「今日の、取り分。僕、頑張った」

男は、原田の頭を撫でてやる。優しく、優しく、だ。


「よくやったな。ええ子や。俺が出世したのはお前の働きも多分にあるさけの。これからもようけ、働いてくれや」

「うん、まかせて。僕、働くから」


森は思い出す。


森は極道者だった。


いまでこそ、事務所を一つ構えていられるが、原田と出会った時は、まだしがないやくざの下っ端だった。


それは、偶然だったのだろう。


借金の取り立て、よくあるシーンだ。

泣く夫婦、怒鳴る男、絶望の少女、そんな中、少年がいた。


黙って、男を見ていた。


利子だけどうにかこうにかむしり取った森が、帰る道、


呼び止められた。


「あんた、極道もんやろ」

なにを、と振り返ると先ほどの少年がいた。


汚いシャツに、何日も風呂に入っていない体。


今時肌シャツに、半ズボン


坊主頭の少年は、ぎゅっ、と拳を握り締めて森に言った。


「僕、買うてくれへんか」

「なにを」

「体でもええよ。手伝いでもなんでもするで。殺されへんのやったら、僕、あんたの為になんでもしたる。僕を、買うてくれへんか」

「なにを言うてんのや、お前みたいなガキがでかい口叩くんやあらへん。」

「ガキやから、出来る事もようけ、ある。なんや、何をしたらええんや」



僕はあんたの為に、何をしたらええんや



その少年は、原田鉄夫と言った。


別に虐待を受けている訳でもない。

ただ、家は貧乏だった。


しつこく迫る少年を無下に返す訳にも行かず、いったんアパートに連れて帰って飯を食わせた。

当時森は、今は亡くなった母親と二人暮らしだったが、母親は何も言わずに原田に風呂を使わせて、飯を食わせた。



おい。なんで、俺に買って、なんか言うたんや


森が言うと


少年は米を噛みしめながら、ぼそりと言った。



「僕、もう、貧乏はいやや」


あのうちにおったら、ずっと貧乏や


もう、貧乏はいやや。


その、言葉はひどく冷徹な音がした。


いやな、響きだった。




3,


人が憎い、と思うようになったんはいつ頃やろうか


原田はごろりとベッドに横たわりながら思った。


ふかふかのベッド、広い部屋。みんな、みんな、人を食い物にした報酬である。


ポケットから札束を取り出して、丁寧に銀行から貰った封筒の中にいれる。


明日、また銀行に行って、入れてこよう。にんまりとして鼻歌を歌った。




てっちゃん、あんたゲームソフトも持ってへんの


あかん、あかん、こいつん家貧乏やから


おれ、こづかい5000円もろてんねん


うち、新しい自転車買うてもらうねん


おじいちゃんが小遣いくれんねん


今度、遊園地行くねん。もう五回目や



「…死んでまえ」


ふと、思い出された過去の思い出に思わず原田は呻いた。


金色に染められた髪を掻き毟ってしまいたくなる。


死んでまえ、お前ら全員死んで、俺に持ってるもん全部くれ


何回思ったか知れないだろう、思考だ。


原田の家は貧乏だった。


何かあるたび金、金、金、だ。


なににつけてもだ。


風邪を引いたら


「なにやってんの、あんた。医者に行くのにいくらかかるとおもてんの」


誕生日は手作りの、不細工な、出来そこないの、スポンジケーキだった。

それを喜ぶ子もいるかもしれないが、原田は綺麗な市販のケーキが欲しかった。

ケーキを買える癖に、手作りをする、それならいいが、金がないから手作りなのだ。


遊ぶ金もなかった。


友達も、いない


貧乏だからだ



悲しかった、とてつもなく虚しかった。


苦しかった。金と言うやつが憎かった。


金が欲しかった。



いつものように、取り立てが来た。


借金の取り立て、よくあるシーンだ。

泣く両親、怒鳴る男、絶望の姉、そんな中、原田がいた。



ぼんやりと突っ立っていた。


そして、むしり取られる札をみた。


父親が震えながら上に差し出す。それを乱暴にむしり取り、小さなブランドバッグに入れる男。


父親は泣く。


「死んじまうう、俺達は、もう駄目や」


そう言った。


(死んで、まえ)


そう、実の父親に思った。



「あいつら、悪魔や」


母親が言った。


原田は、その時、閃いたのだ。


(悪魔か。そうや、俺は悪魔になるんや。そしたら)


悪魔に


魂を売ってもええ、


その代わり、俺に物くれ


俺の幸せは


「…金しかないわ」


原田は、一人で笑った。


親や、姉の消息はもう解らない。知ろうとも思わない。


なんもいらん


他に何がいるというんや。愛は金で買えるで


人も、なにもかも


人は、原田を魂を金で売った人間と言う。


違う、と思う。


原田は金で魂を買っているのだ。


人は金で売れる


原田は

自分の命を金で買っているのだ。

 


4,



「てっちゃん。」


街中で、原田は声をかけられた。

顔なじみのチンピラだった。


「うん、どないしたん」


「ちょっと、相談、あるんやけどなあ。」



にやにやとした男、その後ろに見知らぬ男がいた。


原田は怪訝そうにチンピラをみた。


「誰、その人」

「うん、ちょっと俺の兄貴分みたいな人や。」

「あ、そう」


チンピラは雑踏の中、ある事を囁いた。


原田は、少し驚いたような顔をしたが、幾ら?と呟く


それから、顔を背けて呟いた。






「まいど、おおきに」






5,


悲鳴が、上がった。


「僕な、お金欲しいねん。森さん、消すだけやったらな。廃棄料もかかるやない?そやったら、稼いでもらおうと思うねん」


それから、布が破れる音がした。


原田は手に握った注射器を不思議そうに見ながら、注射器を押してみた。


ぴゅっ、と液体が弧を描いて床に落ちる。


「原価はヤクだけや。結構、いるらしいで、ちょっと年のイッたオジサンのビデオ欲しい人。女の子も買う人おるらしいよ。世の中不思議やね。なんでもお金になるね。」


「鉄…!!何をとち狂ってんねん!」


屈強な男性に組み敷かれ、わめく男がいる。


それは、昔、原田が自分を売った男だった。


その男を、売る。世の中、売り買いばっかりや、そう原田は思った。


ゆっくりと立ち上がる。


押さえられた森の腕が床に固定されている。きちんと腕をまくられて、


後はぶっさすだけだ。太い針を



原田は至極まともに言った。


「僕、狂ってへんよ。お金、欲しいだけやから。」


「お前、恩も忘れて、こんな真似しよって!罰あたるぞ!」




青年は不思議そうな顔をする。


それから、笑った。


「金、くれるんやったら、ええよ。」



まいど、おおきに





死んでまえ、みんな死んでまえ

みんな死んで、俺に物くれ

俺だけ、助かったらええと思う

俺だけ、上手に生きれたらええと思う


そやのに、みんなうまいことやって

俺だけが、いつも取り残される


くれてやる。魂も体もなにもかも

悪魔に魂を売れるところがあるなら

俺に教えてくれ

俺は喜んで売り出してやる。



そんで、天国の切符もまた金で買うたんねん。


誰か俺を



買わへんか?



【魂、売ります】完








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