所詮はお茶の間を濁すだけが役目
「オ、オヤジ!? なんだその恰好」
「イケてるだろう。さあかかってこい」
ソウメイの父親は黒の半ズボンに銀色のくさびかたびらを上半身に身に付けている。
「頭がおかしくなったのか親父。なら仕方ない、おれが貴さまを塵にして崖からふりまいてやる。くらえ、ファントム・エマージュ!!」
ソウメイは目の前の父親に向かって勢いよく飛び膝蹴りをかます。
それをさらりとよけ、3歩後ろへ下がる。距離をとった父親は華麗な手さばきで後ろポケットから黒い物体をすばやく取り出し、ソウメイに投げつける。それをソウメイは隠し持っていた鋭利なクナイで弾き飛ばす。
一進一退の攻防。
ホシは目のまえで繰り広げられている光景にただただ茫然とたちつくしているしかなかった。その無防備に開いた口には先ほどソウメイの父親からもらったたこやきの青のりがこびりついている。
ソウメイさんたちは何をしているんだろう。
真剣な戦いであるのか、はたまた茶番劇を見せつけられているだけなのか、二人の親子関係を知らないホシには判断がつかず、見守ることしかできなかった。
それはもちろん茶番劇でしかなかった。
「おい、バカ親父ここからどうするんだよ」
クナイとクナイを重ね合わせカチャカチャやっている中でソウメイは小声で親父にこの状況をどう処理するのか切実に尋ねる。
「とりあえずお前はやられとけ。やられたふりして叫べばいいんだよ」
「はっ。やだよそんなの。死ぬほど恥ずかしい。今も恥ずかしい思いしてるっていうのに」
醜態をさらされていることに対し、顔を真っ赤にするソウメイ。
それとは対照的に父親の顔はまじめなままだった。
「馬鹿野郎お前。そんなんじゃ、ホシちゃんは喜ばないぞ」
キン!!
クナイがはじける音がすると、二人は再び距離を取ってお互いに様子をうかがう。
瞬間。
「うおおーーーーー」
こうなったらやけだといわんばかりに、ソウメイは実の父親に向かって走り出す。湧き上がる羞恥心を捨て、目の前の獲物を狩りに行く。
「来いやー――」
父親も息子の勢いに負けじと迎え撃つ。
走り出してからの勝負は一瞬だった。
「そうか、これが……」
バタッ。
何かを言いかけ倒れるソウメイの父親。
地面に転がる父親を見下ろすソウメイはどことなくすがすがしさを纏っていた。
「ソウメイさん!」
ホシは喜びの声をあげながらソウメイに思い切り飛びついた。
「ホシみていてくれたのか」
「はい、見ていましたよずっと。その…とてもかっこよかったです」
「そうか、ありがとう」
ソウメイはホシに抱きしめられている痛みを感じながら、これが夢ではないことを実感する。
どうしてこんなことになったのだろう。ソウメイは今の状況の不気味さを噛みしめる。